Record No.049 救出作戦(1)
「こちら問題なし」
監獄に潜入した神楽坂が無線で報告する。
《隊長は地下十階の最奥に牢獄されているはずです》
外の車両で待機している新橋がハッキングしたデータを見ながら再度全員に確認をした。
「隊長がいくら化物でもさ、ここに収容するっていうのはひどいよな」
そう呟く上野が見上げた施設は、気軽に立ち寄れる雰囲気は微塵も感じられなかった。
守が収容されている施設は凶悪なテロリストやかなりの手練である軍人がいる場所だ。
《ちなみにここから脱獄した奴はいないぞ》
指示を出す為、新橋の隣に立っていた京橋が険しい顔つきで言った。
「マジか」
渋谷がそう言って溜息をつく。
「ほらほら、溜息ついてないで行きますよ」
「そうっすよ。ちゃちゃっと隊長を救っちゃいましょう」
早稲田と上野が軽い調子の笑顔で渋谷を促した。
「お前達は本当にポジティブだな」
渋谷は呆れながら前へ進み始めた。
《よし、陽動は任せたぞ渋谷》
「了解」
《秋葉原、神楽坂、渋谷達が派手に暴れ始めたら潜入開始だ。準備はいいか?》
「こちら秋葉原。問題ありません」
《わかった。頼んだぞ神楽坂。お前のスピードが作戦の要だぞ》
「大丈夫です。私が絶対に隊長を救ってみせます」
京橋からのプレッシャーも落ち着いた表情で神楽坂は返した。
「お前は総司令にも臆すことはないんだな」
秋葉原が微笑しながら感心する。
「これでも緊張はしています」
なぜか怒った口調で神楽坂は言い返した。
ドドォォオオオオオオオ。
そんなやり取りをしていたら正面入り口の方角から爆発音が響いた。
「よし、潜入開始だ」
「了解」
「オラオラ、ストレス溜まっているから容赦しねえぞ」
豪快に笑いながら上野は警備兵達を、言葉通りに容赦なくぶん殴っていく。
「怪我したくない奴は逃げろよ」
早稲田も上野と同じように笑いながら警備兵達を倒していく。
「お前達、陽動だからって油断すなよ」
渋谷は両手に構えた銃で二人を援護しながら忠告した。
「わかっていますよ。でも、こんな要塞みたいな所にしては弱すぎません?」
早稲田が警備兵を放り投げながら返事をする。
「確かにおかしいね。手練れの軍人やテロリスト達も大勢いるから、それを抑える為にも特務隊クラスの奴がいるはずなんだけどな」
渋谷も手応えがなさ過ぎる相手に不安になってきた。
「いるわよ」
「くそっ」
いつの間にか渋谷の背後に立っていた女が耳元で呟き、それに反応した渋谷の銃撃をあっさりとかわした。
「お前はギルドで会ったイカレ女」
銃口の先に立っている女は、ギルドで死んだ女と瓜二つの仮面女だった。
「残念、あなたが知っている個体とは別よ。記憶は共有しているから知っているけど」
「どうしてお前がここにいる?」
「人手不足を補う為よ」
「ふざけるな」
おちょくるような仮面女の口ぶりに珍しく渋谷は熱くなる。
「熱い男は好きよ」
女は余裕な態度で腰から取り出したナイフを右手に持ち、銃弾を弾いた。
「渋谷さん、援護します」
「いや、お前達は次の作戦に移れ」
上野が援護に入ろうとしたが、渋谷は振り返らずに止めた。
「わかりました」
「いいの?」
「何がだ」
「あなた、近距離苦手でしょ」
「見くびるなよ」
ほくそ笑む仮面女にブーストで近づいた渋谷は、素早く銃を小太刀に変形させて斬りつけた。
「ちっ、近いのも強いじゃない」
不意をつかれ、左腕にかすり傷を負った仮面女は距離を取って左手にもナイフを持った。
「あなた、なかなか面倒くさい男ね」
「いい男はそういうもんだよ」
冷静さを取り戻してきた渋谷は、いつもの口調で仮面女に言い返す。
「いいわね。興奮してきたわ。やっぱり殺すなら、あなたみたいないい男じゃないとね」
仮面女は興奮で顔を紅潮させながら言った。
「悪いな。俺には心に決めた女の子がいるんでね」
「始まったな」
渋谷達が戦闘をしている音が秋葉原達の所まで響く。
「じゃあ、私達も行きましょう」
「そうだな。総司令、潜入開始します」
《おう。気をつけろ》
《秋葉原さん、今から監視モニターと警備ガッドの位置を表示させます》
「わかった」
新橋がハッキングしたデータが秋葉原の専用サングラスに映し出される。
「神楽坂、止まれ」
神楽坂を呼び止めた秋葉原は、瞬時に銃を構えて警備ガッドを撃ち落した。
《セキュリティにハッキングしたので警報は切っていますが、もって30分です。それ以上はさすがに敵にバレます》
「わかった」
「それだけあれば十分よ」
新橋の言葉を聞いた二人は一斉に走り出した。
「神楽坂、お前は警備兵を見つけたら1秒以内に気絶させろ。ガッドは俺がやる」
「了解」
二人は言葉を交わさず、見事な連携で兵士とガッドを攻略していった。
《このフロアに隊長が幽閉されているはずです》
最下層のフロアに着くと新橋から通信が入った。
「あれは?まさか……隊長?」
神楽坂の目に入ってきたのは、体中に無数の傷を負い、両手を天井から伸びた鎖でつながれた守の痛々しい姿だった。
「隊長、しっかりしてください」
牢の鍵を銃で破壊して中に入った神楽坂は、守に駆け寄って声を掛ける。
「おま……え、たち、どうして?」
「今は黙ってついてきてください。詳しいことは後です」
さすがに連日の拷問で疲弊した守に、秋葉原は簡潔な説明で終わらせた。




