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1 少女は


※こちらは執筆を始めたばかりの頃の作品となります。加筆修正する予定ですが、拙い部分が多々ありますので、ご理解の上ご覧いただきますようお願いいたします。(2022/06/13)




「──どう、して? どうして、信じてくれないの!」



 誰かの声が聞こえる。少女の声だろうか。

 悲痛な叫びのような声は、誰かに訴えている。けれど誰ひとりとして耳を傾けてはくれない。

 声はより大きくなる。……大きく、大きく、大きく。少しだけ掠れ始めた頃、その声は突然途切れた。



 そこで、少女は目が覚めた。鼓膜に違和感を感じるものの、一体自分が今までどんな夢を見ていたのか忘れてしまっている。

 ただ、なぜだか妙に物悲しく、やるせない気持ちが少女の胸のあたりに広がっていた。


 ツーっと瞳の横に伝う感覚は……涙?

 瞼を閉じたままゆっくりと状態を起こし、少女は大きく深呼吸を繰り返す。


 そして目を開けると――


「あら? ……起きたのね!?」

「……え?」


 目の前には、金色の髪をゆるりと靡かせた女性の姿があった。

 女はこちらに屈託のない美しい微笑を浮かべている。


 これは夢? この人は女神か何かだろうか。

 冗談ではなく目が覚めたばかりの少女は真剣にそう思っていた。そう思わずにはいられないほど、目の前の女が綺麗だったからだ。

 

「あ、の」

「あなた、どこか痛いところはある? 気分は悪くない? 怖かったわよね、もう大丈夫たから。ここは安全な場所なの。あ、そうだわ! まずは何か喉に通したほうが……」

「なんだ、目が覚めたのか?」


 途中、少女に向けらた女の声が途切れる。代わりにぬるりと女の背後にある布の裏側から姿を現したのは、ガタイのいい男。その背には正面からでも存在を主張するかのように磨き上げられた大剣がチラリと見える。


「たった今、目が覚めたところよ。まだぼうっとしてるみたい。声は出せるみたいだけれど」

「そりゃよかったぜ。おい、お嬢ちゃん。ここがどこだかわかるか? とりあえず安心しろよ。俺たちは闇市の連中とは違うからな」


 男の逞しい掌が少女の頭を気遣わしげに優しく撫でた。ぽんぽんと、乱暴なようで気遣いのある指先に少女はただ受け入れる。


「ちょっとガイバー、あんた馬鹿力なんだからもっと慎重になってよね。この子少し力を入れただけでも折れそうなくらい細いんだから! それに怖い思いだってたくさん……」

「……? あの、大丈夫ですよ」


 べつに痛くも痒くもなかった。むしろ温かく心地が良かった。

 長い間ぬくもりを忘れていたかのような不思議な体の感覚に、少女は首を傾げながらも口元を笑わせた。


 そんな少女に、彼らの目は大きく開かれる一方である。


「ねえ、無理して笑わなくていいのよ。あなたはそれだけ過酷な環境の中で生き延びていたんだから」

「イリーナの言う通りだ。胸クソ悪ぃけどよ……助けた女の中には口がきけなくなった者も少なくない。俺たちに気なんか遣わなくたっていい」


 イリーナと呼ばれる美女に同意するよう頷いたのは体格のいい男ガイバー。

 二人とも、目覚めた少女に優しい言葉をかけてくる。


 少女は思った。

 この人たちは、一体何の話しをしているのだろう、と。


「そうだ、あなた名前は? あたし達がしっかり元の場所にあなたを連れて行ってあげるからね」


 イリーナは少女の手を柔らかく包み込む。

 ようやくわかった。

 この違和感の正体に。

 先程からずっと少女の中で引っかかっていたこと。


「……あの、わかりません」

「え?」

「は?」


 自分のいる場所。

 自分の名前。

 目の前にいる見知らぬ二人。


 なぜ、自分はここにいるのか。

 頭が濃い霧に包まれているかのような心地。



「えーと、その、私は一体……?」


 少女は、何も覚えていなかった。




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