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レイデンの頼み

 原因が分からないままでは、いくら考えたって解決策は浮かばない。悩み疲れた私はレイデンと話し合うことにした。


 たまには外で食べようと誘ったら、彼はあっさりと承諾してくれた。断られるものだと思っていたので拍子抜けだ。話の途中に逃げられないように、いつも村人で混み合っている料理店を予約しておいた。礼儀正しいレイデンのことだから、デートの席で私に恥をかかせるような真似はしないだろう。


 仕事が終わると二階に上がって支度にかかる。華やかな色のパレットでメイクを直し、王都の市場で一目惚れした青いワンピースを身に着けた。彼の『ミョニルンの目』には私のうわべなんて映りもしないのかもしれないけど、少しでもきれいに見えて欲しかった。


「気合、入ってるなあ」


 背後からの声に振り返ると、ベッドの上でケロがのびをしていた。


「やだなあ。いつからそこにいたの?」


「昼寝してたんだ。デートなんて久しぶりだね。レイデンは乗り気なの?」


「どうなんだろう? 嫌がってはいないようだけど……」


 ケロもレイデンの異変が気になるらしく、彼が一人で外出するときにはこっそり後を付けたりしているのだが、手がかりはつかめていないようだ。


 私は薄手の上着を羽織り、肩紐を付けた杖を背中に背負って、鏡の前でぐるりと回ってみた。


「へえ、デートにも杖を持って行くんだね。僕がいくら注意しても無視したくせに、レイデンに叱られたら反省するんだ」


「ごめんってば」


「その杖にくっついてる紐はどうしたの?」


「杖が重いって言ったら、ルーディがくれたの。若い子の間で流行ってる杖ホルダーなんだって。これなら両手が自由に使えるでしょ」


「杖は手で持つのが基本だろう?」


「使わないのに持ってても疲れるだけだよ? ケロって猫のくせにそういうところ、細かいよね」


「だって、握ってないと杖と話せないじゃないか」


 ケロはぷっとふくれた。


「杖が話すの?」


「握ってるといろんな情報が伝わってくるだろ? ハルカは感じたことないの?」


「うーん、出会った相手の強さなら分かるかな」


「それを杖と話すっていうんだよ。人によって感知できるものは違うんだけどね。能力もないのにファッションで持ってる人には理解できないのさ」


「そうなんだ。でもやっぱり重いから背負っていくよ。すれ違う人の強さなんてわかっても仕方ないし」


「そう言うと思ったけどね」


 ケロは私を説得するのを諦めて、布団の上に丸くなった。


 鏡に視線を戻して、おかしなところがないか最終チェック。表情が少し暗いかな。無理やり口角を持ち上げて、鏡の中の自分に微笑みかける。


 気に病むのはもうやめよう。レイデンは生涯を私と共に過ごしたいと言ってくれた。私が彼を信じなくてどうするの。さっさと解決して、以前のような楽しい毎日を取り戻そう。



        *****************************************



 階下に降りたら、レイデンはまだ机に向かっていた。手元には開封された紫色の封筒が見える。


「あれ? 『魔法院』から?」


「ええ、たった今、速達で届きました」


「何かあったの?」


「はい。シホさんの滞在許可が下りたそうです」


「え?」


 思わず駆け寄って、読めない手紙を覗き込んだ。学校からの報告にはすべて目を通している。滞在許可が下りるような結果は出していないはずなのに。


「どういうことなの?」


「いくら狼のゼッダが丈夫でも、あの傷で生きながらえるはずはないんです。最初から付き添っていたシホさんが怪しいということで、病院で調べたところ、彼女が強力な解毒の魔法の持ち主だと判明したんだそうです」


「それじゃ、ゼッダが助かったのはシホちゃんが付きっ切りだったから?」


「はい。現在、解毒の力を持つ魔法使いはエレスメイアにはいませんし、この先、ハーピーが再び『壁』を越えて現れないとは限りません。シホさんに是非戻って来てもらいたいとの事なんです」


 彼は淡々とした口調で手紙の内容を伝えてくれた。


「そうか。あなたはシホちゃんに滞在許可が下りるって知ってたんだね」


「はい。彼らの未来が見えましたから」


「それじゃ、ゼッダとシホちゃんはこれからも一緒にいられるんだ」


「ええ。寄り添って雪を眺めている二人の姿が見えたんです。つまり、留学を終えて帰国したシホさんが、冬までにこちらに戻って来るということでしょうね」


「そうか、よかったね」


「ええ……」


 どうしたんだろう? 彼にとっても嬉しいニュースのはずなのに、その声からはなんの感情も読み取れない。


「どうかしたの? 他にも何か見えたの?」


「……はい」


「……もしかしてシホちゃんたち、うまくいかないの?」


「いいえ、そうではありません。……同じ時に私たちの未来も見えたんです」


「それでずっと様子がおかしかったんだね。何が見えたのか話してくれる?」


「いえ、話せません」


「どうしてなの?」


「話したってどうにもならないからです」


「え?」


 彼は手紙を机に置いて立ち上がり、まっすぐに私に向き直った。


「……ハルカ。どうしても聞いてほしいお願いがあるんです」


「やだなあ。急に改まってどうしたの?」


「私と別れてくれますか?」


 いつもは暖かな光を宿している彼の瞳が曇った緑のガラス玉に見えた。


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