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山田さんの面談

 今期の留学期間も、半分近くが過ぎた。


 毎週、何百にも及ぶ項目に印のつけられたレポートが、学校から送られてくる。それを見ながら、生徒さんごとにどのような魔法の適性があるのか表に入力していく。これまでのところ、山田さんを除いては平均的な魔力の持ち主しかいないようだ。


 山田さんは使える魔法の種類も段違いに多かった。そしてどの魔法においてもやたらに魔力が強い。これはかなり珍しい事らしい。


 つい先日も彼が空を飛べることが発覚した。空を飛ぶ魔法を使える人は多いけれど、飛行ぞりのような乗り物を『魔具』として使うのが普通だ。でも山田さんは何も使わずに空を飛んでしまう。人間だけがスーパーマンのように飛行する能力は大変に珍しいのだ。


 今日は放課後に山田さんの面談が入っていた。生徒さんとは週に一回は直接会ってじっくりと話を聞くことになっている。


 学校から飛んで戻ってくるつもりだと聞いていたので、事務所前の広場に出て彼を待った。講師の許可が出た魔法に限り、学校外でも使ってよいことになっている。学校では彼が空を飛び回っても問題ないと判断したのだろう。


 ラウラおばさんや、他の広場の住人たちもぶらぶらと出てきて空を見上げた。しばらくすると王都の方角から、物凄いスピードで飛んでくる人影が見えた。広場の真上で急停止して、ゆるやかに舞い降りる。


「ハルカさん、レイデンさん、こんにちは」


 ふわりと着地すると、満面の笑みを浮かべて山田さんが挨拶した。


「これは凄いですね。ここまで自由に飛べる人は王都にもいないのではないですか?」 


 レイデンは賞賛のまなざしで山田さんを見つめている。見物人たちも口々に賛辞を述べた。


「いやあ、気持ちの良いものですね。乗合馬車を待たなくてもよいので便利なんですよ」


 山田さんは心底楽しそうだ。


「そうそう、ハルカさん、私、火もつかえたんですよ」


「火ですか? 見せてくれませんか」


「いいですよ。危ないから離れててくださいね」


 広場の中央に出て、両手を前に突き出す。合わせた掌の間から、オレンジ色の炎が噴き出した。火炎放射器のようだ。


 火を生み出す能力は珍しいものではないのだけど、火炎使いが少ないのは、生み出した火によって自らを焼いてしまうからなのだ。山田さんは火を生み出すと同時に防御も行っていた。


「山田さん、凄いよ」


「もう一度やってみてくれよ!」


 騒ぎを聞いた村人たちがぞくぞくと集まって来た。リクエストに応えて彼はもう一度、炎を出して見せた。


「山田さん、飛んで見せておやりよ」


 ラウラおばさんも声を掛ける。


 火を吹きながら空を舞う小さなおじさんを見て、さらにたくさんの人が集まってきた。村人たちも飛び入りで得意技を披露し始める。子供たちは、私が『飛行バイク』と呼ぶ車輪のない自転車のような乗り物にまたがり、山田さんの後を追った。


 仕事帰りの人も加わって、いつの間にかバーベキュー台が現れ、飲み物も回ってきた。この村では機会さえあれば、ストリートパーティが始まってしまうのだ。学校から戻ってきた生徒さんたちの姿も見える。


「ほれ、ハルカちゃんもあれを見せておくれ」


 村人たちのリクエストに、若い女の子が杖の先で大きな岩を転がして来た。


 あれと言うのはもちろん『ドラゴンスレイヤー』の呪文の事なんだけど、攻撃魔法を使うのは違法なのでリクエストされても困る。


「害獣退治の許可証があるんだろ? 練習ってことにすればいいのさ」


 ラウラおばさんが訳知り顔で笑う。まあ、たしかにそれなら問題はなさそうだ。


 学校帰りのシスカが興味津々な様子で近づいてきた。


「ハルカさんは何をするんですか?」


「害獣退治の呪文だよ」


 おばさんが私の代わりに答えた。村では私は『害獣退治のハルカ』や『代理店のハルカ』で通っている。村人たちは私が『ドラゴンスレイヤー』だと知っているけど、秘密が外部に漏れないよう気を遣ってくれているのだ。


「うわ、見たい、見たい!」


 シスカがぴょんぴょん飛び跳ねる。これだけ盛り上がってしまったらやるしかないな。私は事務所に戻り杖を取ってきた。


「レイデン、破片が飛び散らないように障壁を張ってくれる?」


「はい、ハルカ」


 彼は私の斜め後ろに立つと、すっと腕を伸ばして白い石のはまった杖を構えた。その姿は私なんかよりもずっと術者らしく見えて、思わず見惚れてしまった。


「準備はいいですよ。どうかしましたか?」


「やっぱり、レイデンは格好いいよね」


「え?」


 一瞬で赤く染まったレイデンの顔に村人たちがどっと笑った。


「そんなにハルカが好きなら早く『契約』を済ましちゃえばいいんだよ。誰かに取られちゃったらどうするんだい?」


 ラウラおばさんが茶々を入れる。


「俺も狙ってるんだけどなあ」


 そう言ったのは鍛冶屋の若大将のオルレイロだ。


「そ、それは困ります」


 レイデンはおろおろと周りを見回した。


「からかわれてるだけだってば」


「え? そうなんですか?」


 反応が面白いので村人には年中からかわれてるんだけど、なかなか慣れないらしい。


「でもオルレイロさんみたいなイケメンにハルカを狙われてると思うと落ち着きませんよ」


 オルレイロにはオーガの血が入っているそうで、筋骨隆々でいかつい顔つきなのだが、レイデンの『目』には格好良く見えるようだ。


「だから、気にしなくて……」


 レイデンは杖を地面に置き、いきなり私の手を握った。


「ハルカ、今期の留学期間が終わったら式を挙げませんか?」


「え、え?」


「ダメですか?」


「う、ううん。全然ダメじゃないよ」


 驚きのあまりおかしな返事をしてしまったけど、村人たちは歓声をあげて踊り出した。ストリートパーティはそのまま私たちの婚約パーティに様変わり。さらに多くの村人たちが集まって私たちのお祝いをしてくれた。


 お祭り騒ぎは、最後に私が岩を木っ端微塵に吹き飛ばしてお開きになった。


 結局この日は面談どころではなくなってしまった。けれども山田さんが留学生活を満喫しているのは明らかだったので、報告書にはそう記入しておいたのだった。


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