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戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
48/55

Record No.048 第三特務隊解散(2)

「神楽坂、備品の整理は終わったのか」

「申し訳ありません。まだ終わっていません」

「指示された仕事もまともに出来んのか」

「申し訳ありません」

「ふん。あと一時間以内に終わらせておけ」

「わかりました」


 いちいち意地悪な物言いをして事務長は去って行った。


「神楽坂さん、手伝いますよ」


 いつの間にか神楽坂の隣にひょろっとした男が立っていて、作業を手伝い始めた。


「大宮さん、手伝ったら事務長に怒られますよ」

「いいんです。あの大牟田隊長率いる第三特務隊の方にこんな仕事をさせる方がどうかしています」

「私はもう特務隊ではありませんから」

「いえ、大牟田隊長の不当な嫌疑が晴れる日が絶対に来るはずですから」


 拘束された後、一方的な軍事会議によって弁解するいとまもなく守は幽閉された。

 

 守の幽閉後、第三特務隊の隊員達は地方の部署に各々転属させられ、神楽坂は埼玉支部総務部に配属となっていた。




「カグちゃん、もう仕事には慣れた?」

「渋谷さんこそ、ちゃんとやれているんですか?」


 神楽坂は通信でもチャラさが出る渋谷に毒を吐く。


「仕事が出来る男はどこに行ってもモテテまいるよね」


 神楽坂の毒に全くへこたれずに、渋谷は眩い笑顔を浮かべる。


「心配なさそうですね。では、これで」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよカグちゃん」


 通信を切ろうとした神楽坂を渋谷は慌てて呼び止めた。


「それで、何か調べはついたんですか?」

「へへへ。聞いて驚きなさんな」


 渋谷はもったいぶる態度で笑う。


「何ですか、気持ち悪い」

「永田と天神が裏で繋がっているみたいなんだよね」

「やっぱりそうだったんですね」

「永田が黒帝軍の実権を握り、天神は九竜軍による自治を手に入れる」

「そんな私欲の為に隊長が」


 悔しさがこみ上げてきた神楽坂はグッと拳を握った。


「永田にとって、京橋さんや表参道さんとの覇権争いに最も障害となると思われたんだろうな」

「くだらない」

「隊長は強すぎるからね」

「それで秋葉原さんはどうするつもりなんですか?」

「あいつは京橋さんと一緒にいろいろ手を回しているよ」

「そうですか」

「ごめん。俺、そろそろ仕事に戻らないと」

「わかりました。また何か進展があったら教えてください」

「了解。カグちゃん、あんまり無理しないようにね」

「はい。渋谷さんも気をつけてください」

「嬉しいね。カグちゃんに心配してもらえるなんて」

「じゃあ、また」

「ああ、カグ」


 呆れた顔をしながら渋谷の言葉を途中で遮って神楽坂は通信を切った。




「五十一番、そこに座れ」


 看守に番号で指示された守は、ゆっくりとくたびれたパイプ椅子に座った。


「どうだ、調子は?」


 敢えて気軽な物言いで京橋は守に訊いた。


「のんびりやっています」


 守も平然とした様子で答えた。


「あいつらは大丈夫そうですか?」

「バラバラにはされたが、無事ではある。全員、お前のことを心配していたよ」

「そうですか」

「すまんな。いつもお前に面倒をかけて」

「気にしないでください」

「それと、日向ちゃん達のことは心配するな。俺が責任を持って保護している」

「ありがとうございます」


 守は深くしっかりと京橋に頭を下げた。


「あの……」


 言いかけてチラッと看守を見た守は、言葉を止めた。


「心配するな。そいつは味方だ」

「先程は他の看守の手前とはいえ、大変失礼しました」


 神楽坂と同じ年頃の若い看守は、綺麗な姿勢でお辞儀をした。


 守は気にするなと言い、看守に近づいて頭を上げさせた。


「それで、永田あのひとはどうするつもりなんでしょう?」


 椅子に座り直して、守は話を再開した。


「天神に九州の実権をやって、その見返りに黒帝を乗っ取る協力をさせるようだ」

「暗殺任務は邪魔者を消す始まりだったわけですね」

「そういうことになるな」

「混乱した日本を一つの政権でまとめることには賛同しますが、独裁は止めなくては」

「あんな野郎が実権を握ったら、本当にこの国は終わってしまう」

「黒帝にはこのことは?」

「あのボンクラじじいに言ったら事が大きくなり過ぎる」

「では、特務隊でやるしか」

「ああ。だから、お前にはここを出てもらうぞ」

「でも、どうやって?」

「それは楽しみにしていろ」


 そう言って、京橋はクククっと笑った。




「ということで、これから大牟田を脱獄させる」

『えっ?』


 各地から、急遽京橋の自宅に呼ばれた第三特務隊の面々は戸惑いの表情を浮かべる。


「どうして脱獄なんですか?それじゃ、本当に隊長が軍規違反になるじゃないですか」


 興奮した神楽坂が京橋に詰め寄る。


「まあまあ、カグちゃん。ちょっと落ち着こうよ」


 いつもの軽い調子で渋谷が神楽坂を落ち着かせて座らせた。


「どうぞ、総司令。続けてください」


 ゴホンっと短めの咳払いをして秋葉原が京橋を促す。


「実は、永田が手を回して大牟田を死刑にしようとしているらしい」

「でも、脱獄させた後はどうするつもりですか?」


 秋葉原は冷静な態度で、京橋に今後のことを訊いた。


「特務隊で永田の身柄を拘束する。その後、表参道が掴んだ不正の証拠を軍法会議で提出して大牟田の嫌疑を晴らす」

「それなら、無理に脱獄させなくても」


 新橋が遠慮がちに京橋に問い掛ける。


「表参道が調査を進めてはいるが、下手をすると刑の執行の方が早いかもしれんのだ」

「じゃあ、やるしかないだろう」


 一瞬沈みかけた雰囲気を察し、上野が立ち上がって言った。


「そうだな。ガツンと隊長を助けようぜ」


 上野に続いて、早稲田も立ち上がって言った。


「よし、それでこそ大牟田が育てた奴らだ」


 京橋は嬉しそうな顔を浮かべ、作戦内容を説明し始めた。

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