Record No.026 天神暗殺任務(4)
「隊長、どういうツテなんですか?」
車を運転しながら秋葉原が訊いた。
「ギルド(商業組合)の支部だ」
「ギルドですか?」
理解しつつも、思わず秋葉原は戸惑ってしまう。
ギルドは各地方で戦火が広がったとき、大手企業が行政に対抗すべく立ち上げた組織で、全国で経済活動をする為、中立の立場を取っていた。
「図々しい奴だが頼りになる」
「手を貸してくれるんですか?」
「面倒は覚悟しないとだが」
守は気が重そうな声を出す。
「着いたら起こしますよ」
「頼む」
守は秋葉原の提案を受け入れ、珍しく深い眠りについた。
「敵襲」
車に衝撃が走り、後部座席の渋谷が叫んだ。
「秋葉原、走り続けろ」
両頬を叩き、守は無理やり頭を起こしながら指示する。
「渋谷、神楽坂、敵の足を止めろ」
『了解』
二人は荷台のスペースから敵が乗るウォーターバイクに狙いを定め撃っていく。
「神田は全員をサポート、新橋はギルドへ救難信号を送れ」
『了解』
「上野は秋葉原を守れ」
「了解」
助手席にいた上野は敵を仕留めながら、前面のガラスを蹴破った。
「隊長、ギルドの警備ロボットがこちらに向かっています」
神田がレーダーで察知し、報告する。
「わかった。秋葉原、ガンガン飛ばせ」
そう言い残し、守は車から飛び出した。
「本当に化物だな」
一瞬で消えた守を見て渋谷がボソッと漏らす。
「私より負傷しているのに」
神楽坂が複雑そうに言った。
「大丈夫。カグちゃんも十分に化け物だから」
「褒めてます?貶してます?」
睨んではいるものの、神楽坂は頬を赤く染めていた。
「目標確認。これより殲滅する」
冷静な口調で守は報告する。
「くっ。時間がないな」
攻との戦闘で負傷したせいで、普段より呼吸が荒くなっていた。
「はっ」
短く息を吐き出し、守は警備ロボットの頭上に乗った。
警備ロボットが払いのけようと腕を振り回したが、守は軽く避ける。
「ガーガッガッ」
守の動きについてこれず、警備ロボットはオーバーヒートした。
「すまんな」
独り言を呟きながら守は警備ロボットの頭を斬り捨てた。
『隊長、三体まだ来ます』
神田が通信で守に知らせる。
「上等だ」
「神田、隊長の反応は?」
通信が途絶えた守の安否を秋葉原が確認する。
「応答はありませんが、レーダーには反応あります」
「渋谷、どうだ?」
「すまん、引き離せそうにない」
追手の数が多く、撃っても撃ってもキリがなかった。
『秋葉原、速度を上げろ』
「了解」
通信で守に言われ、秋葉原は速度を上げる。
「え?あれって・・・・・・」
守の姿を確認した上野が声を失う。
「警備ロボットの照準がこっちに定まっています」
神田の言葉に全員が固まる。
『いいから突っ込め』
秋葉原は守を信じ、アクセルを踏み込んだ。
「はあーーーっ」
雄叫びのような声を出しながら守が刀で突きを放つ。
突きの衝撃で転倒した警備ロボットのレーザーが車を横切り追手に命中した。
「隊長、乗って下さい」
新橋がドアを開け、手を守に差し出す。
「行け」
乗りながら守は秋葉原に指示した。
「止まれ」
ギルドの警備兵が門前で車を止めた。
「何者だ?」
「薬院に大牟田守が来ていると伝えて欲しい」
「薬院様は忙しいんだ。帰れ」
『いい、通せ』
スピーカーからハスキーな声で指示が出る。
「はっ」
兵はスピーカー近くのカメラに向かって敬礼をした。
「失礼しました。お通り下さい」
警備兵は謝罪し、門を開いた。
「すげえ、ビルばっか」
中に広がる高層ビル群に上野が口を半開きで声を出す。
「不可侵条約があるからな」
秋葉原が車を進めながら言った。
戦争が始まり、高層ビルはテロ対策で低層に変えられていた。
中に入ると、青いスーツ姿の男が車を止めるよう合図を出してきた。
「申し訳ありませんが、ここからは徒歩でお願い致します」
男の佇まいは上品さを感じさせた。
「すごい場違いな気がします」
新橋が小声で話す。
「確かにな」
神田も静かに同意した。
「こちらでお待ち下さい」
洋館のような大広間に案内され、守達は適当なイスに座った。
「大牟田、久しぶりやな」
そう言って現れたのは、女優のように美しい女性だった。
「ああ」
守は少し無愛想に返事をする。
「それで、黒雷さんが何の用かな?」
座り話し始めた目の鋭さに、空気がピリッとなったように隊員達は感じた。
「下関に渡りたい」
「別にいいが、一つ条件がある」
薬院は守にグラナを手渡す。
「それはギルドの新商品なんだよ」
グラナには人型ロボットが映し出されていた。
「それで?」
「その新商品の実験相手になってくれ」
「・・・・・・わかった」
仕方なく守は承諾する。
「契約成立だ」
薬院が立ち上がり、手を差し出す。
「ああ」
無愛想な表情のまま、守は握手した。




