冒険者ギルド
乗合馬車には初めは冒険者一行とタダシしか乗っていなかったが、鉱山都市に近づくにつれて増えていき最期となる現在の馬車には一行のほかに5人ほどの同乗者がいた。
「そろそろ城門が見えてくるはずだ。」
馬車から外を見ていたアレックスが並走しているタダシに言う。
「お、まじか。」
小走りで走りながら前方を確認するタダシ。
「確かに見えてきたぞ。おおお!凄いでけぇじゃん!」
目の前に聳えるのは白亜の城壁。
表面はなめらかで少しの凹凸もなく見える。
「乗合馬車は城門前までよ。ちょっと、待ってなさい。」
精巧な彫刻が施されている城門の横に通用門がありたくさんの馬車や人が並んでいた。
「待たせたね、じゃあ並ぼうか。鑑定書は持ってたよね。」
「あるぜ、あの紙だよな。てかこれ気付かなかったがどうやって出すんだ?」
鞄を開けても口は蜃気楼のようになっていて中身が見えない。
躊躇なく手を突き入れ漁ってみるが感触はない。
「取り出したいものを思い浮かべるといいよ。
中身を忘れた時は全て出ろと思いながら手を入れて逆さにするんだ。
そうするとすべて出てしまうけれど、とりあえず確認できるよ。」
「へぇ~、どれどれ...これかな?あ、あった。」
紙を取り出して片手に持ちながら列に並ぶ。
「で?これからどうするんだ?」
「これはタダシの意思を尊重するのだけど、選択肢としては二つほど用意している。
1つは僕たちと一緒に冒険者ギルドで登録をして、冒険者になる。
1つは司法院に所属し粛清士になる。
この二つだね。冒険者になる場合は、ほぼ今までと同じ生活ができる。
洞窟にいるか街にいるかの違いくらいだ。お金の心配は必要なさそうだしね。
粛清士になる場合は、司法院で洗礼の儀式を終えた後は修行と勉強漬けになるね。」
これからの選択肢を告げるアレックス。
「そりゃないぜ、アレックス。その選択肢だったらどう考えても一択じゃねぇか。
もちろん俺は、冒険者ギルドに行かせてもらうぜ。」
「まぁそうなるじゃろうなぁ。」
「一緒の冒険者になれるなんて嬉しいですっ。」
そうしていると列が消化されていき自分たちの番になる。
「鑑定書を見せてもらおう。」
「はい、どうぞ。」
「ふむ、ギルドに所属はしていないのか?所属していない場合、入街料として銅貨4枚を徴収する決まりなんだが。」
「まじか。これから冒険者ギルドに登録しに行くところなんだが。」
もちろん、金など持っていないので困惑するタダシ。
「なんだ金がないのか?だがこれは決まりだからな、どうしたものか。」
「ああ、すまない。彼は僕たちの連れなんだ。銅貨は僕が用立てておくよ。」
アレックスが後ろから声をかけ銅貨を支払う。
「ああ、いやまじで悪いな。あとで返すよ。」
「いやいや、この入街料はギルドに所属すれば返ってくるんだ。
3日以内に門番の詰所に報告に行かなきゃならないけれどね。」
そうしたことがありながら門を通って街に入る。
「おお~。」
石造りの建物、石畳、広い大通りを行きかう人、馬車、物。
行きかう人は、獣の特徴を有していたり、ウゴのように背の低いもの、リナリナのように耳がとがっているものなど多種多様だ。
「さ、お昼前に街につけたし、さっと登録してご飯を食べに行こうよ。
お昼はおごるよ、素材の査定には時間がかかるしね。」
「明日から大金持ちね。」
「そうなのか。ならありがたく奢られるぜ。ありがとな。」
大通りを進んでいくと盾の前に剣と杖が交差したエンブレムを掲げた石造りの立派な建物が見えてきた。
「ここが冒険者ギルドバルク支部だ。」
「ずいぶん立派だな。」
冒険者ギルドに入ると一気に喧騒が止み、視線が集中する。
しかし、アレックス達が視界に入ったのかまた喧騒が起こり始める。
「絡まれるかと思ってびびったぜ。」
「あからさまにビギナーじゃない限り絡んでくる奴などおらんわい。」
「そうよ、それに私達も腐ってもAランクパーティだしね。」
「ははは、そう謙遜するものじゃないよ。僕たちは実力を認められたからAランクになれたんだからさ。
あ、登録は一番左の受付だよ。ついでにその横は買取受付さ。」
なんとなく掲示板らしきものを眺めながら受付に行く。
(あ、文字が読めねぇな。文字はだめなのか、まぁ神様の手紙通りならすぐ読めるようになるか。)
受付には、長い髪を後ろで結った金髪の受付嬢がいた。
「冒険者ギルドにご登録をご希望ですか?」
「ああ、お願いする。」
「ではこちらの石板に手をかざしてください。鑑定書あれば提出をお願いします。」
石板は黒曜石のように透き通った黒紫色で魔法陣のような模様が青く光っている。
手をかざすと、一瞬強く白く光った後、ぼんやりと光り続ける。
「ぬおっ!なんだ...。」
「わぁ!凄い魔力強度ですね!それに魔力保有量もかなりありそうです。あ、もういいですよ。」
「あ、ああ。魔力強度ってなんだ?保有量はなんとなくわかるけど。」
気になった単語があってので聞いてみる。
「説明いたしますと、魔力強度とは魔力を一気に使える限界量のことですね。
魔力保有量は文字通り魔力を溜めておける限界量のことですね。はい、登録の方は完了です。
冒険者ギルドに関する説明は聞かれますか?」
「お願いするよ。」
要約すると、冒険者ギルドとは製造ギルド・商人ギルド・司法院を含めた四大ギルドの1つで主に戦闘系のギルドの総締めをしている。
ギルド加入条件は戦闘に有利な加護を受けていること。
ギルド内には様々なギルドが傘下におり、冒険者ギルドとは別に所属することで加護に合った訓練を行える。
冒険者ギルドはランク制度を導入しており、ランクに応じた魔物と一対一で勝つことで個人ランクが上がり、パーティを組んでいる場合ランクに応じた依頼をこなし昇格試験を受けることでランクが上がる。
ランクはEから始まり、D・C・B・A・Sと6段階ある。Sランクに上がるには、四大ギルドが発行する依頼を消化しなければならない。
「それで、買取をお願いしたいんだが...。」
「それなら、隣の受付へどうぞ。こちら、お預かりしていた鑑定書とギルドカードになります。」
免許証ほどの大きさの金属のカードと鑑定書を手渡される。
ギルドカードには、まだ読めない字がつづられていた。
(読めねぇな。ま、いいか)
隣の受付へ行き、買取を済ませうとする。
隣の受付には筋肉隆々の偉丈夫がいた。
「親父さん、買取を頼みたいんだが...。」
「お?新人がさっそく買取か?なかなかやるじゃねぇか。生ものはこの籠、それ以外は手前のトレイに入れとけ。査定は魔核ならすぐできるがそれ以外と一緒なら明日になるぜ。」
「そうなのか。ならとりあえず魔核だけで。人を待たせてるんだ。」
そう言いながら、魔核を取り出していく。
その数は相当多く雷を発する角狼を狩ってからもちょくちょく狩っていたのだ。
数が増えるごとに男の顔が引きつっていき、角狼の魔核を出した所で何かを言おうとするが次に出した大蛇の魔核に絶句する。
すると後ろから声が聞こえる
「おいおい!新人さんよぉ!本当にそれをお前が狩ったって?!嘘をつくなよおい!」
続きは来週