表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
52/55

Record No.052 館山決戦(1)

「私、あの人嫌いです」

「助けてくれたんだから、そういうことを言うんじゃないのカグちゃん」


 ふてくされた顔でブツブツ言っている神楽坂に渋谷が小声で注意する。


《大丈夫だ。俺も、隊長はもちろん、隊員のお前達も嫌いだ》


 上のフロアにいる三越が通信で返してきた。


《共有通信にしていたので、全員に聞こえていました》


 気まずそうな声で新橋が言ってきた。


「新橋、そういうことは早く言おうね」


 渋谷はハハと苦笑いを浮かべながら言った。




「隊長は大丈夫なんですか?」


 治療ポッドで眠っている守の顔を見ながら神楽坂が第三師団専属の医師に訊いた。


「かなり衰弱しているが、命に別状はないよ」


 老眼鏡でカルテを入力しながら、温厚そうな男性医師は答えた。


「宝塚先生は黒軍随一の医師だ安心していいぞ」


 医務室に入って来た表参道が神楽坂へ話し掛けてきた。


「はっ」


 背筋を正し、神楽坂は敬礼を返す。


「そんなかしこまらなくていい。お前もかなりの傷を負ったと聞いたが」

「私なんて隊長に比べれば……」

「何を言っている。肉体への負担で言えば君の方が重症だぞ」


 神楽坂の言葉を遮って宝塚が言った。


「戦闘の画像データを見たが、自分の体をもっと大事にしなさい。ナノマシンはそんな都合のいいものではないぞ」


 厳しい物言いで神楽坂を見る目には、さっきまでの温厚な表情からは想像出来なかった軍人とは違う静かな迫力が感じられた。


「わかりました。気をつけます」


 自然と背筋を正して敬礼しながら神楽坂は返事をする。


「別に脅しているわけじゃないさ。ただ自分の体を大切にして欲しいだけだよ」


 宝塚は優しい笑みを浮かべて神楽坂の右肘あたりをポンポンと軽く叩いた。


「よし、そろそろ会議室に行くか。京橋が零隊に調べさせていた情報が入ったらしい」

第零特務隊ぜろたいが動いていたんですか?」

「ああ。京橋あいつもいろいろ抜け目ないってことだ」


 第零特務隊は通称を零隊ぜろたいと呼ばれている京橋直属の部隊で、主に隠密行動を任務としているが戦闘能力も特務隊で群を抜いていると言われている。




「大体集まったな。我々特務隊と第三師団がかねてより調査していた永田の違法クローンでの私設部隊の存在と黒帝軍への反逆罪の証拠を掴んだ」


 京橋が目配せをすると、近くにいた秋葉原と似た背格好の男が資料を画面に映し出した。


「九竜軍との密会、収容所やギルドでの第三特務隊との戦闘データ、各有力者からの賄賂を得た入金記録などだ」


 いつもとは違い落ち着いた面持ちで京橋が内容を説明する。


「その証拠を元老会に報告して永田を拘束しようとしたんだが、情報が漏れてしまったようで逃げられてしまった」


 京橋に続いて表参道が口を開いた。


「手がかりはないんですか?」


 秋葉原が京橋に訊く。


「どうも館山の基地に自分の息がかかった隊員達を送り込んでいて、そこに逃げ込んだようだ。情報では市民を人質にして、市内も永田のクローン軍で占拠されているらしい」


 静かに唇を噛み、京橋は苛立ちを露にする。


「それだと攻め込むのも難しいですね」


 秋葉原も肘を机についた姿勢で手に顎をつけ考え込む。


「でも、一刻も早く人質を救出しないと」


 神楽坂が秋葉原達に熱い眼差しを向けて訴える。


「皆わかっているよカグちゃん。でもさ、クローンを相手にしながら救出は難易度高いよ」

「そうだよ。神楽坂もあいつらの戦闘能力の高さは身に沁みているだろう」


 渋谷が諭すように神楽坂を宥め、続いて新橋が諭した。


「だからってジっとしてはいられないです」


 興奮を抑えられず神楽坂は立ち上がり、今度は京橋をグッと見つめる。


「誰も永田が行動を起こすのを待つとは言っていないぞ」


 京橋がニッと笑い言った。


「こういう少数精鋭じゃないと出来ない状況を打開するために特務隊おれたちがいるんだろう?」


 余裕の笑みを浮かべる京橋の圧に押されるように神楽坂は席に着いた。


「その為に特務隊が全部隊集められたわけですか」


 再確認するように秋葉原が京橋に訊いた。


「そういうことだ。第三師団で敵の主力を引けつけて、空いた隙をついて特務隊で人質を救出する」

「我々も参加していいんですか?」

「大牟田がいないのは痛いが、お前達は作戦に必要だ。指揮は任せたぞ、秋葉原」

「了解しました」


 秋葉原は少し緊張気味に敬礼をした。


「では、作戦決行は三日後の午前十時ヒトマルマルマルだ。全員万全の状態で挑めるように準備しておけ」

『了解』


 京橋の号令にその場の全員が気合の入った返事をした。




「大牟田がいなくて本当に大丈夫か?」

「あいつだけが特務隊じゃないぞ」


 会議が終わり、京橋と表参道の二人だけになっていた。


「それはそうだが、あいつの速さがないと救出は厳しいんじゃないか?」

「それは神楽坂が補ってくれるはずだ」

「確かにデータを見ると超速の域には達しているようだが、大牟田程は持続時間も戦闘技術もまだまだだな」

「だが、神楽坂にはそれを超える可能性があると思うがな」

「超速以上の速さを出すとでも?」

「俺は大牟田を信じているだけだ」

「大牟田を?」

「前に言っていたんだ。自分を超える天才が入って来たと」

「黒雷が言ったんだとしたらそうなんだろうな」

「ああ、楽しみにしておけ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ