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5 三ヵ月後

時の流れは早い早い。



 あれから、三ヵ月後。

 中央大陸最大国家アシュタルト王国内。

 王都『ステレア』の大通りから少し外れ、建物が所狭しと並ぶ小さな小道。一見通り過ぎそうな場所に、それはあった。


『便利屋ハンターいます』


 そう書かれた看板には、せめてもの可愛らしさをプラスしたのか文字の端っこにはお花の絵が添えられている。なかなかの絵心だ。


「全く、あいつは……」


 ふと、看板に影が落ちた。

 看板の前に立つ一人の男は、大剣を背負って腕を組み仁王立ちしている。

 大柄な体格のため看板はすべて影に隠れてしまっていた。舌打ちまではいかないにしろ、無理やりあげた口角がヒクヒクと動いている。傍から見ればかなりご立腹の様子であった。


「くおらユーリっ! お前はまた真昼間から寝てんのか!」


 不用心に入口の鍵もかけずに半開きになった扉を乱暴に開け放し、ずかずかと建物内に侵入する男が一直線に向かった先は室内で唯一の窓のある壁。

 日光がちょうど当たる場所に配置された二人用のソファの前で男は立ち止まった。


 もぞりと、ソファの上で毛布が動く。

 肘置きからは白い足が惜しげもなく投げ出されていた。三ヵ月前に重ね重ねてあった傷跡が、もう薄らとしか確認出来ないまでに回復している。

 喜ばしいことではあるが、今はそんなの関係ないと男は毛布を思いっきり剥ぎ取った。


「おらおら! 起きろユーリ!」

「……ん」


 毛布の下に隠れていた人物が、姿を現す。

 あどけない寝顔の少女ユーリは、訪問して来た男ガイバーの声に抗うよう俯きの体勢を取ろうとした。

 さらりと頬を滑る髪にくすぐったさを感じ、ユーリの目が細く開かれる。

 その瞳の色合いは相も変わらず美しい。水色が珍しいというわけではないが、ユーリの瞳は特別透き通って見えるのだと、ガイバーも周りの人間も認知していた。

 ぼうっと覚醒しない頭でユーリは上体を起こす。肩に触れるか触れないあたりで整えられた長さの髪は、三ヵ月前より明らかに短くなっている。


「んー、ん……うん……起き、ん、んんん……」


 寝ぼけた様に呆れながらも、あまりのユーリの無防備さにガイバーは思わず小さく吹き出した。

 三ヵ月前、王都で生活することが決まったユーリに、いつまでも優しくするだけでは為にならないと、ある程度軽くぞんざいに接した結果、たった数ヶ月で少女は私生活でだらしない年頃の娘に豹変してしまった。

 だらしない……いや、マイペース過ぎるのだ。

 出会った当初からそういった性格の端々は滲み見えていたけれど、なんとも逞しくなったものだとガイバーは思う。

 まあ、ユーリに様々なことを教えたのは紛れもないガイバーと、その相棒であるイリーナなのだが。

 イリーナも案外大雑把な面があるため、その教えがユーリの私生活に現れてしまったようだ。


「……あれ、ガイバーさん」

「おう、起きたか、寝坊助」

「ガイバー、さん……あの、どうしてここに?」


 ユーリの顔がだんだんと青染めている。苦し紛れに質問しているが既にわかっているだろう。


「約束の時間は伝えたな? 今は何時だ、言ってみろ」

「……十二時前、ですね。あれ、待ち合わせ時間は九時だったような気が……」

「そうだよなあ、三時間前にとっくに過ぎてるよなあ。――……寝坊だ馬鹿野郎っ!」

「す、すみません!!」


 キーン、と。

 ガイバーの声が目覚めの一撃となって脳内にこだました。



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