塔
賢者は、ウィルフリート国手前の森の中にある、【塔】に暮らしている種族だ。
元々賢者は余り多種族に関心は無いらしく、塔に人間やエルフは殆ど出入りしていなかった。
彼らは多種族とかかわるのを嫌うため、冒険者は殆ど居なく、塔は人間にとって未開の地でもあるのだが、冒険者やハンターにとっては宝の国でもあるのだった。
最近はパーティーで動く冒険者も増えた為、塔に降り立つ冒険者が増加したのだろう。
冒険者が未開の地に入り、アイテムを収集してくれれば俺にとっては助かるが、異種族との戦争状態になれば人口が大幅に減少してしまう、それだけは避けなければならない。
取り敢えず賢者が暮らす塔に行き、情報を集めてみるか…。
俺はコアディアをミンディに任せて、クロウとともに賢者の塔に行く事にした。
《ミンディ後の事は頼んだ。もしこの山に侵入者が来たらすぐに知らせてくれ》
《はい。ディアス様旅のご無事を祈っております》
ミンディと別れた後、俺は港町に向かった。
酒場のマスターに暫く留守にする事を伝え、貼り紙を外して貰った。
貼り紙を見る冒険者はかなりの数が増えたようだ。
すると一枚の貼り紙が目に止まった。
【クロウと言う名前の冒険者を探しています。情報をお持ちの方はハーレイの港町の宿屋までお越しください。1ヶ月程滞在しています。フラル】
フラル…確かこの港町の洞窟で助けた年若いエルフの少女だったような。
彼女が俺に何かを頼みたいらしいな…。
酒場のマスターに聞いて見ると、ハーレイと言う町はこの港で船に乗った先の、港町らしい事が分かった。
フラルは年若いエルフと言っても異種族なので、このタイミングで俺を探してるって事は恐らく賢者との争い絡みなのだろう…。
ひとまず船に乗ってハーレイの港町で話を聞いて見るか…俺はハーレイ港行きの船を探し乗りこんだ。
船旅は意外に快適で、俺は束の間の休息を楽しんだ。
船の中には結構強そうな冒険者や行商人など、おそらく賢者だろう異種族が多数乗っていた。
《マスター。取り敢えず僕の事はディーとお呼び下さい》
傍らに座っていたクロウが俺に向かって話しかけて来た。
クロウには船に乗る前に人型になって貰っていた。
チビドラゴンの時は小さな子供だったが、一年の間に少し成長したようだ。
ドラゴンの年齢は分からないが、人間では12才ぐらいの少年だ。
旅をする時、何かと不都合な事が多い為、クロウの人型はありがたかった。
そういえば偽名を使ったままだった。クロウに指摘されるまですっかり忘れていた。
《そうだな。俺がお前の名を使ってるから…。すまないなクロウ》
《いいえ。マスター。今や貴方はモンスター達に名前がかなり知れ渡ってしまいました。本名はなるべく使わない方が良いでしょう》
《分かってるよクロウ。心配してくれてありがとう。さぁもうすぐ港に付くぞ。荷造りは頼んだよ》
そういうとクロウは小さく頷いて、船室に走って行った。
小さな角笛の音が響き渡り、俺達を乗せた船は港に停泊した 。
ハーレイの港町は人間族の港町とは違う、霧に包まれた静かな港町だった。
取り敢えず俺とクロウは、フラルが貼り紙で書いていた宿屋を探した。
幸い宿屋が一軒しか無かった為すぐに分かった。
宿屋の主人に、フラルというエルフが泊まっていないかと尋ねると、すぐに呼んで来るので待つように言われ、俺とクロウは宿屋の待合いの椅子に腰を下ろした。
《どうやら、宿屋の主人に貼り紙の話をしていたようだな》
《はい、マスター。すぐに会えそうですね》
暫く待つと階段を降りる音がして、若い女性が降りてきた。
《まさか…クロウ!!良かったまた会えた》
女性は俺にかけより抱きついた。
女性を良く見ると、黄色の髪に緑の瞳の美しいエルフだった。
見た事がある瞳の色に、まさかと思いたずねた。
《君…まさかフラルなのか?》
俺は美しいエルフに小さな少女の面影を感じ尋ねた。
《はい、クロウ。その節はお世話になりました。おかげであの後無事に祭具を修理出来ました》
《良かった。でもその姿はいったい。異種族はそんなに成長が速いのか…》
《いいえ。これには訳があって…お願いがあって貴方を探していたんです。》
そういうとフラルは俺を自分の泊まっている部屋に案内した。
《クロウ、そちらのお連れの方は…》
フラルは心配そうにクロウと俺の方を見て話しかけた。
《彼はディー俺の弟子みたいな関係だよ。大丈夫、口は堅いよ》
そういうとフラルはほっとしたのか、話を始めた。
《実は今、賢者と異種族は争いが続いていて、私達子供のエルフも魔法で成長速度を速めているのです》
《俺もその話は聞いたよ。何だか凄い物が採掘されたって聞いたけど》
《はい。シリア石と呼ばれる石です。この石は私達異種族にとって、命と同じ意味があるぐらい希少な石なのです》
《そんなに希少な石が何故争いの原因になったんだ?》
《実は先日ウィルフリート国で大きな地震があって、シリア石を守っていた結界魔法が崩れ落ちてしまったのです》
《そんな事があったのか…。こちらの大陸は全く揺れなかったから、分からなかったよ》
《それは私達種族が魔法で大陸そのものに結界魔法を使ったからです。実はシリア石は魔法増幅石とも呼ばれており、私達はあの石のおかげでモモンスターや略奪者から身を守っているのです》
《シリア石にそんな力が…》
《はい、先日結界魔法が崩れ落ちた時、偶然ウィルフリート国に来ていた賢者の方が、シリア石の力を見てしまったのです》
フラルは悲しそうにうつむきながら話した。
《そしてその方は、シリア石を賢者にも分けるように要求してきたのです。私達の代表者はその要求を断りました。何故ならこの大陸はシリア石の魔法の力で守られているからなのです。暫くすると賢者が頻繁にウィルフリート国にやって来るようになったのです。彼らは秘密裏にシリア石の調査をしてるようで、私達と諍いが絶えなくなりました。このままではいずれ戦争になりそうで…》
《それで君は自分の種族を守る為、魔法で成長を速めたんだね》
《はい…。それでお願いなのですが、実は私の友人が賢者との話し合いに行ったまま帰って来ないのです。彼女を見つける手助けをお願いします》
《もちろん手伝うよ。そうだな‥、表立って動くと諍いの種をこちらから撒いてしまう、とにかく塔に近づいて情報を集めてみよう》
《ありがとうございます。彼女の名前はリーフと言います。銀髪に私と同じ緑の瞳のエルフです。》
《分かったよフラル。必ずリーフを見つけよう》
俺はまずハーレイ港で三人分の旅支度を整えた、フラルには異種族とバレないようにクロウが人間の幻影魔法をかけた。
フラルは幸い人間の大陸に来た事があるので、人間族に対して違和感は無いようだった。
港町ハーレイから塔に入国するのには、およそ2日ほどかかるそうだ。
冒険者から情報収集をしながら俺達は塔に向かった。