Record No.044 淡路三つ巴の戦い(3)
「カグちゃん、冷静にね」
渋谷が言い聞かせるようにゆっくりと神楽坂へ言う。
「わかっています」
神楽坂は深く息を吸い、超速を起動し一瞬で攻の間合いに入った。
「特式、獅子舞の型」
渋谷と見事に息を揃えた攻撃で攻を怒涛の勢いで攻めていく。
「ふんっ、ふんっ、ふんっ、はあっ」
攻は余裕の表情のまま刀で銃撃を防ぎつつ、神楽坂の攻撃を捌ききってしまった。
「嘘だろ、全くかすらないなんて……」
軽口ばかりの渋谷も言葉を失ってしまう。
「しっかりしてください。もう一度いきますよ」
動揺する渋谷に神楽坂は檄を飛ばす。
「ごめんカグちゃん。よし、もう一度やろう」
渋谷も平静を取り戻し、攻に狙いを定めた。
「ていりゃやあああああああああああああ」
「せぇいっ」
「がはっ」
「カグちゃん」
攻は神楽坂のスピードを上回って前蹴りで蹴り飛ばした。
「俺も舐められたものだな。そんなスピード任せの戦い方で倒せると思われているとは」
「はぁ、はぁ、はぁ」
「未来ある若者を手にかけるのは心苦しいが、許せ」
「なら止めてもらえますか」
神楽坂と攻の間に秋葉原が割って入って来た。
「お前も守の部下か?」
「一応副隊長をやらせてもらっています」
「そうか。だが、狙撃手と二人では結果は変わらんぞ」
「二人ならね」
「くそっ、下か」
攻の足元が地割れで盛り上がり、下からアーミーに乗った神田が出てきた。
「はぁあっ」
咄嗟に上へ跳んだ攻は刀で防御を取ったが、高く上空へ押し出される。
「総員、一斉射撃開始」
秋葉原の掛け声で全員が銃撃を攻目掛けて放った。
「総員、射撃止め。やったか?」
秋葉原は不安げに上空を見上げたまま煙が晴れるのを待った。
「竜技、紅蓮乱れ独楽」
攻は小倉の技が易しく思える程の回転と威力で銃撃を弾き返していた。
「くそっ。ダメか」
「秋葉原さん、来ます」
神田がモニターで確認すると、急降下し地上へ降り立った攻が秋葉原達へと超速で近づいていた。
「はぁああああああああああ」
「神楽坂、止まれ」
神楽坂は秋葉原の制止を聞かず、攻の方へと駆けていく。
「竜技、土砕砲」
「特式、風刀烈波の型」
攻が地面に刀を刺し津波のような地割れを前方へ放ったが、神楽坂が超速で刀を振り回して発生させた風の刃で粉々に斬り刻んだ。
「ほう。なかなかやるな」
「はぁ、はぁ、はぁ」
「だが、疲労困憊という感じか。残念だ」
「私はお前を倒す」
「その気概は良しだ」
「てりゃああああああ」
「おうぉおおおおおお」
神楽坂と攻は同時にぶつかり、呼吸をする暇を互いに与えない速さで斬り合った。
「相手の方が速いけど、神楽坂のスピードがどんどん上がっています」
神田が機器の数値を見て驚きの声を出す。
「隊長があいつを隊に入れたのは、戦場で強い相手と戦ってこそ成長すると思ったからだ」
秋葉原が嬉しいとも何とも言えない感情を抱きつつ、神楽坂の戦いを見つめる。
「そんな懐かしんで見ている場合かよ」
「そうだな。神楽坂をサポートするぞ」
『了解』
渋谷に言われて気を取り直した秋葉原が二人に命令した。
「特式、幻影三連突きの型」
残像で相手を惑わせ、その隙を衝いて相手の急所を突き刺す技を神楽坂が繰り出したが、剣先をかするだけで避けられてしまった。
「くそっ、カグちゃんの得意技でも掠るだけか」
「いや、今までは当たりすらしなかったんだ。少しずつだが、動きを捉えつつある」
「確かにまたスピードも上がっています」
距離を取った攻は腹の辺りを触って状態を確かめた。
「ふぅ、今のはやられたと思ったが。あぶない、あぶない」
緊張感が高まっていく戦闘を楽しむように攻は笑う。
「すぅはぁ、すぅはぁ、すぅはぁ。倒す……倒す……倒す」
一方の神楽坂は目が据わり、自分に言い聞かせるように言葉を繰り返していた。
「俺も本気でやるしかないか」
攻はスッと真顔に戻って刀を構えた。
「たおぉぉおおおおおおす」
体内のナノマシンが異常に活性化し、神楽坂はかなり興奮状態になっていた。
「秋葉原さん、神楽坂のナノマシンの数値が上昇していっています」
「渋谷は敵の足止めを。神田、俺が神楽坂に麻酔弾を撃ち込んだら回収してくれ。俺もすぐに飛び乗るから撤退してくれ」
『了解』
「うぉぉぉおおおおおおおおお」
神楽坂は自分の限界を感じつつも、なりふり構わず攻へと駆け出した。
「とおっ、せいっ」
攻はするどい斬撃で神楽坂の刀を払い落とし、腹に右の拳で正拳突きをくらわせた。
「ぐっ」
「任せてください」
軽く数メートル飛ばされた神楽坂をアーミーのクッションで神田がキャッチする。
「神田、カグちゃんは大丈夫なのか?」
「気絶はしていますが、問題ありません」
「渋谷、神田、撤退するぞ」
三人は攻を前に緊張感が高まっていく。
「ああっ、止めだ止め」
そう不貞腐れるように言って、急に攻は刀を鞘に納めた。
「どういうつもりだ」
戸惑いつつ秋葉原は攻へ言った。
「ただ、今はお前達を殺す理由がなくなった。それだけだ」
「何だと?」
「俺は自分達の土地を侵略してくる奴には容赦はしないが、それ以外は出来るだけ殺めたくはないだけだ。それにそいつは先が楽しみだからな」
フッと笑って攻は神楽坂を指差した。
「じゃあ、守によろしく言っておいてくれ」
ちょっと遊びに来たような口ぶりで攻は立ち去って行った。




