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レイデン、飛び出す

 木曜日の午後になって私は彼に声をかけた。


「明日は来てもらわなくていいよ」


「そうですか……」


 レイデンは深く頭を下げた。


「短い間ですがお世話になりました」


「え? 違う違う!」


 誤解させてしまったのに気づき、私は慌てふためいた。


「い、今の時期は仕事が少ないから、週に三日間休みを取ってもらってるの。今週はずっと来てもらっちゃったから。だから次は月曜日に来てくれればいいよ」


 意味が分かれば安心するかと思ったのに、彼の表情は曇ったままだ。


「どうしたの?」


「勝手な事言ってすみません。今日で仕事はやめます」


「な、なんで? 気に入らなかったの?」


「いえ、でもハルカさん、私の事が気になってるでしょう? それもかなり」


 ありゃ、気づかれていたか。


「ごめんなさい。嫌がらせするつもりじゃなかったの。素敵だなあと思って……」


「いえ、そうじゃないんです。私もあなたが気になってしまって……」


「え?」


 どきんと心臓が跳ねた。それじゃ私たち、お互いに好意を持ってるってこと? それなのにどうして彼が仕事をやめなきゃいけないのかわからない。


「なーんだ、レイデンはハルカが好きなんだね」


 気づけばケロが足元で私たちを見上げていた。


「すみません。会った瞬間に惹かれてしまって……これではいけないと思い、仕事も辞退するつもりだったのですが」


「辞退?」


「でもまた会いたくて今日まで……」


「ねえ、意味がわからないよ。どうして私が好きなのに、仕事を辞めなきゃならないの? うちは職場恋愛は禁止じゃないよ」


「そうじゃないんです。私はあなたにふさわしくないからです」


「はい?」


「私みたいな醜い者にハルカさんを好きになる資格はありません」


 私は絶句して目の前の超イケメンの顔を見つめた。何を言っているのかまったく理解できない。すでに異世界にいるっていうのに、私の常識が通じないまた別の世界に引きずり込まれてしまったかのようだ。


 彼の大きな緑の瞳は涙でうるんでいる。


「もう来ません。お世話になりました」


 そう言うなりレイデンはバッタのようにドアから飛び出していった。突然すぎて引き止める暇もない。


「ケロ、追いかけて!」


「僕じゃ追いついても止められないだろ?」


 それはそうだ。


 レイデンはもうすでに広場を横切って、森へと続く小道に入ろうとしている。どれだけ足が速いのさ。机の後ろに立てかけてあった長い杖をつかむと彼の後を追った。最近は走る機会なんてないので息が切れる。森に逃げ込まれてしまったら捕まらない。


ーー仕方ない。


 杖を彼の後姿に向けて、小さく呪文を唱えた。青い光がひらめき、小道の手前で彼が転ぶのが見えた。


「ハルカ、殺す気なの!」


 ケロが叫んだ。


「ちゃんと手加減したってば」


「転んで怪我したんじゃないの?」


「だってわけも分からないまま行かせられないよ。このままじゃ気になって夜も眠れないでしょ?」


 レイデンは驚愕に目を見開いて、転んだその場に座り込んでいた。


「ハルカさんが……撃ったんですか?」


「ごめん。止まってくれないから。つま先がびりっとしただけでしょ?」


「人に見られたらどうするんですか? 攻撃魔法は違法だって知ってますよね?」


「知ってるよ」


 撃たれたのは自分なのに、私の心配をしてくれているらしい。私は手を差し出したけど、彼は自分で立ち上がった。


「事務所に戻ろうよ。逃げたらまた撃つからね。私、害獣退治の許可証を持ってるから、間違って撃っちゃいましたって言えば、罪には問われないでしょう?」


「いえ、その場合は罪に問われますよ」


 彼は生真面目に私の間違いを正したが、私が本気なのは理解したらしく、おとなしく事務所に戻って来た。来客用のソファに彼を座らせ、逃げられないように隣に自分も腰を下ろす。


「醜いってどういう意味? 私には物凄いイケメンに見えるよ」


「いえ、本当は醜いんです」


 この人、妄想癖があるんだろうか? どうしたらいいのかな?


「頭がおかしいと思ってますよね?」


「そんなこと、思ってないよ。妄想癖があるのかなって思っただけで」


「やっぱり。私にきちんと説明させてください」


 説明できるんだったら最初からしてよね。と思わないこともないが、まずは話を聞くことにした。


「私は人に触れることが出来ないんです。肌を触れ合わせると、相手に私の本当の姿が見えてしまうからです」


「だから手袋してるの?」


「はい、そうです」


「で、どんな姿なの? 見せて」


「ダメです。ハルカさんに嫌われてしまいます


「どうせ逃げるつもりだったんでしょ? じゃあ、見せてくれてもいいじゃない」


「でも嫌われたくはないんです。惨めになるじゃないですか」


 これじゃ埒が明かない。私は手を伸ばして彼の顔に触れた。


「ああ! やめてください!」


 彼は慌てて逃げようとしたけれどもう手遅れ。私は見てしまった。


 そして……悲鳴を上げた。

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