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週に一度の竜の日

『ドラゴンスレイヤー』である私は、毎週一度は『王立魔法院』に出向かなくてはならない。力には義務が伴うのだ。メルベリ村から『魔法院』までは徒歩で四十分ほどなので、運動がてら歩いて通うことにしている。


『魔法院』にはいつもたくさんの人が出入りしている。その多くは研究員や『院』の運営にかかわる人たち、そして『魔法院』公認の『魔法使い』達だ。エルスメイアの人間は、ほぼ全員が『魔法使い』なのだが、特殊な魔法を使う者や、魔力の強い者は『魔法院』によって様々なランクの『魔法使い』に認定される。


 分類が細かすぎて、私の翻訳魔法では追いつかないので、ランクの高い者は全部ひっくるめて『上級魔法使い』と呼ぶことにしているんだけどね。


『魔法院』公認の『魔法使い』は銀色のラインの入った長い杖とローブを与えられ、ラインの数によって、大体のランクが分かるようになっている。私の知る限り、三本ラインが最高のようだ。ラインの下に記号が入っていることもあるのだけど、私には意味が分からない。『魔法院』に関しては、いつまで経っても分からないことばかりなのだ。



        *****************************************



 今日も『魔法院』から事務所に戻る途中、黄金色の竜が私の前に舞い降りた。舞い降りたといっても、カモメが着地するようなかわいいものではない。胴体だけでタンクローリーぐらいある生き物が、斜めに突っ込んでくるのだ。強風でスカートが風でめくりあがり、それを慌てて押さえた私の身体も吹き飛ばされた。


 お尻の砂を払いながら私はふくれっ面で立ち上がった。


「もっと遠くに下りてって言ってるでしょ? 何度言ったら覚えるわけ?」


「すまん、すまん」


 全然、すまなくなさそうな口調でドレイクが言った。


 彼の本名はドレイコニャウルシィとかなんとかいう舌を噛みそうな名前なのだが、例にもれず、エレスメイア人にしか発音できないので、外界人の間では『ドレイク』で通っている。


 私たちの使うドラゴンという言葉は、彼の名前が派生して出来た語だという説もある。それほどの大昔から存在している竜なのだ。体長はスーラの五倍はある。全身が金色だけど目の玉だけは黒い。強くなってきた春の日差しがウロコで反射されるものだから、目がちかちかする。


「おう、ハルカ、元気か?」


「まあね」


「今期の生徒はどんな具合だ。よさそうなのはいるのか?」


「まだ一か月ちょっとだから、やさしい呪文しか習ってないの。でも山田さんがなかなか凄いみたいなんだ」


「ほう、あの小さな男だな」


「よく知ってるね」


「だって、見たからな」


「ええ? いつ?」


「着いた初日だ」


 ああ、こいつが馬車すれすれの低空飛行したときか。


「生徒さんを脅かさなくってもよかったでしょう? 撃ち落としてやろうかと思ったよ」


「お前の顔が見たかったのだ。しばらく外界にいて会えなかったからな」


「五日間だけだよ」


「俺は週に一度のこの時間をなによりも楽しみにしているのだぞ。つれないことをいうのではない。それに留学生にはサービスしてやっただろう?」


「はあ?」


「いい写真が撮れたんじゃないのか?」


『エレスメイアの木』の周りを飛んだことだろうか? あれはサービスのつもりだったのか。


 さっさと歩き出した私の歩調に合わせて、ドレイクもゆっくりと歩き出す。竜が歩くときは四本の足を使う。トカゲが地面を這うのとは違い、胴体は私のはるか頭上にある。


「なあ、そろそろ俺の卵を産んでくれないか?」


 ああ、また始まった。


「やだってば」


「どうしてだ?」


「彼氏がいるっていったでしょ」


「俺は気にしないと言っているだろう」


「私が気になるから」


「『目玉』の小僧がそんなにいいのか?」


「うん。凄くいい」


 ドレイクにはレイデンの『ミニョルンの目』が見えるらしい。


「小僧は気にせんだろ?」


「すると思うけど。それにあなた、派手すぎると思わない?」


 竜は目を丸くして自分の身体を見た。


「そうなのか?」


「うん。名古屋城の金のシャチホコっぽいよ」


「それはなんだ?」


「私のタイプじゃないってこと」


「参るなあ。生まれつきこうなんだ。それじゃ、俺が派手じゃなければいいんだな?」


 竜は真面目腐った顔で尋ねた。


「そういう問題じゃないでしょ? あなたとそういう関係になるのが物理的に無理だと思わないの? 馬鹿なんだね」


 彼は自分の巨体と私の身体を見比べた。


「確かになあ。ハルカももっと育ってみればどうだ」


「やっぱり馬鹿だね」


 ドレイクと週に一度、ここで会うようになってもう三年近くになる。彼は何十年もの間、ほとんど人に姿を見られることもなく北の山地にこもっていたのだ。


 意図せずにして、私が彼の興味を引いてしまうまでは。

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