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黄金竜ドレイク

 その二日後、授業中に呼び出しを受けた。私が留学生になったのはこちらの生活に馴染むのが目的だったので、授業を抜け出しても支障はない。でも、使う機会なんて一生なさそうな『ドラゴンスレイヤー』の能力以外にも何か見つかるんじゃないかと思うと、一日も休みたくはなかった。


 それでも『魔法院』の院長からの呼び出しだと言われると、行かないわけにはいかない。急ぎなので飛行ぞりを使うようにと言われたのだが、かたくなに拒否して馬車で『魔法院』に向かった。


 『魔法院』の近くまで来ると、本館前の広場に複雑な形をした巨大な金色の塊が見えた。日の光を反射して明るく光り輝いている。背景のガラス張りの本館にも光が照り返して何がなんだかわからない。私は目を凝らした。


「ねえ、あれ、何に見える?」


「ありゃあ、でかい竜のようですな」


 私の質問に答えると、馬車馬はいきなり足を止めた。


「お客さん、ここで降りてもらっていいですかね? 近寄りたくないんで」


 そう言うと、馬はまだまだ門まで距離があるというのに私を下ろし、駆け足で元来た道を引き返していった。


 馬鹿でかい金色の竜というとドレイクかな? 『魔法院』で何してるんだろう? 呼び出された理由はやっぱりあれだよね。


 馬車を追いかけて走り出したい気持ちを抑えて、私は門までできるだけゆっくりと歩いた。


 門の手前で院長とアミッド、あともう一人、『上級魔法使い』のローブを纏った小太りで愛想の悪そうな男が私を待ち受けていた。


「遅かったですね。飛んで来いと伝えたはずですが」


 用意してあったローブを私の頭からかぶせながら院長が言った。


「すみません。高いところが苦手なんです」


「おや、そうだったんですか? それでは仕方がありませんね。お客さんはお待ちかねですよ」


「あの竜、ドレイクでしょう? どうしてこんなタイミングで現れるんですか?」


「どこからかあなたの噂を聞きつけたようなんです。新しい『ドラゴンスレーヤー』を出せと要求してます」


「ドレイクが最後に人に話しかけたのは七十八年前だ」


 小太りの男がぼそっと言った。


「ええと、こちらは?」


「こいつは二人目の『スレイヤー』のエルビィだ」


 アミッドが紹介してくれたので、「よろしくお願いします」、と挨拶したのだが、男は私を横目でちらっと見ただけでドレイクの方を向いてしまった。私、嫌われてる?


 気にはなるけど、今はそれどころじゃない。


「どうしてドレイクが私の事を知ってるんですか? 機密の扱いになるって聞いてましたよ」


『魔法院での出来事は魔法院にとどまる』と聞いていたのに。


「たまにはこういうこともあります。さあ、行きましょう。ドレイク相手に実地で練習できるなんて、滅多にないチャンスですよ」


 院長が私を促した。


「ええ、あんなに大きいのを撃てっていうの? 怒っちゃったら?」


「本人の希望なんです。あなたの力を試したいようですね」


「ええ?」


「これ以上は待たせられません。行きましょう」


「ちょ、ちょっと待ってください。怖いです」


「お前ならたぶん大丈夫だ」


 アミッドが私の肩をぽんと叩いた。励ましてるつもりらしい。


「ほら、これを持っていけ」


 彼は私から学校支給の杖を取り上げて、代わりに自分の持っていた長い杖を手渡した。透き通った青い石のはめ込まれた焦げ茶色の杖。石の少し下には三本の銀のラインが埋め込まれている。憧れの『ドラゴンスレイヤー』専用の杖だ。


「こ、こんな凄い杖、借りちゃっていいんですか?」


 うっとりと杖を見つめる私を見て、アミッドが笑った。


「それはお前のだ。任命式で渡すはずだったんだがな。ちょうど今朝仕上がったので持ってきた」


「え? 私の? これが?」


 本物の『スレイヤー』の杖だなんて格好良すぎるよ。こんなのもらっちゃっていいのかな? 


「おい、どうした?」


「感動してるんです。アミッドのとお揃いですね」


「お前のは特別仕様だけどな」


 確かに彼の杖の三分の二ほどの長さしかないな。


「短くしてくれたのはいいんですが、ずいぶんと重いんですね」


 アミッドが笑った。


「サイズの話じゃない。お前の未知数の魔力に合わせて頑丈に作ってもらったんだよ」


「え?」


「重いのはパピャイラの芯の密度の高いとこを使ったからだ。俺のよりもずっと丈夫だぞ」


 そこまで期待されると余計に杖が重く感じられるんだけど。


「いいか、ハルカ、奴の目を見るなよ」


「はい。でもどうしてですか?」


「理由は俺も知らんのだ。だが昔から竜の目を見るのは危険だと言われているからな」


「ガブルの書には、目を合わせると竜が人の魔力を奪うと書かれている。ある外界の伝承では竜に魂を奪われ隷属することになるとあるが、信憑性は低いな」


 エルビィと呼ばれた男がぼそりと解説を挟んだ。なんなの、この人?


「さ、ハルカ、行きますよ」


 院長が私の肩を押す。新しい杖を握ったらなんとでもなりそうな気分になって、私は思い切って門をくぐった。

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