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詩情について

 誰にでも詩情があるなどとは、嘘だ。あなたとわたしに見えている世界は違う。聞こえている音が違う。光の色が違う。匂いが違う。手触りが違う。石ころ一つにも、こびりついている思いが違う。空に渡る鳥たちへのまなざしが違う。何もかも違うからこそ、言語が生まれ、抽象化と記録のために文字が生まれたのに、いつしか文字や言葉が重たくなった。或いはずっと軽くなってしまった。

 そうして、異なるからこそ共感を求め、「普通」「ありふれた」という理想の、そして魔法の言葉をまき散らしたが、もはやそれらも力を失い、落ちたセミのようにジジ…と鳴いている。

 我らは全て異体字だ。同音異字だらけだ。そうして忘れ去られた旧字体の末裔だ。閉じ込めようとした意味が膨らみだして破裂した。まき散らされた色とりどりのオリジナルばかりだ。だって、それが世界という現実だろう?あり得ない同一の存在の幻想を、止まらない時間の流れの中で夢見ているなんて、あまりに非現実的だ。

 リアルはリアルであって仮想を含み、仮想は仮想であってリアルへ投影される。そうして、仮想現実という脳内世界の具現化を商業化することばかり追い求め、結局それは肉体への回帰を切望する欲望の満たされぬ拡大行為となって蔓延っている。とても無理な道行を繰り返し、われらは滅びへと向かう。

 肉体は肉体であってわたしたちを含み、わたしたちはわたしたちであって肉体へ投影される。そうして、わたしたちという金銭的に価値の認められないものは置き去りにされ、肉体という形のある物質たちの群れが群衆となって、わたしたちを平面化しようとする。

 しかし、軋みだした日常の音が聞こえている。崩れ落ちそうな屋根からは雨漏りがしている。風が強く吹いている。もしも、抑えられない声が(肉体の声では無くて)、無責任な励ましに答える声ではなくて、誰の言うことも聴きはしない声が聞こえたなら。それがあなたの声だ。その声へ聞け。そして帰って来た声に感じたものがあるか。その姿のない透明な声が世界の何かを捕まえてきたか。もしも、そうであるならば、不幸なことにあなたは詩人かも知れない。

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