Record No.027 淡路合戦(1)
「大牟田の行方はわかったのか?」
高級椅子に座り、永田が訊いた。
「恐らく、小倉のギルド支部かと」
報告書を見ながら赤坂が答える。
「何でギルドが大牟田を匿う?」
「理由は不明ですが、見失った位置から間違いはないと思われます」
「全く、しぶとい奴だ」
「どう致しますか?」
「ギルド支部ごと消えてもらおう」
「ギルドは中立で不可侵条約もございます」
「なら、中立でなくせば問題はない」
フッと笑い、永田は煙草に火を点けた。
「摂津の親父は何と言っているんだ?」
ソファーで向かい合って座る表参道に京橋が怒り気味に訊く。
「第三特務隊の消息が途絶えたと」
「九竜軍に捕まったのか?」
「わからない」
「わからないってどういうことだ。支部の報告は?」
「支部は全滅した」
「九竜軍にやられたのか?」
「恐らく違う」
「どういうことだ?」
「報告では、黒帝軍の装備が使われた痕跡が残っていたらしい」
「まさか、大牟田がやったと言いたいのか?」
京橋はテーブルをバンっと叩き立ち上がる。
「理由は不明だが、まず間違いないだろう」
表参道は動じず、静かに言った。
「あいつが裏切るわけがない」
興奮を抑えつつ、ゆっくり京橋は座った。
「逆だ」
「逆?」
「裏切ったのが支部の奴らだとしたら?」
「何の為に?」
「あの人が手を回したと考えると辻褄が合う」
「やりかねんが、大牟田を消して何の得になるんだ」
「詳しくはわからないが、邪魔者を消したいんだと思う」
「それなら、俺達こそ邪魔だろう」
「ゆくゆくはと考えてこそ、今の内に大牟田を排除したいんじゃないのか」
「永田のクソ野郎」
京橋は左の手の平を右拳で思いっきり叩いた。
「名前を出すな馬鹿。誰かに聞かれたらまずいだろうが」
表参道は周囲を気にして言った。
「そのときはそのときだ」
「堺一級兵から入電。四神軍が南あわじに現れました」
大阪支部の兵士が報告した。
「ちまちま攻めおって」
四神軍は上陸と船への撤退を数日繰り返していた。
「高石に増援を寄越せと伝えろ」
「了解」
摂津に言われた兵士は神戸支部へ通信を入れた。
黒帝軍は三原町に摂津、南淡町にサウス、西淡町に堺、緑町に向日が陣を構えていた。
「淡路でケリをつけるぞ」
摂津は兵士達に檄を飛ばす。
「南淡と西淡で戦闘開始しました」
「サウスにつなげろ」
摂津は通信モニターの前に座った。
「どういう状況だ」
『数は少ないですが、小型戦車を盾に耐久勝負という感じですね』
「わかった。無理はせず、守備に徹しろ」
『了解』
「堺につなげろ」
命令された兵士は回線を繋ぎ直した。
「そっちはどうだ」
『三千程の兵が上陸。港の砦が奪われました』
「ったく、何をしている。増援を出すから何とかせい」
『申し訳ありません』
摂津は怒鳴ってすぐに通信を切らせ、近くに立っていた兵士に声を掛けた。
「天王寺、千人程連れて西淡へ行け」
「了解」
地黒で長身の天王寺は素早く部屋を出て行った。
「堺、状況は?」
同期である天王寺は対等な態度で話す。
「港に陣を作ってから何も動きはない」
無愛想な堺には珍しく、気さくな感じで答えた。
「摂津管理官は失望しただろうな」
「大きい損失は出ていないし、そう気にするな」
落ち込む堺の肩を天王寺が二、三度軽く叩く。
「それで、どうやり返す?」
「大牟田隊のやり方を真似る」
そう言った堺は、含みを待たせた笑みを見せた。
「黒帝の奴ら、すぐ逃げましたね」
ラグビー選手のような体格の男が機嫌良さそうに話す。
「安芸、油断はするなよ」
浅黒い肌で品のある髭を生やした中年男が苦言を呈した。
彼らは四人の神が手を取り合うマークを胸に刻んである青い軍服を纏っていた。
「龍河将軍、心得ています。ですが、黒雷もいませんし、心配し過ぎでは?」
「あいつはいないが、銃魔はいる」
「銃魔って、異人でしたよね?」
「悪魔みたいに恐ろしく正確な射撃だった」
龍河は過去の大戦を思い出し、苦い顔になる。
「別部隊が南淡で足止めしている間に、我らが本軍を墜とせば問題はありませんよ」
安芸は自信の笑みを見せた。
「いや、次は何か仕掛けてくるはずだ」
龍河は髭に左手を添えながら立体地図に目を通す。
「何か気になることでも?」
「少しな。安芸、陣の後方に船で待機しておけ」
「そこまで用心する必要がありますか?」
「念の為だ。俺は心配性なんだよ」
弱気な言葉の割に龍河は自信ありげに笑った。
「西淡の四神軍が船に兵を退いているようです」
鳥型ガッドの画像を見た兵士が摂津に報告した。
「堺の読みが当たったか」
摂津は腕組みをし、ニヤリと笑う。
「手筈通りに進めろ。明日、一気にカタをつけるぞ」
摂津は立ち上がり、力強く叫んだ。




