クロウ
家に戻るとシムはまだ帰って無かった。
テーブルに卵と水晶を置き、寝床として使用している納屋に向かい横になった。
暫くすると睡魔に襲われ、俺は深い眠りに落ちた。
目が覚めると小一時間程経っており、すっかりと日が暮れていた。
シムはまだ帰って無いようで、俺は慌てて燭台に火を灯し家に入った。
テーブルに燭台を置くと、先程置いた卵に亀裂が入っているのが確認出来た。
暫くすると、ビシッビシッという殻が割れる音がして、中からチビドラゴンが出て来た。
チビドラゴンは黒いドラゴンで、目を開けると俺に擦り寄って来た。
チビドラゴンに触れると頭の中に声が響いた。
《初めましてマスター。私はマスターの手助けをする為マナ様から召喚されました。まず私に名前を授けて下さい。ドラゴンは名を授けて貰ったマスターには永久の忠誠を誓います》
チビドラゴンはキョロっとした目が印象的な、可愛いドラゴンだった。
あの目、何処かで見た事があるような…
そうだ‼︎近所にいた野良猫だ。
(確か…名前が…。朋美が名前を付けていたような…何だったかな…。そうだ、クロウだ!黒猫だからって朋美が縮めて、クロウって名付けてた)
《クロウ…良い名前です。気に入りました。マスター私は貴方に永久の忠誠を誓います》
すると右手にドラゴンらしき紋章が浮き上がり、クロウは手の中に吸い込まれて行った。
右手の方から意思が伝わって来た。
《マスターこれで私は貴方の一部になりました。普段は貴方の右手の中で眠りについてます。マスターが必要な時は私を呼び出して下さい。マスターのお力になります》
《分かったよ、宜しく頼む。俺もこれからの事を考えて見るよ、宜しくなクロウ》
《はい、マスター》
暫くすると右手からクロウの意識が消えた。
眠りについたのだろうか。
これからどうするか良く考えて行動しないとな、大変な事になりそうだ。
明日…ここを旅立とう。
良くしてくれたシムには悪いが、俺がこれからやるべき事は、人間達には理解して貰えないだろう。
その事で彼に迷惑がかかる事は極力避けたい。
俺はモンスターの育成と、移住出来る場所を見つけ無いと、人が近づかない場所でモンスターを管理出来る場所となると…地下だな。
このアルカディアには真ん中に大きな山がある、そこは比較的物静かな山だが、モンスターが強い為人は余り入らないとシムが言っていた。
山に地底洞窟を作ればモンスターの育成がやりやすいだろう。
取り敢えず山の麓に住んで、人が立ち入らないか監視をしながら住むとするか…。
そんな事を考えていると背後から物音がした。
シムが帰宅したようだ。
彼に出発の報告をしなければ、嘘をつくのは心苦しいが、彼に本当の事は言えないしな。
暫くして、シムが部屋に入って来た。
《ただいま。今日は早かったんだな》
荷物を降ろしたシムは、俺の真向かいのイスに腰を下ろした。
《お帰りなさいシム。突然ですがシム、俺、明日此処を出て行かなくては駄目になりました》
《えらく急の話しだな、何かあったのか?》
シムは心配そうに俺を見つめた。
《今日森で、俺をこの世界に呼んだ方に出会いました。その方からお願いをされたのです。その願いが叶えば俺は元の世界に戻る事が出来るそうなのです》
《それは朗報だな。でっ、願い事って何だったんだ?》
自分の事の様に喜んでくれる彼に、俺は心の中で詫びるしか無かった。
《それは…他の人には話せないんです。話すと元の世界に戻る事が出来ないと言われました》
《そうか残念だな…って事は、今夜が最後の夜か寂しくなるな…。まぁ俺は暫くこの森にいるから、又会いに来てくれよな》
《有難うございますシム。沢山お世話になりました。貴方のお陰で今俺は生きてます、感謝してます》
《よしてくれ、お互い様って言っただろ。この数週間お前のお陰で俺も楽しかった。お金も稼げたしな。良い弟子だったさ》
《本当に有難う、シム》
その晩はシムと明け方近くまで語りあかした。
翌朝俺はシムに別れを告げ、大陸の真ん中にある山(ディスヴィアス山脈)を目指し旅立った。