望郷
冒険を終え、新たな旅支度を整え、俺は人間に変化したクロウに馬車の操縦を任せ、港街から旅立った。
俺は揺れる馬車の中で、手の上の水晶を眺めていた。
あれからマナとは通信が出来なくなっていた。
水晶自体に問題は無いので、あちら側からしか通信して来れ無いシステムらしい。
水晶によると人口・アイテム・モンスターの減少が今迄より、かなり動きが多くなったようだ。
各地で冒険者達が秘境の探索を、パーティーを組んで行っているんだろう。
後々モンスターの育成を始めるので、人口の減少は順調だった。
しかし、気持ち的には俺が彼らを死地に送る様な感覚に、思わず気分が滅入りそうになる。
取り敢えず俺の思惑通り順調にバランスを保っているようだった。
馬車の速さなら、後一週間程でスプリング村に着く予定だ。
ここへ来て数ヶ月。現実世界では高校生になっていて、朋美と近所の高校に通ってる筈だった。
きっと部活に入ったり、勉強に勤しんだり、青春を謳歌している筈だった。
今では毎日戦って1日を過ごしている事が、日常になって来ている…。何だかこの頃慣れて行く自分がとても怖い…。
俺は少しずつこの世界で受ける精神的なダメージを、確かに感じていた。
しかし、実際どうにも出来ないので、無我夢中で過ごす事しか俺には出来なかった。元の世界へ帰りたい…。果たして俺は元の自分に戻れるだろうか…。