Record No.030 淡路合戦(4)
サウスは腕の通信端末で時刻を確認し、左手で西淡町方向を指し示した。
「遠距離レーザー砲用意、撃てーーーーー」
号令と共にサウス率いる艦隊から西淡町へと無数のレーザーの雨が降り注がれる。
「堺司令から入電、四神軍、レーザーシールドで砲撃を無効化しているとのこと」
伝令兵が戦況を叫んだ。
「砲撃を続けながら西淡町へ接近しろ」
サウスは冷静に部下へ命令する。
「やはり、読まれていましたね」
交野が眼鏡をくいっと上げて言った。
「そうだね。やっぱり、将鬼が指揮を執っているみたい」
軽く考え込んだ様子でサウスが答える。
「大丈夫なんでしょうか?」
少し離れた所で木津川が向日に訊いた。
「サウス隊長や交野さんがいれば問題ないだろう」
向日は落ち着いた物言いで木津川に言った。
「将鬼相手だと、下手な小細工は意味ありませんね」
交野も龍河のことを知っている様子で答えた。
「よし、力技で押し切ろう」
サウスは腕組みし、満面の笑顔で言った。
「私の部隊もいきますか?」
すっと側に寄って来た向日がサウスに訊く。
「いや、向日ちゃんは部隊をまとめて、堺君を助けてあげて。僕達(第五特務隊)は大将さんに挨拶に行くから」
「摂津管理官の指示はいいのですか?」
「それは僕が謝っておくよ」
「わかりました」
向日は木津川を引き連れ、上陸準備を始めた。
「私は知りませんよ」
交野が呆れて溜息をつく。
「そう言って、久々に暴れられるの嬉しいくせに」
サウスはニヤニヤしながら交野の脇腹を肘で小突く。
「黙りなさい」
ボソッと言いながら交野がサウスの脇腹へ強めの拳を打ち返した。
「ぐっ」
顔を少し青ざめながら、サウスは腹に手を当て前屈みになる。
「ちょっと交野ちゃん、キツイよ〜」
「元気そうですね。もう一発いきますか?」
「いえ、結構です」
「隊長、交野さん、夫婦漫才はいいかげんにして下さい」
八尾が面白がって話し掛ける。
「誰が夫婦漫才だ」
交野は八尾にも容赦のない一撃を入れた。
「ぐえっ」
サウスと同じく、八尾も前屈みになって青ざめた。
「交野さん、この馬鹿は放っておいて、どう攻めますか?」
中肉中背の男が八尾に冷たい視線を送りながら言った。
「天川、酷くない?」
ちょっといじけた態度で八尾は天川を見ている。
「自業自得だろうが」
天川は一切同情する素振りを見せないで言い返す。
《前方に不明小型船群あり、こちらに接近して来ます》
艦隊所属の機士がスピーカーで叫んだ。
「交野ちゃん、八尾君、天川君、狙撃態勢を取って敵の侵入を防いで」
一瞬で真顔になったサウスが三人に指示した。
『了解』
「向日ちゃん、ウォータージェットで上陸するんだ」
「ですが」
「悪いけど、君らがいると本気で戦えない」
「わかりました」
向日は悔しさを感じたが、何も言い返さなかった。
「御所君、香芝君」
『はい』
背格好が同じ男二人が返事をする。
身長は低めだが、ボクサーのように引き締まった肉体だ。
「君達は僕が集中出来るようにサポート頼むよ」
『了解』
「宇陀君」
「はい」
「君はガッドで向日隊長達の援護しつつ、舟の操縦をして」
「了解です」
高身長で細身の男は返事をして、船のメインルームへと走って行った。
「さあ皆、久々の大舞台だ。はりきって行こう」
「呑気にやっている場合じゃありませんよ」
テンション高めのサウスに交野が釘をさす。
「そんな固いこと言わなくても」
「将鬼のお出ましです」
軽くいじけるサウスを無視して交野が言った。
「早いお着きだね」
サウスが海を見ると、船と船を飛び移って向かってくる龍河がいた。
「久しぶりだな銃魔」
あっという間に船へ辿り着いた龍河が銃口をサウスへ向ける。
「どうも」
サウスは平然と龍河の銃撃を躱し、瞬時に反撃した。
「八尾は左、天川は右の狙撃に集中しろ。守りと船内は私に任せろ」
『了解』
「御所、香芝、死んでも雑魚を隊長に近付けるな」
『了解』
交野はサウスが集中出来るように、的確に修正した指示を出していく。
「はっ」
龍河は空中を横回転しながら、サウスへ両手に構えた銃で連射を放つ。
「ほいっと」
サウスも同じように横回転しながら龍河の銃撃を相殺した。
『まだまだ』
どこか楽しそうにサウスも龍河も同じ言葉を叫びながら攻防のスピードを上げていく。
瞬く間にブーストでの高速戦闘になり、銃撃と両手の銃をトンファーのように持ち直した近接戦闘が繰り広げられた。
「はっはっは。これぞ戦いだ」
益々興奮した龍河が高らかに声を上げる。
「僕もあなたも病気ですよ」
サウスは状況を楽しむ自分に呆れながらも、高揚していく感情を抑えられずにいた。




