Record No.037 ギルド防衛戦(3)
「へろへろになってだらしねえな」
上野の左隣に、ニカッと笑う早稲田が立っていた。
「うるせえよ病み上がり」
そう言いながら、上野は早稲田の肩を小突く。
「一人増えたからどうというんだ」
「言われてるぞ上野」
「お前もだよ」
「行くぞ」
鎧男が強烈な拳の一撃を放つ。
『はっ』
掛け声なしに上野と早稲田は動きを合わせて鎧男の腕を掴む。
『うおぉぉぉぉぉ』
鎧男の勢いを使い、二人は一本背負いを決めた。
「……」
鎧男は黙ったままゆっくりと起き上がる。
上野と早稲田は後ろに飛んで距離を取った。
「で、どうする?」
早稲田が上野に訊く。
「久しぶりにあれをやるしかないだろ」
「病み上がりにやらせるかね」
「ゴタゴタ言っていないでやるぞ」
「わかったよ」
《ちょっとよろしいですか?》
二人の会話に八女が通信で割って入ってきた。
「すまないけど、ちょっと立て込んでるんだよね」
上野が八女の問いに答える。
「早稲田さんにお渡ししたいものがあるので、お受け取りください」
八女がそう言うと、鳥型ロボットがアタッシュケースを早稲田の胸へ放り投げた。
《身体データを頂いていたので、上野さんの戦闘スタイルを参考に用意していたんです》
「おお~ぴったりだわ」
上野と同じギルドの装備を身に着けた早稲田が言った。
「おい、早稲田」
「悪い、悪い」
上野に言われ、早稲田は気を取り直す。
『はぁーーーーー』
二人はぴったりと呼吸を揃え、左右対称に拳を前にして構えた。
『特式(特務隊式体術)、双龍の型』
さらに二人は声を揃えて動き出す。
「ふん、何人で来ようが我の相手ではない」
鎧男はどっしりと二人を待ち構えた。
『たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ」
息の合った動きで鎧男を翻弄し、二人は一気に間合いを詰めて数発の拳を打ち込んだ。
「がはっ」
堪らず鎧男は片膝を地面につけた。
『まだまだ』
二人は容赦なく追い討ちをかける。
「くそ」
鎧男は咄嗟にガードしたが、あっという間にガードを崩されて強烈なボディブローをくらった。
「馬鹿な、私のガードが……」
鎧男から余裕は消え去り、激しい怒りが満ちていた。
「このまま片付けるぞ」
上野はそう言い、深く深呼吸する。
「おうっ」
早稲田も答えて、深く呼吸した。
『特式、双龍怒涛の型』
二人は高速のブーストを発動し、見事にシンクロした動きで鎧男との間合いを詰める。
「私が、人間を超えた私が負けるわけが」
鎧男は全エレルギーをガードに集中させた。
『うぉおおおおおおおお』
双龍以上の威力と数になった攻撃によって、シールドにひびが入る。
「ぬおーーーーー」
鎧男はひびが入ったことに焦り、前面にガードを集中させた。
「い、今です」
ズタボロの新橋が何とか声を振り絞って合図を出した瞬間、強力なレーザーが鎧男の胸を貫いた。
「ぐはぁっ」
鎧男は盛大な血飛沫を胸から出し、前のめりに倒れた。
「黙って死んでろ」
銃を構えたまま両膝をついた秋葉原が、絶命している鎧男に向かって言った。
「秋葉原さん、おいしい所だけズルイですよ」
子供みたいな膨れっ面で上野と早稲田が文句を口にする。
「助かった。お前達のおかげだ」
『えへへへ。照れるな』
秋葉原に礼を言われ、二人は無駄なシンクロで照れた。
「それにしても、特式を全力でやって耐えられるなんて、ギルドすげぇな」
上野が惚れ惚れするようにギルドのプロテクターを眺める。
「確かに」
早稲田も上野に同意した。
「神田、何か敵が可哀想に思えるんだけど」
「そうですね。隊長を見ているみたいです」
渋谷と神田は目の前に横たわる無数の兵士に心の中で念仏を唱えていた。
「神田さん、他の戦況はどうなっていますか?」
超速の反動で汗だらけの神楽坂が神田に訊く。
「秋葉原さんの方は苦戦したみたいだけど、早稲田が合流して何とかなったみたいだ」
「そうですか」
「いつの間に早稲田帰ってきたの?」
「詳しいことは聞いていませんが、ついさっきみたいです」
「隊長はどうなっていますか?」
「さっきから呼び掛けているんだが、センサーも通信も途絶えていて、状況が把握出来ないんだ」
「なら、急いで隊長の」
言葉の途中で何かが舞い降りて来ているのを察知した神楽坂は、咄嗟に後ろへ飛んで難を逃れた。
「さすがにこれは避けられたか」
「油断するんじゃないよ」
「何をビビッている?」
「別にビビッてないわよ。三号がやられたらしいから、警戒しろって言っているの」
神楽坂の視線の先ではピエロのような仮面を被った男と女の二人組みはぶつぶつ言い合っていた。
男は青色の、女は赤色のローブを羽織っている。
「あなた達、何者なの?」
「何者でもないわよ」
「は?」
「強いて言えば、被検体かしら」
「神楽坂、注意しろ。秋葉原さん達が遭遇した奴と一緒なら、普通の人間じゃない」
「ひどいわね。これでも人間よ」
「おい、さっさと片付けるぞ」
「はいはい」
仮面男は両手に片手銃、仮面女は両手に片手剣を持って構えた。
「ここは私一人で大丈夫ですから、二人は隊長の所へ」
「カグちゃん一人には出来ないよ」
渋谷は神楽坂の言葉を無視してアーミーから降りた。
「神田、隊長の所に行ってくれ」
「わかりました」
真剣な渋谷の物言いに神田は言う通り守の救援に向かった。
「さあ、俺とカグちゃんの連携をとくと見なさい」
「もう勝手にしてください」
諦めた神楽坂は溜息をつきながら、仮面の二人組みに向き合った。




