Record No.006 名古屋遠征(3)
バン、バン、バン、凄まじい銃撃の嵐が守を襲う。
「さすがにきついな」
障害物を盾にして戦っていたが、体力が削られ動きが悪くなっていた。
「慌てるな。確実に仕留めるんだ」
『了解』
敵も守の様子に気付き、囲い込むように着実に攻撃してくる。
「攻撃止め」
指揮官が仕留められたか様子を探る。
その一瞬の隙を狙って守は一気に駆け出した。
「はぁぁあーーー」
守は小型銃を両手に敵へ突撃していく。
「撃って撃って撃ちまくれ」
大軍で一人を仕留められない苛立ちで指揮官の声は荒くなる。
それをあざ笑うように守はブーストで加速し敵の中央に突っ込む。
その人間離れした動きに敵兵士達は完全に翻弄される。
「ああああああ」
おびえ腰で一人の兵士が銃を乱射してしまう。
守にはかすりもせず、その銃弾は味方の兵士に命中した。
「馬鹿者」
指揮官は混乱している兵士を殴り銃を奪い取る。
「ぐはっ」
わずかな沈黙の後、次々に兵士が斬り倒されていった。
「調子に乗るな」
指揮官は自らブーストで守に襲い掛かる。
だが、スピードの違いと圧倒的な剣捌きの差で勝負は一瞬で決まった。
「これほどとは」
指揮官は血を盛大に吐き出し膝をつき倒れた。
「うわーーーーー」
それを見た兵士達は我先と逃げていく。
「ふーはーふーはー」
周囲を警戒しつつ、守は息を整える。
「隊長、ご無事ですか?」
混乱している戦況の中、守の耳に秋葉原の声が届く。
「ああ」
部下の到着に守も少し緊張が緩んだ。
「あれ、敵は?」
渋谷が一人佇む守を見てとぼけた声を出す。
「逃げた」
守は簡潔に状況を伝えた。
「やっぱり隊長は化物ですね」
早稲田は感心した声を出す。
「お怪我はありませんか?」
神楽坂が守の方に駆け寄り、体を触りまくる。
「おい、馬鹿」
守はサッと距離を取った。
「も、申し訳ございません」
神楽坂は顔を真っ赤にさせ頭を下げる。
「カグちゃん、大胆だね」
渋谷は二人の様子に二ヒヒと笑う。
「うるさい」
怒りと恥ずかしさでさらに神楽坂の顔は赤くなる。
「神楽坂、戦場で乙女心は捨てろ。渋谷、お前はうるさい」
秋葉原がパンパンと手を叩きつつ仕切り直す。
「隊長、アーミーに乗ってください」
すっと向き直り秋葉原が言った。
「すまんな。しばらく指揮を任せる」
守はアーミーの外側にある後部座席に座り目を閉じる。
外傷はないものの、長時間の高速ブーストにより体にダメージを負っていた。
「了解」
秋葉原は静かに返事をする。
「これより浜松方面へ進行する。出来るだけ潜みやすい場所まで行くぞ」
『了解』
「隊長、痛みはありますか?」
包帯を巻きながら新橋が守に訊いてくる。
「大丈夫だ。おもいっきりやれ」
「わかりました」
救命の資格を持つ新橋が手当てをしていた。
「ちょうどいい場所があって助かりましたね」
胡坐をかいた上野がコンコンと壁を叩く。
守達は手頃な広さの山小屋を見つけ、休息を取っていた。
「それにしても千人斬りって人間業じゃありませんね」
携帯食を食べながら早稲田が笑っている。
「話を誇張するんじゃない」
わざと大袈裟に話す早稲田に守は呆れた。
「ご無事で本当に良かったです」
安心した顔をした神楽坂はボトルで水を飲む。
「言っただろう。俺は戦場では死なないと」
守は穏やかな顔と声で神楽坂に言った。
「隊長が浮気しているぞ~」
一瞬甘い雰囲気になりそうになっているのを渋谷が割って入る。
「何が浮気だ」
守は渋谷にげんこつを喰らわせた。
「痛いな~もう~」
頭を擦りながら渋谷は文句を言う。
『ははは』
それを見て全員が大声で笑った。
「名古屋は追撃を諦めたでしょうか?」
すっと真顔になり秋葉原が問い掛ける。
「静岡支部に着かないことには安心は出来ないな」
守は顎に手を当て渋い顔になった。
「黒帝軍に制圧されるのが目に見えているのに。どうして名古屋は反乱を」
神田は理解に苦しむ顔をしている。
「俺は名古屋をけしかけた人間がいると思っている」
守は軍服を着ながら言った。
「九竜軍でしょうか?」
秋葉原が訊く。
「可能性は高いが、意外な所に黒幕が潜んでいるかもな」
守は新橋から薬を受け取り、水でがっと流し込んだ。
「今は生きて戻ることだけを考えよう」
暗くなりかけた隊員達を守は明るい声を出し励ました。
「そうだよ。生きてりゃ何とかなるって」
渋谷も場を盛り上げようと声を出す。
「あなたは少し静かにしてください」
それを神楽坂がバッサリと斬る。
「え~皆を励まそうとしたのに」
渋谷は子供のように口を尖らせた。
『ははは』
お決まりの夫婦漫才みたいなやりとりに全員が腹を抱えて笑った。
「浜名湖を抜ければ浜松駐屯地だ。もう少し踏ん張るぞ」
『了解』
守達は名古屋からを追撃を受けることなく、浜名湖の手前まで来ていた。
「何も仕掛けてきませんでしたね」
上野は拍子抜けしたという顔をしている。
「それが不気味だな」
追撃が激しくなると思っていた守は警戒心を強めていた。
「ここを抜ければ戦闘に適した場所は少ないですね」
神田がアーミー内のパソコンで地形を確認する。
「なら、ここは要注意ですね」
新橋が確認した。
「そうだな」
守も賛同する。
「浜名湖って綺麗ですね」
珍しく女性らしい顔をして神楽坂が言った。
「こんな状況じゃなければな~」
渋谷が残念そうな顔をする。
ちょっと隊員達の気が緩んだ瞬間、早稲田が突然倒れた。
「早稲田」
上野がすぐさま早稲田をアーミーの後ろまで引きずっていく。
「大丈夫か」
呼び掛けて早稲田の状態を確認する。
「ああ。肩に当たっただけだ」
強がってはいたが、レーザー銃で貫通した箇所がかなり出血していた。
「アーミーに乗せてください。僕が治療します」
新橋がアーミーから出てきて上野を誘導する。
「神田、敵はどこだ?」
守達は近くの物陰に隠れ、状況を確認した。
「見当たりません」
神田も何が何だかわからないという声を出す。
「新橋、早稲田はどうだ?」
守は新橋に問い掛ける。
「何とか止血出来そうですが、出血が多過ぎます。早く輸血しないと」
新橋の声色で切迫した状況であることを全員が悟った。
守達が浮き足立っているのをあざ笑うようにレーザー光線が襲ってくる。
「隊長、敵の居場所がわかりました」
神田が早口で知らせてきた。
「どこだ」
「水中です」
「浜名湖か」
「そうです」
「名古屋支部の新兵器か」
守は思考をフル回転させた。
「神田、弾道から敵の位置は把握出来たか?」
「三機、最大水深の十六メートル付近で固定しているみたいです」
「渋谷、アーミーのエレルギーを使って狙撃しろ」
「そんな威力で正確な射撃なんて」
守の命令に渋谷は戸惑った。
「お前なら大丈夫だ」
「そんなこと言われたらやるしかないか」
守に断言され、渋谷は余裕の笑みを見せる。
「神田、渋谷のスコープにデータを転送しろ」
「了解」
「渋谷以外は周囲を警戒しつつ、援護だ」
『了解』
渋谷は狙撃タイプに銃を換装し、アーミーにケーブルを接続した。
「神田ちゃん、データよろしく」
「データ転送しました」
「サンキュー」
渋谷はアーミーの頭上から浜名湖を狙う。
「ふー」
深呼吸し、渋谷は引金を引いた。
ズドーンと大砲に匹敵する銃撃が敵に命中する。
「一機反応消失」
神田の歓喜の声が響く。
「ふー」
再び渋谷が深呼吸し引金を引く。
「反応消失。残り一体です」
「ああ」
全員が安堵しかけた瞬間、渋谷の呻き声が聞こえた。
「渋谷、大丈夫か?」
心配した守が渋谷に声を掛ける。
「すみません。肩がいかれました」
そう報告する渋谷の声は乱れていた。
「隊長」
どうするという顔で秋葉原が訊く。
「神楽坂、お前がやれ」
守は一瞬思考して命令した。
「私ですか?」
強張った表情で神楽坂が訊く。
「渋谷に代われるのはお前だけだ」
不安がる神楽坂を真っ直ぐ見つめ言った。
「わかりました」
その期待に応えるように神楽坂は力強く返事をする。
覚悟を決めた神楽坂は素早く渋谷の隣に移動して銃を構えた。
「落ち着いて。カグちゃんなら大丈夫」
渋谷が真剣な顔で神楽坂を励ます。
「はい」
神楽坂も真剣な顔で浜名湖を狙う。
静かな浜名湖を凄まじい音と威力の銃撃が貫いた。
「敵機消失」
神田が安心した声を出す。
「やったねカグちゃん」
いつものふざけた態度で渋谷が右手でハイッタッチを求める。
「ふん」
神楽坂は笑顔を隠しつつ荒くハイッタッチを返した。