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BITTER CANDY ~黒い歴史の1ページ~  作者: 梅雨ゼンセン
第一章 ―横断歩道の老婆―
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2.陀宮奈々子さんとは?

 


 陀宮さんには霊能力と言ったらいいのか、そう言った力がある。もっとも、一般にいう霊媒師とは違って、彼女ができることは、



 『見る』こと、

 『見せる』こと、

 あと『干渉』ことだけだそうだが。


 陀宮さんはその能力を売りにして依頼を引き受けているのだ。彼女の枕元にあるパソコン。あそこに依頼者からのメールが届く。

 もっとも、彼女曰く「広まるならば表に出ないくらいが丁度良い」らしく、大々的に宣伝しているわけではない。アドレスも一部からこっそり流し、噂程度に伝わるようにしている。それでもネット上で陀宮さんを訪ねてくる人はそれなりにいて、マイナーと呼ばれるくらいには有名らしい。

 脳内で語ったところで一つため息を吐き、「さて、」と僕は席を立つ。陀宮さんが帰ってくるのは午後の三時過ぎくらい。少なくても四時には帰ってきているだろう。それまで僕は下で店番だ。

 それに合わせて塚井さんも「私もそろそろ仕事」と席を立ち、台所に向かう。まずは皿洗いからのようだ。と、僕の分も洗ってくれているのが見えて、

「本当にありがとうございます」

「どしたん、いきなり(かしこ)まって?」

 思わず頭を下げた僕に、塚井さんは可笑しそうにする。それに僕は何だか今更妙な恥ずかしさが滲んできて、誤魔化すように笑い返した。

 二階の玄関を出て階段を降りる。今日の仕事はとりあえず掃除からだ。埃は掃除しないとすぐに溜まってしまう。

 そしてそれが終わったら好きな本を読む。

 特出して本が好きというわけではないのだが、やはり面白いものは面白い。ちなみに僕は、『本は紙媒体のものでないと』という拘りを持っている。というか、電子書籍だと目が疲れる。それになんだか読んでいる気がしないし……やはりこの手に持った質感、紙の重さ、ページをめくる時の紙を指で弾く感じ。あれらがないと読んでいるという気がしない。

 うむ。ここまで語っていると「結局特出して本が好きなんじゃん!」と言われそうだが、そんなことはない。ゲームも好きだしアニメも見る。いうなら『物語が好き』というのが正しい。教科書や参考書などはまったく集中できなかった。

 難儀な人間だな、と我ながら思いつつ僕はエプロンをし、ハタキを持って本棚に向かうのであった。直接訪ねてくるお客なんて、この一年で数えるほどしか見たことがないが、掃除は欠かしたことがない。

 ……というかこれ以外にやることがない。

 流石に読書をするにしても何かしら仕事らしいことをしないと落ち着かないし。まあとりあえず、陀宮さんが帰ってくる三時過ぎまで時間が有り余ってるし、ゆっくりやろう。




 時間は平等ではない、的なことを言ったのはアインシュタインだったか。あまり理工系に関心がないからなぁ……相対性理論とか名前しか知らないし。

 まあとにかく。僕が何を言いたいかというと、本を読んでいると時間があっという間に過ぎていたということだ。

 視界の端、入口のところに人影が見えて顔を上げると、陀宮さんが立っていた。

「店番ご苦労様」

「お疲れ様です。陀宮さん」

 彼女の顔には疲労の色が見える。

 陀宮さんは気だるげにため息を吐き、僕は本を閉じて急いで支度を始める。読むことに没頭していて何の準備もしていなかった。

 もっとも、支度するものはほとんどないのだが。準備するものと言ったらスーツを着るということぐらいだ。こういった依頼は大抵訳ありのことが多い。それに霊関係なのだから高い確率で何か、もしくは誰かが亡くなっている。故にこんなくたびれたパーカーで行くわけにはいかないのだ。

 ちなみにスーツは二階のダイニング横の物置にあるので、僕は走って階段を上がる。

 少しして僕がスーツを着て降りてくると、陀宮さんはカウンターのところにある、さっきまで僕が座っている椅子に腰かけ、本を開いていた。僕がさっきまで読んでいた本だ。

「近森君ってさ、本当に本が好きだよね。これずいぶん前にも読んたし」

「森近です。その本は三周目ですね」

 ふ~ん、と陀宮さんは本をパラパラとめくった後、結局興味なさげに閉じてカウンターの上に置く。そして椅子から立ち上がって眉をひそめて僕を見る。

「先の分かっている物語を読んで楽しい?」

「まあ、そうですね。時間が経つとどんなに衝撃的だった作品でも朧気になってくるんですよね。所々忘れてるんで結構楽しめますよ?」

「ふーん、なるほど」

 彼女は少し感心したようにカウンターから出てくると「よし、行こうか近森君!」と意気揚々と入口の方に歩いていく。さっきまでの疲れた顔はどこへやら。

 僕は「森近です」と返してその後を追った。



      ・・・



 店の車を運転して十五分。僕はスーツで陀宮さんはセーラー服のまま。学校があるため依頼はいつもお昼過ぎから夕方になる。そのため陀宮さんの仕事着は基本セーラー服である。

 近くの業務用スーパーの駐車場に停め、少し歩いて着いた所は二階建ての一軒家だ。

 壁はベージュで屋根は赤。

 黒い瓦に漆喰の壁と、田舎臭が残っているこの辺りでは少し珍しい色だ。家の周りには同じくベージュの塀があり、洋風の小さな門が設けてある。

 僕はその門の前に立ってインターホンを押す。表札には『一条』とある。



 ピンポーン、


 

『……はい』



 しばらくするとインターホンから女性の声が出てきた。それに僕は落ち着いた声音で「依頼で来た『陀宮』です」と答える。いつも『さん』付けで呼んでいるせいで個人的には妙に違和感がある。

 それに女性は少しの間を置き、『……どうぞ。鍵を開けましたので』と言って通話を切る。

 僕と陀宮さんは門をくぐり、ドアを開ける。すると玄関にさっきの声の主らしき女性が立っていた。

 依頼主の名前は『一条(いちじょう)生花(せいか)』さん。きっとこの人だろう。

「一条生花さんですか?」

「はい……」

 彼女は緊張……というより少し怯えた面持ちで、ゆっくりと頷く。

 髪の色は黒。セミロングで体型はやせ気味だ。パッと見健康体には見えない。歳は塚井さんと同じくらいか。

 一条さんは僕を見て、それから陀宮さんを見ると少し驚いたような、訝しんだような顔になる。まあそうだろう。まさかこの高校生が依頼を受けた、陀宮奈々子その人だなんて普通の人なら思いもしない。本来なら僕だけが行って『陀宮』を名乗って話を聞いた方がスムーズに進むのだろうが、それを提案したとき陀宮さんから「名前を人に貸す気はない」と一蹴されてしまった。しかも話は直に聞きたいという本人の希望でこうして二人で行動することになったのだ。故に毎回、依頼主の誤解を解くために一段階踏まなければならない。

 僕は「改めまして」と玄関で一礼して、

「僕は森近優真といいます。陀宮奈々子さんはこちらの方です」

「え!?」

 一条さんは驚き、そして戸惑い、疑いの表情を浮かべる。それに対して僕は口を噤む。ここで僕が何を言っても信じないだろう。だいたい日本では霊能力というモノ自体あまり信用されていない。

 そんな一条さんに、陀宮さんは一礼し、

「まあまあ、皆初見だとそういった反応をするよ。もう慣れた」

 そう自嘲するように言い、次いで微笑み、

「お代はあなたが満足する結果になったときで結構です。でも話は聞かせてほしいかな。せっかくここまで来たんだし。土産と思ってお願いできない?」

 なんて、メールで依頼内容の深刻さを知っているのに、それを『お土産に』と言う。

 家にいるときとはまるで別人。

 だらだらした少女の顔に、傲慢と不遜を混ぜた笑みが浮かんでいる。しかしそれが彼女の容貌と相まって、奇妙な説得力を生み出す。

 毎回、失礼と分かっていながらも思ってしまう。

 使う気があるのか無いのか、適当な敬語を使い、口元には挑発的な三日月が浮かんでいる。

 依頼時の陀宮さんは、気味が悪い。

 本当に高校生なのか、

 というか人間なのかと、思ってしまう。

 陀宮さんの言葉と態度に、一条さんは少し警戒心を膨らませた様に見えたが、しばらく俯いて、迷ってから、

「……分かりました」

 と奥へ案内してくれた。きっと彼女も僕と似たようなものを感じたのだろう。

 居間に通された僕たちはお茶と簡単な和菓子をいただく。

「……それで、依頼の内容をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。すみません」

 僕が話しかけると、一条さんはハッと我に返る。お茶を飲む陀宮さんを見ていたようだ。

 彼女は申し訳なさそうに俯き「まだ……あまり信じられなくて……」と零す。それに陀宮さんは「ふぅ」とお茶を置いて一息吐き、

「気にしなくていいよ」

 と用意された最中(もなか)に手を伸ばす。

「それよりも話の方を優先しない? まあこの最中がお土産というのも中々いいですが」

 なんて若干邪気を帯びた笑いを浮かべて最中を齧る。それに一条さんはやはり少し戸惑いの表情を浮かべたが、少しずつ口を開いてくれた。



 彼女は今回の依頼について、その経緯から語り始める。




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