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矜持
かつて原作を読んだ映画を観た時の感覚に似ている。これはイメージをなぞる行為だった。詩集の絵画的文字列は視線と投影をもたらし、未知のはずの風景を再構成させる。かつてある詩人は、他人の詩を読むことが苦痛であると言った。わたしはそれが、詩の中で苦痛や苦悩や煩悶、そしてあの明るすぎるほどの喜びを追体験することのしんどさと、それによりまた詩への欲求が過剰に掻き立てられることへの警戒であろうと思っていたが、それだけではなかった。これは列をなして歩くことへの耐え難い屈辱感でもあった。他の言葉で拓かれる景色をわたしたちは是としない。世界は己の言葉でのみ拓かれるべきだ。その矜持こそが、小さなわたしたちが全てと対峙しえる、ただ一振りの刃なのだ。