表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
33/55

Record No.033 超速の壁(3)

「今日は複数相手のトレーニングだ。それと、お前はブーストを使うな」


 守は、モニタールームから無線越しに神楽坂に言った。


 神楽坂は、五十メートル程度の正方形型の訓練場に立っていた。


「私だけですか?」

「そうだ」

「隊長は参加されないんですか?」

「そうだ」

「……わかりました」


 神楽坂は渋々という感じで返事をした。


「お前達、手を抜くなよ」

『了解』


 守の気迫のある声に、隊員達は背筋を伸ばす。



「秋葉原、俺が言ったことを基本に命令しろ」

「わかりました」

「よし、訓練開始」


 守は開始を告げ、ブザーを鳴らした。


 ブザー音と同時に秋葉原達は陣形を整える。


「まずは遠距離」


 ボソッとつぶやき、神楽坂は渋谷目掛けて攻撃しながら前進していく。


「させない」


 神楽坂が動く前に移動していた新橋がシールドで渋谷を守った。


「サンキュ」


 礼を言いながら、新橋の後ろから横跳びで右へ出た渋谷が反撃する。


「くっ」


 頬に掠ったものの、ギリギリで神楽坂は攻撃をかわした。


「さすがカグちゃん、ブーストなしで俺の攻撃かわすとは」


 ヒューっと口笛を吹きつつ、渋谷は神楽坂を褒める。


「褒めてないで次お願いします」


 呆れながら新橋が言った。


「へいへい」


 軽口を叩いているが、渋谷は冷静に神楽坂を的確な射撃で追い詰めていく。


「上野」


 秋葉原に名前だけ呼ばれた上野が、スッと神楽坂の前に立ちはだかった。


「ちっ」

「先輩に舌打ちしやがったな」


 思わず出た神楽坂の舌打ちを聞き逃さなかった上野が、豪快に右拳で神楽坂を吹っ飛ばす。


「がはっ」


 端の壁に叩きつけられた神楽坂の口から唾液が盛大に吐き出された。


「まだまだ」


 愉快な笑顔を浮かべながら上野が駆け出す。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 必死に呼吸を整えながら神楽坂は立ち上がった。


「遅い」


 上野の回転蹴りが神楽坂の左側頭部に決まり、まるで漫画のような回転で神楽坂が転がっていく。


《そこまで》


 神楽坂の動きが完全に止まったのを確認した守の声がスピーカーから響いた。




「神楽坂、どうして負けたと思う?」

「相手の誘導にはまり、自分の戦闘が出来ていませんでした」

「何故だと思う?」

「自分が思っていた以上にブーストに頼っていたんだと」

「確かにな。では、どうすればいいと思う?戦場で同じようにブーストが使えなくなったときに諦めるのか?」

「いえ、軍人として諦めるという選択肢はありません」


 神楽坂は強い意志のこもった声で返事をした。


「では、どうすればいいと思う?」

「それは……」


 守の問いに神楽坂は言葉が詰まってしまう。


「状況判断の正確さ、速さの向上。敵勢力の情報収集。そして、反応速度の向上」

「反応速度の向上ですか?」

「ああ」

「反応速度を上げたとして、ブーストを使う相手に通用するのですか?」

「いいだろう。俺が手本を見せてやる」


 そんなことで勝てるのか信じられない様子の神楽坂に、守は自信に満ちた顔で言った。




「神楽坂、俺だけでなく全体をしっかりと見ていろ」


 守はモニタールームにいる神楽坂に言った。


「わかりました」


 返事をした神楽坂は、少しでも守の戦闘技術を盗もうとモニターを食い入るような姿勢で見つめた。


「秋葉原、お前が考えて命令しろ」

「了解しました」

「いつも戦場で俺を補佐しているように戦略を練ればいいんだ。気軽にやれ」

 秋葉原の声から不安を感じとった守は軽く励ました。


「わかりました」


 守の気持ちを悟った秋葉原は力強く返事をする。


「お前ら、準備しろ」

「りょ~かい」

「渋谷、俺が相手じゃやる気出ないか?」


 だるそうに返事をする渋谷に守が呆れた感じで訊く。


「そりゃあ、愛しのカグちゃんみたいには出ませんね」


 渋谷は開き直った様子で答えた。


「わかった。お前は一発で終わらせてやろう」

「いや、逆にきつそうなので、勘弁してくださいよ~」


 腕を組んで言い放つ守に、渋谷はいつもの軽い調子で懇願した。




「神楽坂、始めろ」


 開始位置に立った守は、モニタールームにいる神楽坂に言った。


「はい。では、訓練開始」


 神楽坂は守と同じように開始を告げ、ブザーを鳴らす。


「ゴーーーーー」

『ウォーーーーー』


 開始直後、秋葉原が号令を勢いよくかけ、上野と神田が気合いの入った声を出し駆け出した。


「ステルスオン」


 後ろを走っていた神田が、ガッドのステルス迷彩で上野ごと姿を隠す。


「そう来ると思ったよ」


 守は横一線に腕を回しながら銃撃し、上野達の居場所を見つけた。


「はぁあ」


 守は高くジャンプし、刀でシールドごとガッドを叩き斬った。


「せりゃっ」


 上野はすぐに体勢を整え、守に回転蹴りを繰り出す。


「ふん」


 守は受け流しながら上野の足を掴んで放り投げた。


「がはっ」


 背中から叩きつけられた上野は動きが止まってしまう。


「たあっ」


 守は間髪入れず、上野の腹に強烈なパンチを当てて気絶させた。


 シュッと音が聞こえた守は腕でガードしながら振り向く。


「があぁぁぁ」


 ガードもろとも神田は蹴りで守を蹴り飛ばした。


「ふっ」


 ニヤリと笑いながら守は着地し、銃を両手に構えて神田の両足を訓練弾で痺れさせた。


「何か嫌な予感」


 守の動きに悪寒を感じた渋谷が呟いた瞬間、心臓を低電流の訓練弾で打ち抜かれて気絶した。


「渋谷、約束通りに一発で終わらせてやったぞ」


 そう言いながら手早く近距離装備に換えて、守は秋葉原目掛けて走り出す。


「秋葉原さん」

「馬鹿っ」


 秋葉原が動転し歩み出した新橋を静止しようとしたが、見逃さなかった守に呆気なく渋谷と同じように気絶させられてしまった。


「てぃ、とぉりゃ、せい」


 秋葉原はほんの僅か守が新橋に気を取られた隙に、間合いを詰めて連続で打撃を繰り出していた。


「はぁーーーあっ」


 守はまるで秋葉原の行動がわかっていたかのように攻撃を捌き、綺麗なボディブローを返す。


「がぁはっ」


 秋葉原は完全に白目をむいて前屈みに倒れた。


「……訓練終了」


 戸惑いつつも訓練の終わりを告げた神楽坂の声が、冬風のように訓練場に寂しく響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ