Record No.004 名古屋遠征(1)
「神楽坂三級兵、光速道入ります」
守達に続き、最後に神楽坂が光速道へ入る。
「神楽坂、伏せろ」
眩い光の道を抜けたと思った瞬間、神楽坂は守に突き飛ばされた。
「きゃっ」
間一髪、神楽坂がいた空間にレーザー光線が通っていく。
激しい爆発音が聞こえ、光速道のゲートが崩れた。
「各自、現状を報告しろ」
守は物陰に身を潜め、隊員達に命令を出す。
「秋葉原、上野、早稲田、新橋、フロア内東地点。死傷者なし」
「渋谷、神田、同西地点。死傷者なし」
「大牟田、神楽坂、ゲート側。死傷者なし」
無線で状況を確認し、守は敵を観察した。
「目視でも十九、二十人はいるな。神田、レーダーはどうだ?」
「正面に八人、左右に六人ずつです」
神田はすぐに報告する。
「俺と神楽坂が正面、上野と秋葉原が左、早稲田と渋谷が右、神田はサポート、新橋は索敵しつつ小型マシーンを準備だ。なるべく生かして情報を聞きだす」
『了解』
守の命令に隊員が声を揃える。
「三、二、一、ゴゴ、ゴーーー」
掛け声に全員が統率の取れた陣形で動いた。
「はっ、たーーーーー」
ブーストで加速した守は前衛の三人をあっという間に気絶させる。
「おおーーー」
左右から一人ずつ現れた敵が守に襲い掛かった。
ドン、ドンと正確な射撃が放たれ、神楽坂が敵を仕留める。
「大牟田、敵の鎮圧完了」
守が後衛の敵に関節技を極めながら状況を報告した。
「上野、完了」
「早稲田、完了」
左右の二人から少し遅れて報告が入る。
「神田、敵の反応はあるか?」
「とりあえずフロア内には見当たりません」
「よし、各自敵を拘束してゲート前に戻れ」
「こいつらはレジスタンスの遊撃部隊です」
秋葉原は、尋問した結果を守に報告した。
「やはりか。だが、どうやって基地内に入ったんだ」
「どうやら名古屋支部にスパイを送り込んでいたようです」
「隊長、本部に通信繋がりました」
損傷していた機材を修復させた新橋が守に呼び掛ける。
「わかった」
守はすぐさまモニターの側に駆け寄り、京橋に現状を報告した。
「思った以上にまずい事態になっている」
守の報告を一通り聞いた京橋は、深刻な顔をして話し始める。
「どうなっているんですか?」
「スパイの手引きで侵入したレジスタンスにゲートを占拠され、武器庫がある第三エリアで名古屋本隊が交戦中、分隊は半数が捕縛され、名古屋駅付近に撤退している」
「いくら手引きがあったとしても、脆過ぎませんか?」
個々でスキルが高い人間は少ないが、名古屋支部は連携の良さで知られていた。
「どうやら九竜軍が手引きしたらしい」
「九竜軍が?」
「各地に潜伏していた九州出身者が集結したみたいだ」
京橋の言葉に、守は苦虫を噛んだような顔になる。
「それでお前たちには悪いんだが」
「言ってください」
京橋は真剣な表情になり言葉を発した。
「大牟田特務隊、名古屋支部奪還、レジスタンスの本拠地制圧を命ずる」
「了解しました」
返事をし、守はスッと敬礼する。
「すまない」
「軍人ですから」
そう言って、守は通信を切った。
「全員聞いていたな」
『はい』
「我々は名古屋支部奪還後、予定通り栄のレジスタンスを叩く」
「こいつらはどうしますか?」
早稲田が捕らえたレジスタンスを指差して言った。
「ここに置いて行く」
『了解』
「我々がいるのが第四エリア。名古屋支部はここを合わせ、大きく東西南北四つのエリアに分けられています」
神田が地図をグラナで表示させ、説明する。
「どうやら第一エリアに人員を割いているようで、第二エリアは手薄になっています」
ガットで偵察をした新橋が報告した。
「わかった。これから第二、第一エリアに進行して第三エリアのレジスタンスの本隊を名古屋本隊と挟み撃ちする」
「陣形はどうしますか?」
守の命令を聞き、秋葉原が確認してくる。
「早稲田と上野と渋谷、俺と神楽坂と神田、秋葉原と新橋の三チームに分ける」
「わかりました」
編成を聞いて秋葉原は全員に伝えた。
「いや~久しぶりの遠征でトラブルばっかりだね」
渋谷が首をほぐしながら神楽坂に話し掛ける。
「あなたの無駄口は変わりませんけど」
神楽坂はいつものように冷たく渋谷をあしらう。
「カグちゃんの言葉は身が引き締まるね」
渋谷は堪らないと言わんばかりに嬉しそうな顔をしている。
「変態」
神楽坂は表情を変えずボソッと言い、守達の側へ歩いていく。
「ちょっとカグちゃん」
渋谷は甘える声を出して後をついて行った。
「隊長、捕虜の処理完了しました」
早稲田と上野が、処理を終え隊に合流する。
「よし、第二エリアへ進行を開始するぞ」
守の命令で、全員が一斉に駆け出した。
「外に五人、一階から三階まで各フロアに十人ずつ配置されています」
第二エリアの状況を神田が報告する。
「渋谷たちは正面から、俺達が屋上から、秋葉原は入り口で援軍を阻止しつつ全体のサポートだ」
報告を聞き、守が命令を出した。
「カグちゃん、僕の狙撃術に惚れちゃ駄目だよ」
正面の敵に狙いを定めつつ渋谷が軽口を叩く。
「さっさとしてください」
神楽坂は全く相手にせず言った。
「逆にやる気で出た」
スッと渋谷が真剣な顔になる。
「お前も大変だな」
守は小声で隣にいる神楽坂に言った。
「慣れました」
装備を確認しつつ返事をする。
「フッ」
それを聞いていた神田は吹きだして笑ってしまう。
「正面クリア」
そうこうしているうちに、渋谷が正面の敵を片付けていた。
「突入」
守は瞬時に切り替え命令を出す。
「俺が突入する。お前たちは距離を取って援護しろ」
『了解』
屋上に辿り着いた守達は、三階の様子を探りつつ打ち合わせする。
「一階が敵の攻撃を受けています」
三階にいるレジスタンスのリーダーらしき男に、部下の報告が入る。
「お前達三人は応援に行け。残りは引き続き待機だ」
『了解』
リーダーに命令された敵兵達は、急いで階段を下りて行った。
「行くぞ」
人数が減ったのを確認して守は飛び出していく。
「敵襲」
守に気付いた敵兵が慌てて銃口を向けた。
「ふん」
守は容赦なく敵兵を斬り倒す。
「ぐは」
白目をむいた敵兵が足から崩れて倒れた。
「ふん、は、は」
守は次々に敵兵をなぎ倒していく。
「くそーーーーー」
敵リーダーが激しく銃撃してきたが、守は危なげもなく壁に身を隠してかわす。
「排除します」
神楽坂は躊躇なく敵リーダーの脳天を打ち抜いた。
「三階クリア」
静寂になり神田の声が無線で届く。
「隊長、一階クリアです」
続いて秋葉原が報告をしてきた。
「わかった。二階を制圧するぞ」
「手応えがなさ過ぎるな」
第二エリアを制圧した守は疑問に思う。
「そうですね」
秋葉原も同感に思い頷く。
「いくらレジスタンスでも動きが悪すぎる」
守は倒したレジスタンスが軍人でないとは言え、戦闘に不慣れな人間が多かったことを思い返す。
「これなら人数が揃っていても名古屋支部が堕ちるはずが」
秋葉原も腑に落ちない顔をしていた。
「名古屋支部の人間に訊くしかないか」
守は考えるのを止め、頭を切り替える。
「さっさと名古屋支部を取り返すぞ。全員、気を抜くな」
「任せてください」
まだまだ元気ですという感じで、早稲田がボディビルダーの真似をした。
「おーし、行くぞお前達」
「あれって黒帝の軍服ですよね?」
どうしてだという顔をした新橋が守達に確認する。
第一エリアの外を見回る人間はレジスタンスのボロボロの服ではなく、黒帝軍の軍服を身に纏っていた。
「名古屋支部が堕ちた理由はあれかもな」
敵の格好を見て、新橋とは逆に守は納得した。
「もしかして」
秋葉原も気付いたらしく、まさかという顔になる。
「手引きした人間は軍そのものだったらしい」
「名古屋支部全体が裏切っていたということですか?」
「そこまでかわからないが、かなりの人数と考えた方がいいだろう」
「では、第三エリアでは名古屋同士が戦っている可能性が高いですね」
「これは尚更急がないとな」
守の言葉に全員が黙って頷いた。
「どうして裏切った?」
第一エリアを制圧し、捕らえた名古屋支部の人間を守は尋問していた。
「我々は日本国民で、黒帝に従った覚えはない」
覚悟を決めた顔で敵兵は守を睨みつける。
「そうか」
これ以上は無駄だと思い、守は隊員達の側へ戻った。
「隊長、第三エリアの敵兵は少なくとも千人近くいます」
ガットで偵察した神田が報告してきた。
「あえて第三エリア以外を手薄にして我々を誘導したわけですか」
秋葉原が守に訊いてくる。
「そうみたいだな」
守は目を瞑って考えた。
「第二エリアへ戻り、ウォーターバイクを奪取して静岡支部に避難する」
「名古屋駅には向かわないのですか?」
「罠の可能性が高いからな。もし、味方が残っていたとしても、我々だけでは不可能だ」
「了解」
秋葉原がそう言うのを聞き、他の隊員達もスッキリしない顔をしつつ従った。