Record No.040 ギルド防衛戦(6)
「隊長、探しましたよ」
守がブーストでギルドへ引き返していると、神田がアーミーのスピーカーで声を掛けてきた。
「すまん。敵の電波障害のせいで通信が出来なくてな」
アーミーに飛び乗って助手席に座りながら守は答える。
「とにかく無事で安心しました」
「状況はどうなっている?」
「神楽坂がブースト消耗の為に離脱、渋谷さんが付き添っています。秋葉原さん達も相当疲弊していますが、合流した早稲田と共にこちらへ向かっています」
「わかった。早稲田が合流したのか?」
「そうらしいです。詳しい話は聞いていませんが。それと隊長、薬院さんから連絡がありました」
「何と言っていた」
「本部から許可を取って最新のドローン部隊を中心に応戦しているそうです。ですが、あまり持ち堪えられそうにないとのことです」
「わかった。急いでくれ」
「了解」
「何だこの数?どこから現れたんだ?」
レーダーで敵の数を見た神田が驚きの声を出す。
「ここにもクローンか」
守は浅草とのやり取りを思い出し、眉間に皺を寄せる。
「このまま突っ込みますか?」
「いや、お前はアーミーで距離を取りつつ援護してくれ」
「ですが、隊長も相当消耗されて」
「心配するな。俺があんな頭数だけ揃えた軍団に負けるわけがないだろう」
守は神田の言葉を遮り、ハッチを開けて飛び出した。
「頼もしすぎて怖いですよ」
そう言いながら神田は笑ってしまう。
「薬院、待たせたな」
守はクローンの軍団を一直線に斬り抜けながら通信を繋げた。
「ったく、私を待たせるとはいい身分だな」
薬院は軽口を叩き通信に答える。
「それで本部からの援軍は期待出来るのか?」
「保身しか考えていないジジイ共が渋っていて難しいな」
「となると、やはり自力で撃退するしかないか」
「そういうことだ。迷惑を掛けてすまない」
「いや、むしろこっちの台詞だ」
「隊長、クローン軍団後方から新たな反応です」
「援軍か?」
「いえ、この反応は恐らく九竜軍です」
アーミーの画面に、赤い軍服を纏いウォーターカーで進軍してくる軍団が映っていた。
「こんなときに面倒な奴らだ。天神の差し金か」
クローン兵を倒しながら守は軽い溜息をつく。
《我々は九竜軍第二師団である。領土近辺での戦闘をすぐに停止せよ。さもなくば、九竜国家領土への侵略意思ありとみなし、殲滅行動を取る》
巨大な立体映像で現れた小倉が守やクローン軍へと通告した。
「これは懐かしい顔がやって来たな大牟田」
「そうだな」
「ぐぉおおおおおおおおおお」
「てりゃああああああああああ」
小倉の通告などお構いなく襲い掛かってくるクローン兵を、守は会話をしながら斬っていく。
《こちらの通告に対しての返答とみなし、これより九竜軍は戦闘に介入する》
そう言って小倉は立体映像を切った。
「隊長、何かがこちらに飛んできます」
神田の知らせが聞こえた瞬間、大砲のような光の玉が守とクローン兵との間に飛んできた。
「死んでもらうぞ、守」
消えていく光から現れた小倉は佐々木小次郎を思わせる長刀を持っていた。
「悪いが戦場では死ねないんだ、翔」
旧友との再会を懐かしむ暇も無く、守は刀を構える。
「薬院、神田、俺達と距離を取ってくれ。お前達を巻き込まずに戦う余裕はない」
「わかった。ドローンは撤退させる」
「了解しました。自分は正門まで下がります」
それぞれ守に言われた通り距離を取った。
「はぁああああああああああ」
叫びながら長刀を下から小倉が斬り上げる。
「てりゃやややややややややや」
それを守が斬り下ろした刀で受け止める。
二人の刀が激しく擦れ合い、眩い輝きの火花を散らした。
「おりゃ、せりゃ、くぉらっ」
「はあっ、とりゃ、せいりゃあ」
守の斬撃と蹴りを組み合わせた攻撃を小倉も負けじと返していく。
「腕を上げたな」
「いつまでも上だと思うなよ」
「ぐうぉおおおおおおおおおお」
『うっとおしか』
二人は声を揃えて数人のクローン兵を斬り伏せた。
「守、勝負は一旦お預けだ」
「ああ。邪魔なのを先に片付けるか」
守が背を向けると同時に小倉も背を向け、二人はクローン兵へと駆け出した。
「特式、黒炎嵐舞の型」
『ぎゃああああああ』
ハンマー投げの選手のように超速ブーストで回転し始めた守を中心に嵐が巻き起こり、炎を纏った飛ぶ斬撃がクローン兵達を斬り刻んでいく。
「竜技(九竜戦闘技法)、乱れ燕」
『ぐぎゃああああああ』
小倉は、上下左右に遠心力を利用した斬撃と超速ブーストを組み合わせた攻撃でクローン兵を斬り払っていった。
「どうした守、随分とろくなったな」
「翔、お前こそ息が上がっているんじゃないか?」
守と小倉は攻撃の手を止めず、背を向け合いながら互いに挑発し合う。
「まだまだぁああああああああああ」
小倉は雄叫びを上げながらクローン兵の中を突き進む。
「俺もまだまだだぁああああああああああ」
守もあまり見ない気合いの入った声で叫びつつ突き進んでいった。
「何か隊長楽しそうだな。ハハッ」
危機的な状況なはずなのに、そんなことを微塵も感じさせない姿に神田は思わず笑ってしまった。




