歯車の外れた日
天野直志 26歳 独身彼女無し
深夜のコンビニ帰り、その日運命の歯車が外れた。
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「あー、今日もマジ疲れたわ。なんだあの取引先のやつ
前の担当に変えてくれー」
在宅の仕事が終わり、いつもは寝るタイミングで今日は空腹が我慢できなくなりコンビニに参ったが…
「ふー、つい酒も買っちまったぜおい!深夜に酒飲むとは全く偉い気分になっちまうな」
コツ…コツ…
深夜故にか一人言が多くなっていたところ人の気配を感じつい黙る。そしてふと顔を上げると、向こうから黒のハットに黒のコート、黒いブーツと黒づくしのいかにも怪しい男がこちらに歩いてくる。
(なんかおかしいな)
そしてあと2歩ほどまで近づいた時、途端にその男が顔を上げる。
それはいかにも怪しいではない。
完全に怪しく、確実におかしい。
何故なら、その男は黒目が白く白目が黒い反転した目をしていた上、口は耳まで避けており乱杭歯であったからだ。
男は心が映し出されたかのように醜く笑う。
「いっ…!」
「ほう…活きのいい魂を見つけたな。
やはり私はあんな奴にやられるような存在では無い。
私は至上に至らねばならぬ、神を超える存在なのだからな。
ああ、やはりあれは逃亡などではなく撤退などではなく行進だったのだ!神に至る行進!たまらぬ!ああ、たまらぬ!
さぁ、魂をよこせ。定命の者!」
「何言ってやがる!イカレ野郎!」
おかしい男はイカれたようにまくし立てると、人間とは思えないスピードで飛びかかりいつの間にか凶器のごとく鋭くなった爪を天野に突き刺す。
「がはぁ…ごぼっ…」
為す術なく、命を奪われた天野が意識が消える直前に見たものは真っ赤に濡れた男と自分のものと思われる肉片だった。