呼ばれし者
数週間後、俺は修行を重ねそれなりの戦闘を1人で行えるようになっていた。
最初はどうなる事かと思っていたが、昔遊んだRPGの知識のおかげか、割と俺は順応性が高かったようだ。
あれからこの世界についても、いくつかの新情報を得た。
このアルカディアは3つの種族によって統治されている事が分かった。
人間は今俺達がいる大陸、南東に賢者、北に異種族が暮らす大陸があるそうだ。
それぞれ交流はあるそうだが、異種族は余り友好的では無いようだ。
俺の知るRPGのようにボスと呼ばれる圧制者がいる訳でも無く、この数週間俺は自分の世界に戻る情報を集めたが、どれも此れと言った情報は無く、お手上げ状態だった。
そんな在り来たりの1日を過ごしていた俺に、突然ある出来事が目の前で起こり、成すべき事を伝えられるのだった。
あれは森を探索していた時だった。俺が一番初めに目が覚めた場所だ。
いきなり森の木々が形を変え、トンネルの道の様に姿を変えた。まるで俺を誘うように。
トンネルの奥へ導かれるように進んで行くと、奥には小さな祭壇のような建造物が建っていた。
そこには光る水晶の様な玉が、空中に浮かんでいた。
(思いっきり怪しい…よな。でも、ここ数週間何も起こらなかった。今、この祭壇が現れたのは、何かが始まる前兆かも知れない)
俺は恐る恐る手を伸ばし、水晶を手に取った。
その瞬間、目を開けていられない程の眩い光が走り、俺の意識は光に吸い込まれて行った。
暫くして、光の中から俺に語りかけてくる声が、どんどん明確になって来た。
《竜巳…竜巳…。私の声が聞こえますか?》
頭の中に機械的な音声が聞こえて来た。
《貴方は誰ですか?俺をこの世界に呼んだのは貴方なのですか?》
光の中に向かって俺は必死に尋ねた。
小さな機械音とともに、光の中から又音声が語りかけてくる。
《私は…マナ…。この世界の創造主です。貴方をこの世界に呼んだのは、私です。貴方に私の願いを叶えて貰いたいのです》
《何故…。俺が呼ばれた訳を教えて下さい。俺に願い叶えろとはどう言う事ですか?》
《貴方にこの世界のバランスを直して貰いたいのです。…この世界は貴方の世界とは違い、人口、アイテム、モンスターの数、全ての数に決まりがある世界なのです。このまま均衡が保つ事が出来ないと、大陸が崩壊して、全ての生き物が絶えてしまうのです。貴方には、人口を調整して、モンスターを増やして欲しいのです》
《何を言ってるんだ‼︎人口の調整だって、俺に人を殺せと言うのか!》
《貴方がしなくては、この世界は崩壊してしまいます。私は今迄多くのワンダーをこの世界に呼びました。皆、貴方のように傷つき私を責めました。でも、最後には私の願いを叶えてくれました。それ程この世界のバランスは厳しい物なのです。創造主の私ですら、変える事が出来ないのです》
《では、昔ワンダーが国を滅ぼしたのも、バランスの所為なのか?》
《そうです…。あの頃も人口が限界に達し、後数年でこの世界は崩壊する所でした。私には止められるすべがなかった…》
《......》
《貴方に無理なお願いをしてる事は百も承知です。しかし、分かって下さい。この世界にはバランスの安定が重要なのです。そして、バランスが保たれ世界に安定が齎された時、貴方は元の世界に戻る事が出来るでしょう。…ごめんなさい。竜巳…この世界を救って下さい。此れは、ワンダーにしか出来ない事なのです》
次第に機械音が聞こえ無くなり、光が薄れ気がつくと俺は森の中に立っていた。
何が起こったんだ。俺は困惑状態で立ち竦んだ。
俺はマナと呼ばれる創造主に呼ばれ、アルカディアに来たようだ。
しかも、この世界は崩壊しかけているらしい、それを回避する為、人を殺せだって‼︎
有り得ない、そんな事出来るものか!
でも、バランスを安定させないと俺は元の世界に戻る事は出来ないと言われた。
根っからの善人では無いし、今迄モンスターも普通に倒して来た。
でも、人殺し何か俺には出来ない。
どうすればいいんだ⁉︎
何か別の方法は無いんだろうか…。
幾ら考えても俺には選択肢が無いように思えた。
元の世界に戻れる方法は、マナの願いを叶える事しか無い…。
でも、人口やモンスターやアイテムのバランスってどうやれば調整出来るんだ?
まさか無闇に、人やモンスターを無差別に倒す訳には行かないだろう…。
するといきなり手の平に、水晶が現れた。
その水晶を覗き込むと、人口やアイテム、モンスターの数が表示されていた。
【13258367/10000000】
左の数字が現在の人口の数のようだ、右の数がバランスに適した数のようだ。
水晶を詳しく見た所、人口が増え過ぎでモンスターの数が少ないようだ。
水晶からマナの声が聞こえて来た。
《竜巳…この水晶は私と繋がっています。貴方がこの世界で必要な物は水晶が全て用意してくれます。》
《マナ…俺は何をすれば良いのか分からない。やはり俺には人を殺す事は出来無い。出来れば直接的な戦闘は、やりたく無いんだ》
《では、各地の洞窟や森に強力なモンスターを配置して下さい。そうすれば、ある程度の人口を調整出来るでしょう。低級モンスターは貴方の監視下に置き、貴方が育成するのです。水晶を翳せばモンスターは貴方の命令に従います》
《モンスターの育成か…。まるで俺がRPGのボス見たいだな…》
《ごめんなさい竜巳、私達の世界の事情を貴方に押し付けてしまって、私は創造主。元は私の責任です。私はこの世界に手を出せない。貴方に頼るすべしか無いのです》
《俺がやらないとこの世界が崩壊してしまうんだろ!元の世界に戻る事も出来なくなる。なら、やるしか無いじゃないか…》
《貴方にこんなお願いをして、本当にごめんなさい。貴方の手助けになるように、チビドラゴンを召喚しました。チビドラゴンは知識だけで無く、貴方の力を何倍にも高めてくれます。モンスター達も大人しく従うでしょう》
水晶から声が消え、もう片方の手の中に黒い卵が現れた。
きっとこれがマナが言っていたチビドラゴンなのだろう。
とにかく色々有り過ぎて頭がおかしくなりそうだ、今日はゆっくり休んでこれからの事は落ち着いてから考えよう。
俺は、疲れた身体を奮い立たせ家路を急いだ。