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狼とホームステイ

 学校が始まってあっという間に一か月が過ぎた。生徒さん達は毎日が楽しくて仕方ないようで、ちょっとした相談を受けることはあっても、苦情は一つもない。


 ここまでは難易度の低い魔法しか習っていないので、滞在許可についてはまだわからないが、山田さんの使える魔法が平均よりも多く、それぞれの魔法において魔力もかなり強いようだと報告を受けた。


『魔力』という言葉の定義は、魔法の使えない外界人には理解しにくいかもしれない。『魔力』とは『魔素』から魔法を引き出す力の事だ。そして、使う魔法によって『魔力』の強さは異なる。


 例えば、北アメリカ地区担当の代理店のジャニスは、強い『魔力』の持ち主と呼ばれているが、それは『水を操る魔法』に限っての話で、他の魔法に関していえば、むしろ『魔力』は平均以下といっていい。


 つまり、エレスメイアで『彼は強い魔力の持ち主だ』と言う場合、たいてい『一つか二つの魔法に秀でている』という意味なのだ。オールマイティーに魔法が使える『魔法使い』なんてものは存在しない。



        *****************************************



 このまま、残りの三か月も平穏に過ぎそうだな、なんて思った矢先に問題発生。シホちゃんのホストファミリーが親戚のお葬式に参列するため、北部の村に二週間ほど行かなくてはならなくなった。


 慌てて探したのだけど、どうしても代わりのホームステイ先が見つからない。 


「ゼッダのところはどうですか? 先週、旅先から戻ってきたそうですよ」


 レイデンが提案した。


「あそこ、女の子はどうかなあ?」


 ゼッダは一人暮らしの男性だ。いつも喜んで生徒さんを受け入れてくれるのだが、今回はちょうど旅行に出ていたので、お願いしなかったのだ。


 見た目は武骨な感じだが、根が優しく親切なので、いつも生徒さんとは涙の別れになる。でも、女性の受け入れはどうだろう? 本来なら男性一人のお宅に女性をステイさせるのは避けるべきなんだけど。


「二週間だけでしょう? 彼は超イケメンですから、問題はありませんよ」


 彼のいう超イケメンは『超いい人』とい意味だ。まあ、ゼッダは私の目から見てもワイルドな感じのイケメンなんだけどね。ワイルドなのは彼が『人狼』だからってのもあるんだろうけど。


 レイデンの『目玉』を信用して、ゼッダにお願いすることにした。翌日、シホちゃんは彼の家に移動した。



        *****************************************



三日目の朝、ゼッダが事務所にやってきた。


「昨日のことなんだがな。仕事の後、狼に戻ってごろ寝してたんだよ。そうしたらシホが入ってきてな、うわあ、可愛い犬って言って触るはなでるわ、しまいには抱きついてくるんだよ」


「ハルカ、シホさんにゼッダが『狼』だって伝えましたか?」


 レイデンがいつもの真面目腐った顔で私に尋ねた。


「ごめん、忘れてた」


「やっぱり」


「動物好きだから大丈夫だと思って……」


「なるほど、犬を飼ってる家庭だと思ったんでしょう」


 ゼッダが困った顔で頭を搔いた。


「で、起き上がって、俺はゼッダだというのも憚られてなあ」


「犬のフリしてたの?」


「だって言いにくいだろう?」


 そりゃそうだ。


「ごめんね。私のミスだ。帰って来たら伝えるよ」


「おいおい、散々抱きつかれた後にか? やめてくれよ」


 それにしても狼の姿のゼッダはラブラドールの三倍はある。真っ黒でお世辞にもかわいいとは思えないのだけど、シホちゃんはどこまで動物好きなんだろうか。


 ゼッダはもじもじと言った。


「それだけじゃないんだ。ゼッダさんはどうして怒った顔してるのかなあ、って話しかけて来るんだよ」


「怒った顔してたの?」


「いいや。でも必要なこと以外は話さなかったな。女の子とは何を話していいかわからなくてな」


「こわもてが黙ってちゃ怖いよね」


「そうだよなあ。わかっちゃいるんだがなあ」


 ゼッダは頭を掻いた。


「ホームステイ先を変わりたいって言われてな。落ち込むよなあ。他のとこに移してやってくれよ」


「今、どこも空いてないんだ。ちょっとだけ待ってくれる?」


「仕方ないなあ。早くしてくれよな」


「怖がらせないように、なるべく笑いなさいよ」


「そうするよ」


 彼は大きなため息をついて、事務所から出て行った。とんでもない失敗をやらかしてしまったようだ。私は申し訳ない気持ちで、ゼッダの背中を見送った。

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