表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
32/55

Record No.032 超速の壁(2)

「では、始めます」


 細身の小柄で、白衣を着た管理職らしい中年男性が立体モニターを操作しながら説明を始めた。


 中年男性のネームプレートには八女やめという名前が書かれている。


「・・・・・・」


 薬院は何も言わず、真顔で八女を見ていた。


「ご存知かと思いますが、黒帝軍を始め現在の軍隊は、自衛隊が使用していた機器を改造し、戦闘を行なっています」


 八女は一呼吸し、話を再開する。


「また、特殊加工した素材の軍服により、身体の保護をしつつ、長時間の活動を可能にしています」

「具体的なデータは?」


 少し苛立った顔で薬院が訊く。


「は、はい。えー、特務隊には入隊条件があるのですが」


 緊張のせいで、言葉をつまらせながら八女は話す。


 我慢がきかなくなった薬院は、シルバーのテーブルを怒鳴りながら右拳で叩いた。


「は、はい。ナノマシンを体内に注入することで、脳を解放し、肉体を強化することが可能になっています」


 さらに体をビクつかせながら八女は答える。


「それで?」


 険しい顔つきのまま、薬院は先を促した。


「これまでの実戦テストで採取した彼らのDNAから解析はしているのですが・・・・・・」

「ナノマシンの開発は出来ていないわけか」

「サンプル(献体)があれば、かなり研究は進むのですが。申し訳ございません」

「わかった。その件は、私が何とかする」

「それで、体術の方なんですが」


 薬院の様子を伺いながら八女が話し出した。


「どうだった?」

「武術の心得がある者達に映像を見せた所、常人ではまず無理ということです」

「特務隊独自の体術。それを体得出来てこそ入隊が認められる。選ばれし者の技というやつか」

「アンドロイドに動きを真似させたのですが、結果はあの様でして」

「まあ良い。可能な限りデータを収集しろ」

「かしこまりました」




「隊長は?」


 シャワー上がりで、頭にバスタオルをかぶった渋谷が神田に訊いた。


「訓練しています」


 グラナのシステムチェックをしながら、神田が返事をする。


「一人で?」

「いえ、神楽坂と」

「また?ここに来て毎日だよな」


 そう言い、渋谷はベッドに腰掛けた。


「神楽坂には上の段階に上がってもらわないと、この先厳しいからな」


 装備の点検をしていた秋葉原が答える。


「俺は反対だね」

「隊長だって同じさ。だが、この数ヶ月でそうも言ってられなくなったからな」

「それでも反対だね」


 渋谷は頭ではわかっていたが、もどかしい苛立ちを隠せないでいた。




「違う、こう体を回転するときにだな」


 守は言葉で説明しながら、自分が動いて神楽坂に手本を見せていた。


「はい」


 髪か汗でべっしょりと濡れ、ヘトヘトになりながらも、毅然と神楽坂は返事をする。


「少し休むか」

「まだやれます」

「俺が休みたいんだよ」


 青いベンチに腰を落とした守は、ポンっとタオルを神楽坂に向けて投げた。


「わかりました」


 正直キツかったので、神楽坂は素直に守の隣に座った。


「神楽坂」

「はい」

「どうして黒帝軍に入った?」


 何となく察しはついていたので、守は敢えて理由を訊くことはしていなかった。


「兄から聞いていたと思いますが、私の父はあの隕石落下の際、アメリカ出張へ行っていて亡くなりました」

「ああ。聞いている」

「高校を卒業して、兄は訓練生として黒帝軍へ入隊しました」


 守は何も言わず、神楽坂の言葉を待つ。


「入隊して数年経ち、隊長の部隊へ配属された兄はとても嬉しそうでした」


 守が最年少で特務隊の隊長になったとき、秋葉原や渋谷と一緒に配属されたのだった。


「そんな兄が命を懸けて共に戦った人が、どんな人なのか気になったんです」

「そうか」

「でも、今は自分の意志で戦っています」


 神楽坂はギュッと握りしめた右拳を見つめて言った。


「俺は前にも言ったが、家族の為に入隊した。その気持ちは今も変わらない。だから、早く戦争を終わらせようと戦っている。一人の人間がやれることなんてたかが知れているがな」




「天神様、小倉のギルドにいる黒帝軍はいかがなさいますか?」


 がっしりとした体型の男が、手を後ろに組んだ体勢で訊いた。


「ああ、大牟田の弟か」


 細身で色白の男が、高級ステーキ(稀少品)を優雅な手つきで食べながら返事をする。


「はい。あと、黒帝の永田が何か企てているようでして」

「ギルドを助ける義理もないが、黒帝の好き勝手させるわけにもいくまい」

「では、適当な部隊を手配します」

「いや、小倉を行かせろ」

「副司令をですか?総司令が許可すると思えませんが」

「竜長命令だと言えば逆らえまい」

「かしこまりました」

「フフフ。幼馴染が殺し合う。柳川(やながわ)、面白くなりそうだな。しっかりと映像を記録しておくよう伝えておけ」

「ハッ。仰せのままに」


 そう言って笑う天神に、柳川は返事をしながら軽蔑の視線を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ