Record No.051 救出作戦(3)
「ここは俺が引きつけるから、お前達は脱出しろ」
警備兵達の豪雨のような銃弾を床をめくり上げて作った壁で防いでいる中、渋谷は叫んで上野達に言った。
「そんなこと出来ませんよ。隊長を救出しても、渋谷さんがいないんじゃ意味がありませんから」
上野も叫んで言い返す。
「そうですよ。おしゃべりさんがいないと静かで寂しいですしね」
早稲田は時折銃で反撃しつつ言った。
「誰がおしゃべり」
「ぎゃーーーーーーーー」
「ぐわっ」
「がはっ」
渋谷が言い返そうとしたら、敵の悲痛な叫びが響いてきた。
「何だ、何が起こった?」
叫び声が聞こえなくなってから渋谷は敵の方を確認する。
「カグちゃん」
周囲を警戒しつつ、こちらへ駆け寄って来た神楽坂を見て、渋谷はホッとして笑顔になる。
「無事ですか、上野さん、早稲田さん」
いつもの態度で渋谷を無視して神楽坂は二人の安否を確認した。
「俺達は大丈夫だ。むしろ、お前の方こそ大丈夫か?」
傷を負っている姿を見て、早稲田は逆に心配する。
「かすり傷ですから大丈夫です」
「ならいいが。そんな状態でありがとうな」
「いえ、気にしないでください。さあ、早く脱出しましょう」
「あの~、カグちゃん。俺、見えてる?」
「見えていますよ」
「なら、少しぐらい心配してくれても」
「あなたはこれぐらいの敵にやられはしないでしょう」
「それはそうだけど、カグちゃん。って、置いていかないでよ」
神楽坂達は渋谷を残し、走り始めていた。
「てかさ、数多くない?」
渋谷が走りつつ、敵兵を銃で撃ちながら愚痴る。
「例のクローンがやたらといますからね」
先頭でシールドと格闘術で駆け抜けている上野が答えた。
「神楽坂の話じゃ、合体もするらしいですよ」
上野と同じく先頭を走る早稲田が続けて話す。
「うげっ、それって人間なの?」
渋谷がしかめ面で言う。
《止まってください》
新橋の強い口調に全員の足が止まった。
《ガッドシールド展開》
新橋がシールドを展開するとほぼ同時に無数の銃弾が神楽坂達の頭上から降り注いだ。
「くそ、待ち伏せか」
敵を視認して状況を把握した上野が舌打ちをする。
「どうします?さすがにシールドが持ちませんよ」
早稲田も周囲を確認しながら渋谷に言った。
「早稲田と上野で正面にシールド展開、俺が援護するからカグちゃん後は任せた」
「ずいぶんザックリした作戦ですね」
お気楽調子な渋谷に神楽坂が溜息をつきながら言う。
「頼りにしてるよカグちゃん」
「わかりましたよ」
「じゃあ、そういうことでいくよ。新橋、合図したらシールド解除してくれ」
《了解しました》
「スリー、ツー、ワン、ゴー」
渋谷の合図がかかった瞬間、毎日訓練していたかのように見事な連携で各自が動き出した。
「てりゃやああああああああああ」
渋谷の狙撃で一瞬出来た隙に高速ブーストで駆け出した神楽坂は、あっという間に中二階に上がってズバズバと瞬きをする間もない速さで敵兵を斬りまくっていった。
「はあっ、はあ、はあっ、はぁ、はぁ、はぁ」
走り抜いて倒れこみ、柱にもたれ掛かった神楽坂はさすがに疲労で息が乱れていた。
《神楽坂、体内のナノマシン数値が異常値を示している。これ以上ブーストはまずいぞ》
心配した新橋の声が神楽坂の耳に届く。
「わかってる。でも、そんな甘えは許してくれないみたいよ」
そういう渋谷の視線が見つめる先には、数えるのが億劫になるクローン軍団がいた。
「ここでまだ奥の手ってやつかぁ」
思わず溜息をつきながら早稲田は座り込んだ。
「さすがにこれはヤバくないですか?」
上野も同じように早稲田の隣に座り込む。
《反対側からも来ています》
レーダーで確認した新橋の言葉を聞き、全員に絶望感が漂う。
「上野、早稲田、カグちゃんと三人で正面突破して脱出しろ」
「いや、渋谷さんはどうするんですか?」
やれやれという感じで残弾のチェックをしている渋谷に上野が聞き返した。
「後ろは俺が何とか時間を稼ぐからさ」
「そんなこと聞いてんじゃないでしょ」
淡々と話す渋谷に上野が感情的になって胸ぐらを掴んだ。
「上野、お前だってわかるだろ」
苦虫を噛んだような表情をした早稲田がゆっくりと上野の手を外した。
「だけどよ」
「おーい、そろそろ死ぬ準備は済んだかな?」
白服クローンの中で唯一黒服を着ている仮面女が、ナノマシンで拡声させて訊いてきた。
「じゃあバイバイ、カグちゃん」
「ちょっと待って」
渋谷が覚悟を決め歩みだしたとき、壁から大きな地鳴りが響いた。
「何が起こっているんだ、おい新橋」
《この反応は》
早稲田の問いに新橋が答えるより先に、巨大な黒いアーミーが壁を突き破って現れた。
「皆、待たせたな」
「神田、ずるいなカッコ良過ぎだろ」
上野が満面の笑顔で神田に文句を言う。
「すまんすまん。こいつの整備に時間が掛かってな」
「助かったよ」
渋谷は安心して尻を地面についた。
「たった一機で何が出来るっていうの。状況わかってないの?」
「誰が一機だけって言った?」
ほくそ笑みながら神田が言い返す。
「がはっ」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ」
突然、銃弾の嵐がクローン軍団を襲った。
「何?どういうこと」
仮面女は状況を理解しようと必死に周囲を見渡す。
「こちら黒帝軍第三師団参謀三越だ。この施設は我々が占拠した。大人しく投降しろ」
「マジで、どうなんってのこれ」
目の前にいる大軍に、渋谷は呆気に取られていた。




