放浪者
《ごっ…。ごめんなさい。俺何故此処にいるのかも…。あの鳴き声は獣ですか?まさか此方に来るのですか⁈》
男は驚いた表情で俺の姿を確認したが、すぐ目線を戻し鎌を構えた。
《バンサークル、人喰い虎だ。もうすぐ此方に来る早く逃げろ!…ちっ遅かったか》
《......⁉︎》
男の目線の先に、高さ3メートルを超える虎が現れた。虎と呼べるのだろうか?
驚くべき事に、顔は虎、身体は人体という見た事も無い生物だった。
バンサークルと呼ばれた虎は低い唸り声とともに、近くの木々を薙ぎ倒しながら、近づいて来た。
《何なんだ…この生き物は…》
俺は驚嘆を隠せず思わず呟き立ち尽くしてしまった。
男は俺の方を振り返り叫んだ。
《何をしてる!!戦えないなら木の影に隠れていろ!》
男にそう叫ばれて、俺は慌てて近くの木に身を隠した。
ドシンドシンと大きな足音と、獣の鳴き声が聞こえ、鎌の金属音が数分続いた後、獣の呻き声とともに激しい振動に襲われた。
木の隙間から覗いて見ると、男が獣に馬乗りになり、鎌を喉元に突き立てていた。
獣に視線を送ると、一瞬俺の方を見るような仕草をし、俺に何かを伝えるような目をした瞬間、粉々に弾け飛んだ。
《何なんだ…此処は。こんな生き物が居るなんて、俺は何処に居るんだ…》
俺が思わず呟くと、男は立ち上がり此方を振り返った。