Record No.050 救出作戦(2)
「どうして……来たんだ」
かなり弱った声で守が秋葉原に訊く。
「隊長を死なせたくないからですよ」
弱々しい姿の守に微笑みながら秋葉原が答える。
「止まってください」
先導していた神楽坂がすっと手を差し出し、二人を止めた。
「あらあら、犯罪者を連れてどこへ行くつもりかしら」
色気全快の黒い服装で待ち構えていた仮面女が、薄暗くなった廊下から現れた。
「隊長は犯罪者なんかじゃない」
神楽坂は仮面女に銃口を向けながら強く否定した。
「それはあなたたちにとってはでしょ」
仮面女は余裕の笑みを浮かべて神楽坂を挑発した。
「このっ……」
神楽坂は冷静さを保つ為、グッと歯を食いしばる。
「秋葉原さん、先に行ってください」
「大丈夫か?」
「心配いりません。隊長を一刻も早く安全な場所へ」
「わかった」
落ち着いた様子の神楽坂を見た秋葉原は、守を抱えて歩き出した。
「行かせるわけ……」
仮面女が守達に投げようとしたナイフを神楽坂が銃で弾き飛ばした。
「腕を上げたようね」
邪魔をされた割りには楽しそうに仮面女は笑っている。
「二人ならどうかしら?」
「がはっ」
背後に殺気を感じた神楽坂は、咄嗟に銃で防御を取ったものの左腕を斬られてしまった。
「あらあら、だいじょ~ぶ?」
背後から白い服を着た仮面女が現れた。
「ふんっ、こんなかすり傷」
白仮面女の安い挑発に、神楽坂は手当て用の布で腕を縛りながら毅然とした態度で答えた。
「相変わらず可愛くない女ね」
黒仮面女は話しながら駆け出した。
「いつまで強がっていられるかしら」
「そっちは相変わらずうるさいわね」
黒仮面女の攻撃を受け止め、言い返しながら神楽坂は蹴りを反撃した。
「隙あり」
「どこが」
背後を取った白仮面女が跳びかかったが、神楽坂は素早く反応して蹴り飛ばした。
『これならどうかしら』
態勢を整えた仮面女達は同時に神楽坂へと斬りかかった。
『ほらほらほら』
「くそっ、うっとうしい」
『あらあら、口が悪いこと』
「その鬱陶しい物言いもやめなさいよ」
『クローンの長所よ。意思疎通システムってやつ。フフフ』
「なら、痛みも共有しなさい」
そう言って前転した神楽坂は起き上がった瞬間に黒仮面女の足を撃ち抜いた。
「ぎゃああ」
短く絶叫した黒仮面女は手で足を押さえ、うずくまっている。
「よくもやったな」
白仮面女は息つく暇を与えない速さで神楽坂にナイフで襲い掛かった。
「一人だとその程度?」
さっきのお返しと言わんばかりに神楽坂は白仮面女を挑発した。
「減らず口を」
誘いに乗った白仮面女は雑な攻撃になり、簡単に神楽坂に武器を奪われてしまった。
「どうする?まだやるの?」
奪ったナイフを銃で破壊した神楽坂は並んで跪いていた仮面女達へ言った。
「ふふ。私達を普通の人間と一緒にするんじゃないわよ」
「何?」
緑色の液体が入った注射器を取り出し、黒仮面女は左腕に射した。
「がははは、ぐへ」
あっという間に全身が膨張した黒仮面女は醜い化物へと変化し、白仮面女を食ってしまった。
「この姿嫌いだけど、あんたを殺せるならいいわ」
原型はほとんどないが、かすかに黒い布が残った怪物が半笑いで言った。
「嫌いなら、私が終わらせてあげる」
呼吸を整えつつ、神楽坂は右手に小太刀、左手に銃を構えた。
「特式、黒嵐の型」
嵐のような回転をしながら銃撃を放ち、距離を詰めた神楽坂は黒仮面女の首を小太刀で斬りつけた。
「ぐふふ、これで勝ったつもり?」
首を斬られた黒仮面女は、細胞を操作して首の傷を修復した。
「この化物」
「あんたも同じようなものでしょ」
「私はあんたとは違う」
「姿はね。でも、ナノマシンで肉体強化して人を殺しているでしょ。クローンとはいえ、薬物で強化した私と大してかわりないじゃない」
「私は戦争を終わせたいから戦っているの。快楽でやっているあんたと一緒にしないで」
「いいえ、あんたも心の底では楽しんでいるのよ」
黒仮面女は図太くなった人差し指を神楽坂に向けて言い放つ。
「あんたは決して平和な世の中じゃ生けていけない。根っこから兵士だからね」
「うるさい。たとえそうでも、私は戦う。あんたみたいな奴から、この国を守る」
走り出した神楽坂は壁と壁を飛び回り、黒仮面女に銃撃の雨を浴びせた。
「だぁあああああああああ」
回復の間を与えないように神楽坂は小太刀で黒仮面女の全身を斬りつける。
「馬鹿な。この姿の回復を上回るなんて」
どんどん上がっていく神楽坂のスピードに追いつけず、黒仮面女は消耗していった。
「これでトドメよ」
助走する距離を作る為、神楽坂は後ろへ大きくジャンプした。
「特式、猪突猛進の型」
一気に駆け出した神楽坂は勢い良く跳び、黒仮面女の首目掛けて両手に構えた小太刀を突き刺した。
「ぎゃあああああああああああ」
突き立てられた小太刀は鈍い音をたてて、黒仮面女の首を引きちぎった。
「今度こそ終わりよ」
着地をして振り返った神楽坂は、黒仮面女の亡骸に小声で告げた。
《神楽坂、無事か?》
モニター越しで戦況を見守っていた京橋が通信で確認をしてきた。
「多少の傷は負いましたが、大丈夫です。隊長達は大丈夫ですか?」
《ああ。新橋が合流して、さっき脱出したから安心しろ》
「わかりました」
《負傷しているとこ悪いが、渋谷達の援護に行ってくれ。脱出に手間取っているようなんだ》
「わかりました。すぐに向かいます」




