最下層
知らずに行動範囲に入ってしまったりとかの不可抗力もあるようだが、何だかモンスターにとっては理不尽な世界なんだと俺は感じた。
俺は極力モンスターとの戦闘を避け、最下層を目指した。
野営をしながら最下層に辿り着くまで、水晶でマナに尋ね続けた。
モンスターは一週間に一度分裂といって自身の卵を産み落とす仕組みのようだ。
但し分裂して数日は戦闘能力が激減し、分裂したモンスターも暫くしないと動けない為、その瞬間を狙うハンターや冒険者もいるらしい。
この国のモンスターがかなり少なくなったのは、この事が殆どの理由だろう。
あの時何かを訴えるような目で見つめて来たバンサークルは、もしかしたら分裂したてのモンスターだったんだろうか…。
そんな事を考えながら階段を降りて行くと、最下層の入り口の扉が現れた。
俺は扉を力いっぱい押すと思わず耳を塞いだ。
悲鳴のような金切り声が、最下層に響き渡った。
手の中からクロウが話しかけて来た。
《マスター、恐らくこの声はここの最下層の水蛇です。何かあったんでしょうか?気をつけて下さい。》
《あぁ。取り敢えず声がする方に進んでみるか…》
俺は悲鳴が聞こえる方に向かって歩み始めた。
暫くすると灯りが見え小さな部屋があった。その中央には水蛇のモンスターがいた。
彼女は思ったより人型に近いモンスターで、神話で見た蛇女のようなモンスターだった。
彼女は涙を流しながら、何かを叫んでるようだった。
《私の…私の…どこに行った…。おぉ…悲しい…》
モンスターは部屋の中央を行ったり来たりして、何かを探してるようだった。
俺はまずクロウを装着して、部屋に入った。
部屋に踏み出した瞬間、モンスター俺に気づき悲鳴を発した。
《ギシャー。お前は…人間!!お前が私の大切なコアを取ったのか…許さぬ許さぬ…人間め!返せー》
そういうとモンスターはいきなり、俺に向かって攻撃をしかけて来た。
《待ってくれ、俺はコアを取ってはいない。コアが何かも知らないんだ》
俺は攻撃をよけながらモンスターに話しかけた。
《うるさい!人間は私達を殺す。大切なコアまで…私が何をしたと言うのだ》
そういうとモンスターは更に激しく攻撃をしかけて来た。
俺は攻撃をよけながらモンスターに話しかけたが、モンスターは奇声をあげながら攻撃を繰り返した。
暫くモンスターの攻撃をよけながら様子を見ると、俺は違和感を感じた。
最下層のモンスターのわりに攻撃ダメージも魔法ダメージも、入り口付近のモンスターと差ほど変わらない強さだった。
もしかしたらこのモンスターは【分裂】したてのモンスターなのだろうか?
もしそうならこのモンスターは殺さないようにしないと。
俺は剣を鞘に戻し、鞘をつけたままの剣で、モンスターの腹部に強打を浴びせた。
モンスターはその場にうずくまり動かなくなった。気絶した様だ。
すると水晶が手の中に現れてマナの声がした。
《竜巳、水晶をこのモンスターに近づけて下さい》
俺は言われた通り水晶をモンスターの側に近づけた。
水晶が光るとモンスターが起き上がり、彼女から邪悪な気配が消えた。
彼女は水晶と意味不明な言語で会話し始めた。
水晶が消えるとモンスターがこちらに向かい頭を下げた。