Record No.041 ギルド防衛戦(7)
「どうやら片付いたな」
守の足元にはクローンの大軍が息絶えていた。
「さあ、やるか」
小倉はそう言いながら刀の血を手拭いで拭き取る。
「戦場で戦うのは初めてか」
守は軍服の袖でさっと血を拭き取った。
「いつも攻さんが他の奴に手を出させんかったけんな」
「悪く思うなよ」
「それはこっちの台詞た」
『ふうぅぅぅー』
二人は息を揃えるように深呼吸した。
「せりゃやあああああ」
小倉が先に踏み出し、頭上から刀を振り下ろす。
「はぁっ」
守はそれを受け流し、左横に半歩下がってすぐに小倉の背中に斬りかかった。
「ふんっ」
小倉も瞬時に対応し、振り返って守の斬撃を斬り払う。
「せりゃ、せりゃせりゃ、おうぉりゃあぁっ」
態勢を整え、守は斬り技と蹴り技を組み合わせて連続で攻撃をする。
「はぁっ、てぇい、てぇい、ちぇりぇぁあああ」
同じように技を組み合わせて小倉も応戦した。
『おぅおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
「おうおう、すげえな九竜軍の奴、隊長といい勝負しているよ」
神楽坂を背負った渋谷が神田に近づきながら言った。
「あれは九竜軍の副司令だな」
少し遅れて到着した秋葉原が話に入ってきた。
「副司令がわざわざギルド支部まで出向くなんて」
「隊長を警戒してってことだろう」
新橋の疑問に上野が答える。
「ちょっと、いいかげん下ろしてください」
意識を取り戻していた神楽坂が渋谷の背中から離れようとする。
「駄目だよ。超速の酷使で足に相当ダメージあるでしょ」
「もう回復しましたから」
「神楽坂、お前はギルドに治療してもらってこい」
「いえ、このまま戦いを見させてください」
「はぁー、お前って奴は。いいだろう。だが、そこ(渋谷の背中)で大人しくしていろ」
「えっ、いや」
「はいはい。カグちゃん、副隊長の言うこと聞きましょうね」
「……」
神楽坂は不服そうだったが、黙って渋谷の背中から戦いを見守ることにした。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
さすがの守も、連戦続きと小倉との激戦でかなり体力を消耗していた。
「正々堂々とやりたかったなんて青くさいことは言わないぞ」
小倉は疲れている素振りを見せず、冷静な物言いで話す。
「ああ、戦場でそんなことは言わないさ」
守は大きく深呼吸をし、力強く刀を握り構えた。
「おううぅりゃあああああ」
突きから振り上げての面へ守は繰り出す。
「えいっ」
後ろへ下がり、小倉は守の黒刀を下へ叩き払った。
「竜技、紅蓮独楽」
小倉は間髪入れず空高く跳び、縦に高速回転しながら火を纏って守に斬りかかる。
「ぐぅおおおおおりゃやあああああ」
一瞬片膝をついたが、守は血管を浮かび上がらせて弾き返した。
だが、バキィィィィィィィィンという甲高い音が鳴り響き、守の刀は真っ二つに折れてしまった。
「くそっ」
「てりゃやあああああああああ」
好機と言わんように小倉が駆け出し、高く跳んで斬りかかる。
「ギルドシステム、リンクオン」
咄嗟に折れた刀からレーザーの刀身を出した守は、それで攻撃を受け止めた。
「そんな切り札があったとはな」
「昔の女からもらったんだ。いいだろ?」
「ふっ、口の減らない奴だ。そういう所は兄弟そっくりだな」
ジリジリと二人が歩み進もうとした瞬間、薬院の姿が立体モニターで映し出された。
《両者共に戦闘行為を中止されたし。ギルド中立条約に基づき、一切の戦闘行為中止を通告します》
「なぜギルドに我々が従わねばならんのだ」
小倉は通告を無視して戦闘を続けようとしたが、通信が入って止められた。
「何?本部から帰還命令が?ああ、わかった」
通信を終えた小倉が舌打ちをしながら刀を鞘に収める。
「どうやら、お前との決着の場所はここじゃなかったようだ」
「ああ、そうらしい」
守もシステムを切り、折れた刀身を鞘に収めた。
「今度会ったときは命は無いと思え」
小倉はそういい残し去って行った。
「隊長、ご無事で何よりです」
いつの間にか来ていた秋葉原が、スッと肩を貸しながら守に声を掛ける。
「すまない」
「いえ、気にしないでください」
「それで、どんなやり口で事を治めた?」
ギルドに戻って治療を受け、ベッドに横になっていた守は薬院に訊いた。
「上のジジイ共に研究データを差し出した。その代わりに天神と取引をさせたんだ」
「いいのか?大事なものだったんだろ」
「かまわんさ。初恋の男を死なせるよりはマシだよ。じゃあ、また後でな」
フッと鼻で笑い、薬院は部屋を出て行った。
「やる~この色男」
ニヒヒと悪戯小僧のような笑みを浮かべた渋谷が、部屋に入れ替わり入って来た。
「渋谷さん、だからガッドをそういうことに使わないでくださいよ」
新橋が小型ガッドで盗聴していた渋谷を注意する。
「新橋、注意するだけ無駄だ。馬鹿は治らん」
守は諦めた様子で言った。
「隊長、お疲れな所申し訳ありませんが」
気を取り直して秋葉原が話し始めた。
「ああ、かまわん」
「神楽坂は超速の使用限界で治療中ですが、数日休めば問題ないということです」
「そうか。お前達は大丈夫なのか?」
「我々はギルドの治療技術ですぐに治りました」
「ならよかった。そうだ、早稲田よく戻って来たな」
「はい。早稲田二級兵、戻って参りました。またお世話になります」
「またうるさいのが帰って来たな」
「上野、お前も人のことは言えないぞ」
「ひどいな隊長」
『ハハハハハハハ』
 




