バンサークル
《お前もしかしたらワンダー(放浪者)なのか?》
男は俺の方を見た後、近寄りながら話し掛けて来た。
《ワンダーとは何ですか?俺、何が起こったのか全く分からなくて、気がついたら森の中に居たんです》
男は驚いた表情で俺を見つめ、暫く考え込むと俺に語りかけた。
《...分かった。取り敢えず俺の家がこの森の外れにあるんだ。此処はまだ危険だ、早く移動した方が良いだろう。俺の後ろからついて来い》
男はそう話すと歩き始めた。
《は…はい‼︎》
俺は訳も分からず目の前の男の後をついて行く事にした。
男はすらっとした身体つきだが、バランスの取れた筋肉質な肉体をしている。
陸上選手のような俊敏な身のこなし、背中には鎖鎌のような武具を背負っていた。
先程あの奇怪な生物をいとも簡単に倒した所を考えると、彼はかなりの手練れなのだろう。
彼は俺の事をワンダーと言っていた…。
ワンダーって英語か?
英語ではワンダーって放浪者って意味だったよな確か、って事は俺の他にも同じような人がいるかも知れないって事だよな。
彼は俺に危害を与えるつもりは無いようだし、取り敢えずまずは情報を得ないと…。
それにさっきの奇怪な生物の事も気になる。
あの生物からして、俺の居た世界ではあり得ない生物だ。きっと此処は何処か違う場所だろう。
しかし、何故こんな所に俺が…。
言語は通じると言う事は、何かしらの繋がりはあるのだろう。
俺、元の世界に帰れるんだろうか…。
俺は目の前を歩くの彼の背中を見ながら、この世界にどうやって来たのかと考えていた。
しかし、森の中で目覚める前の記憶は思い出せなかった。