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レイデンの意外な才能

 午後からはレイデンを観光に連れて行く予定にしていた。選考会が終わったらすぐに帰国するので、今日しか遊ぶ時間はない。


「こぶ付きのデートになって申し訳ないが、ケロを連れて車で移動だな。『魔素』がないとレイデンがもたないだろう」


 そういえばそうだった。矢島さんの方が気が利くな。それにレイデンは目立ちすぎるから、電車やバスでの移動は危険だ。選考会前のこの時期、エレスメイア人が東京入りしてるんじゃないかという噂も流れている。レイデン本人だと気づかれる可能性も大いにあるのだ。私は車を止めてもらい、ちょっとダサめのセーターと大きなニット帽を買ってきた。


「俺の選んだかっこいい服はダメなのか?」


 矢島さんが恨みがましく訴えたが、あんなのを着せたら人目を引き過ぎる。


 長い黒髪はお団子にしてニット帽に押し込んだ。トレードマークの長髪を隠したらレイデンだとはわかりにくいはずだ。これにサングラスをかければ浮かれた外国人観光客に見えるかと思ったけど、やっぱり出しているオーラが違うな。不安だけどこれで出かけるしかない。


 平日の午後なのでそれほど混んではいない。矢島さんは携帯でこまめに連絡を取り、行く先々で駐車スペースが用意されるよう手配してくれた。


「VIP待遇っていいですね」


「ケロとレイデンに感謝しろよ」


「私だってタニファからの任務を背負わされてるんですよ。十分にVIPだと思いますが」


「それは機密だからな。留学代理店の社員のフリをしておけ」


 速足で観光スポットを巡り、遅い昼食に寿司屋に寄った。回転ずしのほうがレイデンが喜ぶと思ったんだけど、個室のあるところでないとケロを連れては入れない。見るからに高そうな料理屋に、裏口から入れてもらった。芸能人や政治家もここを通るそうだ。


「全部経費だ。好きなだけ食え」


 そう言っておきながら矢島さんは高級魚の刺身を食べまくるケロを睨みつけた。


「お前は食い過ぎだ。運んでる俺がどれだけ大変か分かってるのか?」


「僕がいないと選考会ができないんだろう? 海の魚が楽しみで来てるんだから、 『ICCEE(アイシー)』の職員さんにはせいぜい頑張って貰わないとね」


 そういってケロは大トロを一切れつるりと飲み込んだ。確かに『壁』に囲まれたエレスメイアでは淡水の魚しか食べられない。


 裏口から表に出ると、小雨が降っていた。レイデンは片手を頭上にかざし、そして、あれ、という顔をした。雨避けの魔法を使おうとしたのだ。時々、戸惑う様子がかわいいな。


 そうは言っても魔法の使えない生活にストレスを感じている様子はない。相変わらず物覚えが早く、ホテルに置かれた電気製品の使い方も一度で覚えてしまった。言葉さえ不自由でなければ、ここで暮らしても問題ないんじゃないかと思えるほどだ。


 雨が通り過ぎるまでカフェで食後のコーヒーを楽しみ、腹ごなしの散歩に出かけた。レイデンにとっては見るものすべてが珍しい。公園でコスプレイヤーたちが撮影をしているのを見て、彼は驚いた様子で足を止めた。エレスメイア人だと思ったようだ。彼にコスプレさせたら似合いそうだな、と一瞬思ったけど、それじゃいつものレイデンか。


 車に向かう途中、ゲームセンターに立ち寄った。所狭しと並べられたゲーム機とゲームに興ずる若者たちをレイデンは興味深そうに眺めて歩いた。


「お前もやってみるか? あそこにあるのなら俺でも少しはできるぞ」


 部屋の隅に置かれたレトロな雰囲気のアーケードゲームを矢島さんが指さした。こんなの今でも残ってるんだ。


「矢島さん、年がわかりますね」


「うるさいな。俺が手本をみせるから、真似してやってみろ」


 彼はゲーム機にコインを入れた。砲台を操って敵機を打ち落とすだけの単純なゲームだ。少しはできるどころか、相当うまい。若い頃やりこんでたな。レイデンは魅入られたように画面を見つめている。ゲームオーバーになると矢島さんはレイデンに場所を譲った。

 

 最初のうち操作に戸惑って砲台を続けてなくしてしまったが、コツをつかむと凄かった。落ち着き払った表情で攻撃をかわし、敵を残らず撃ち落とした。


『ミョニルンの目』の力? そんなはずはない。ここには『魔素』はないんだから。正確で無駄のない、まるで機械のような動き。この人にこんな才能があったなんて。


 最後は矢島さんがゲームオーバーしたステージを一つ越えたところで、初めて登場した敵にやられた。


「こいつ、さっき俺がやったのを覚えてたのか?」


 矢島さんは探るような目でレイデンを見ている。


「そうだとしか思えませんね」


「まるで魔法だな。ケロの『魔素』が漏れてるんじゃないだろうな」


 彼はペットキャリアの蓋を確認した。漏れていれば私たちだって感じるはずだし、現にレイデンは私たちの会話が理解できない。魔法が使えたはずはないのだ。


「レイデン、凄かったよ」と声を掛けると、褒められたのが分かったらしく嬉しそうに笑う。さっきとは雰囲気が全然違うな。物覚えがいいとは思ってたけど、まさかここまでとは驚きだ。


「ねえ、レイデン。記念にプリクラ撮ろうよ」


「よし、ケロも一緒に入るか」


 矢島さんがキャリアからケロを引っ張り出して抱きかかえた。


「え、矢島さんがプリクラ?」


「記念なんだろ? 後でお前らだけで撮らせてやるから、俺たちも入れろ」


 出来上がったステッカーをケロのケージに一枚貼って見せたら、レイデンはものすごく感銘を受けたようだった。あっちに帰ったら杖に貼ろうっと。


「ドラッグストアに寄ってもいいですか?」


「今日はもう帰ろう。明日の朝は早いんだ。お前たちはすぐには寝そうにないからな」


「そんなことないですよ。ねえ、レイデン」


 同意を求められても理解できないレイデンは、私の手を握ったままとろけるような笑顔を浮かべた。こりゃ、明日も寝不足になりそうだな。


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