Record No.047 第三特務隊解散(1)
「諸君、今回はご苦労だった。知っている者もいるだろうが、四神、九竜の連合軍と我が黒帝軍との休戦協定が結ばれたことにより、淡路島での戦闘は本日をもって終了とする。各隊、追って出される日時までに準備を済ませて所属基地へ帰還せよ」
ほんの数時間前、巨大な敷地に集められた兵士達に壇上の摂津から戦闘終了が告げられた。
「それにしても、突然休戦協定なんて。今までしたことなかったですよね?」
荷物を整理しながら上野が言った。
「そうだな。どちらかが撤退や降参はあったが。今回みたいなのは俺も初めてだ」
守も事の経緯がわからず、戸惑っていた。
完全征服を理念に戦争をしてきた黒帝軍は今まで休戦を選択したことはなかった。
「僕達は本部へ帰還なんですね。また別の任務に派遣されると思っていました」
新橋が拍子抜けしたという感じで話す。
「ああ。淡路の戦いでバタバタしていたが、暗殺任務の件で軍法会議に呼ばれた」
「やっぱりそうなります?任務失敗したのはスパイのせいなのにな」
渋谷が守の言葉を聞いてぼやく。
「軍とはそういうものでしょ」
荷物を整理していた神楽坂がイライラした口調で言った。
「それはそうだけどさ」
「第三特務隊の方々、光速道の準備が出来ましたのでどうぞ」
大阪支部の女性兵士が部屋に入って来て守達に声を掛けた。
「わかった。ありがとう。おら、お前達行くぞ」
『了解』
「怪我は大丈夫か?」
「ええ、優しいお兄様のおかげで」
守達を見送りに来ていた高石は、数ヶ所骨折して包帯を巻いていた。
「お前でもこんなにやられるとはな」
「ええ、これで本気じゃなかったから嫌になります」
「いや、逆に手加減する余裕がなかったということだ。あの人は、強がる癖がある」
「気休めでもありがとうございます。それにしても、あいつは末恐ろしいですね」
「神楽坂か?」
「ええ。暴走したとはいえ、あそこまでの速度で戦闘出来るとは」
「ああ。あの才能は本物だ」
「天才が認める天才というやつですか」
「そういうことだ」
わざと自惚れて笑う守に高石も笑った。
「じゃあ、またな」
「先輩、よからぬ噂を聞いたので気をつけてください」
「噂?」
「ええ。あの人が軍法会議で仕掛けてこようと企んでいるらしいです」
「わかった。戻ったら調べてみる」
「では、また」
怪我をしていない右腕で高石は敬礼をして去っていった。
「悪い。待たせたな」
「隊長、遅いですよ。早く帰って休みたいんですから」
「お前はたっぷり休んでいたろうが」
「病み上がりの状態で助けてやった恩人にそんなことを言うのはこの口か」
「ったく。揃うとうるさいな、お前達は」
子供のようなケンカをする上野と早稲田を、呆れた様子で言いながら秋葉原が止める。
「では、第三特務隊。これより本部へ帰還する」
『了解』
「大牟田特級兵、軍法違反容疑で拘束する」
光速道を通ってすぐ、待ち構えていた公安部の兵士に守は手錠をかけられた。
「ちょっと待ってください」
「よせ秋葉原」
「ですが隊長」
「話は俺が直接聞く。こいつらのことを頼んだぞ」
「……わかりました」
黙って状況を受け入れる守の態度に、秋葉原はグッと言葉を呑み込んだ。
「他の隊員は基地の自室で待機だ。外出は禁止とする」
公安部の部隊長がいけ好かない口調で命令する。
「了解しました」
温厚な秋葉原が従順な言葉とは裏腹に、血管を浮き上がらせて拳を握り締めていた。
「おら、歩け」
部隊長が守の背中を小突いて促した。
「こら、てめぇ」
「よせ」
掴みかかろうとした上野を秋葉原が止める。
「心配するな。すぐに戻って来る」
ニッと余裕の笑みを見せ、守は連行されて行った。
「隊長が軍法違反ってどういうことだよ」
「俺に言われてもわかるかよ」
上野が怒鳴り、早稲田も怒鳴り返す。
第三特務隊の面々は、宿舎のリビングで状況がわからぬまま待機していた。
「二人とも興奮しなさんな」
「渋谷さんは隊長が心配じゃないんですか?」
平然としている渋谷に神楽坂が突っかかる。
「だって隊長が言ってたじゃん。心配するなって」
「そうですけど」
「おう、邪魔するぞ」
「総司令」
突然訪問して来た京橋に、秋葉原は慌てて敬礼をした。
「ああ、かしこまらなくていい」
少し頭を抱えた様子の京橋は、ゆっくりとソファに座った。
「総司令、隊長はどういう嫌疑で拘束されたのですか?」
渋い顔をした京橋に秋葉原が問い掛ける。
「大牟田が天神任務以降に情報機密の漏洩、ギルドとの密約など、軍法違反をしたということで拘束されたらしい」
「それは緊急事態の止むを得ない判断で」
「ああ、わかっている。だが、幹部や国民党のジジイ達が騒ぎ立てているようなんだ」
「でも、長官は隊長のこと気に入ってましたよね?」
会話に入ってきた渋谷が京橋に訊いた。
「どうも、永田が根回ししたらしい」
「狸親父が本性出してきたわけですか」
「そういうことだ」
「何か方法はないんですか?」
今度は神楽坂が訊く。
「俺と表参道でいろいろ当たっているところだ。お前達は歯痒いだろうが、辛抱して待っていてくれ」
そう言って京橋が宿舎を出て行った後、しばらく何も言わず全員座っていた。




