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本社からの手紙

 留学事務所に戻るとレイデンが大きな封書を差し出した。


「ディアノの本社からです」


『ディアノトラベルサービス』という超大手の旅行会社が、私が勤める『ディアノ留学センター』の親会社だ。イタリア語ですか、とよく聞かれるのだけど、単に社長が鹿野さんという名前なので『鹿=ディア』と『野』でディアノなのだ。本人は社名を考えるのが面倒になって適当につけたと言っていた。


 中にはリゾートホテルのパンフレットが入っていた。フィリピンの離島にオープンしたての高級ホテルらしい。


「来期の一次選考会の宿泊先だって。前回日本に行ったとこだし、次はやめとこうと思ってたんだけどな」


「人手は足りてるんですか?」


「うん、行きたくなければ行かなくてもいいって。私がたまに外界に戻れるように、気を遣ってくれてるんだと思うよ」


 私がエレスメイアに送り込まれることになった経緯や『ドラコンスレイヤー』の能力がある事を知っているのは、社内では社長だけだ。それもあって、仕事の連絡はすべて社長と直接やり取りしている。


 社員という建前にはなっているが、実際のところ、私の所属ははっきりしない。国際機関である『ICCEE(アイシー)』を通してエレスメイアに派遣されている形にはなっているけど、『ICCEE(アイシー)』の職員でもなく、エレスメイアでは『魔法院』公認の魔法使い、つまり公務員のような立場にいる。


 日本は自国民を派遣しているという形にしたいようだし、タニファと私の出会いの場所であるニュージーランドもこの件には優先的に関与させろと主張している。お陰でジョナサンやフイア達との交流はいまだに続いているのだけどね。ちなみに永住権どころか国籍のオファーまで貰ってしまったのだけど、当分戻ることはなさそうなので保留になっている。


「フィリピンか。七月だと暑そうだな。せっかく豪華なホテルに泊まってもプールで泳いでる暇はなさそうだしね」


 選考会は毎回違う国で行われる。海外への渡航費を捻出できない人を含め、なるべく多くの人にチャンスを与えるためだ。


 前回は私とレイデンとケロの全員で行ったので、事務所を留守にしなければならなかった。生徒さんのいない時期なので問題はないんだけど、一応、留守番も頼まなきゃならないし、旅行の準備をするのも面倒だな。


「僕は行きたくないよ。来年ならいいけど」


 窓際で表を眺めていたケロが振り返った。


 どういういきさつなのかは知らないけれど、ケロは何度も外界に呼ばれている。三年前、ニュージーランドで彼に出会ったのだが、あの時はニッキの通訳として派遣されていたそうだ。


 通訳と言ってもケロが通訳するわけではない。彼の身体から溶け出す『魔素』のお陰で、ニッキとジョナサン達『ICCEE(アイシー)』の職員が翻訳魔法を使えるようになる仕組みなんだけどね。


ICCEE(アイシー)』から依頼を受けて、エレスメイア国は外界にニッキのような国民を派遣している。主な任務は『魔素』探知だ。


 魔法の生き物を見た、とか、不思議な現象に出会った、などの『遭遇』事件の報告を受けると、現場へおもむいて、『門』が出現していないか、または出現した痕跡がないか調査する。『魔素』を探知できるのは魔法が使える人間だけだ。


 エレスメイアが協力的なのは、外界側に新たな『門』が出現することを期待しているからだ。エレスメイア国を取り巻く『壁』は誰にも越えられない。『壁』の向こうにまだ何かが残っているのなら、外界経由で接触するしか方法はない。


 毎年、全世界で『遭遇』の報告は何百とあるのだけど、実際に『魔素』が見つかったのは、今まででたったの一度きり。私とタニファが出会った時だけなんだそうだ。



「私たちが行くのが見える?」


 まずはレイデン確認を取った。『ミョニルンの目』が見た未来は必ず現実となるので、見えたんだったら行くしかない。


「いえ、今のところは何も見えませんね」


「じゃあ、今回は断っておくね」


「はい」


 そう答えたものの、彼は少しだけ残念そうに見えた。レイデン、本当は行きたいんじゃないのかな?


「ねえ、レイデン。今期の生徒さんが帰国したら、休暇を貰ってドイツ旅行に行かない?」


「え? ドイツですか?」


「近場だし、一週間ぐらいなら許可はもらえると思うんだ」


 彼の目が輝いた。


「行きたいです!」


「じゃあ、社長と『本部』に連絡しておくね」


 レイデンが外界へ行きたがるのには、わけがある。


 『魔法世界』で生まれ育った人間が『魔素』のない外界へ行くのは、苦痛でしかないのだけど、そんなことはどうでもよくなってしまうほどの切実な理由が彼にはあるのだ。


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