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戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
24/55

Record No.024 天神暗殺任務(2)

「元気にしとったとか?」


 男が守に大声で問い掛ける。


「元気たい。兄貴は元気とね?」


 守は返事をしながら手荒く止血バンドを腕に巻きつけた。


「兄貴?」


 守と攻の会話に神楽坂は思わず動揺してしまう。


「じゃあ、そろそろ行くばい」


 そう言うと、ドンという音を鳴らして攻は壁に飛び乗って現れた。


「戦場には不似合いなべっぴんやね」


 一瞬で間合いを詰めた攻の拳が神楽坂のボディにめり込んだ。


「ぐはっ」


 必死に意識を保った神楽坂だったが、たまらず肩膝をついてしまった。


「たぁっ」


 守が飛び膝蹴りを放ち、攻は数メートル吹き飛ぶ。


「俺の部下に手を出すな」


 いつもと違う深い覚悟を持った守の殺気に、味方である神楽坂が寒気を覚えた。


「もう迷っとらんごたるな」

「前会ったときとは違うけんね」


 朦朧とする意識の中、神楽坂は睨み合う二人を見つめる。


「無駄話はこれぐらいにしとくか」


 背中に携えた鞘をパカッと開き、攻は赤色の長刀を構えた。


「そうやね」


 守も黒刀を抜き、腰を落として構えた。


『せりゃーーーーー』


 二人の気迫のこもった掛け声が重なる。


 瓜二つの声に兄弟だという事実を神楽坂は改めて感じた。


「おいおい、かすり傷ぐらいで剣が鈍るとか」

「うるさか」


 攻の挑発に珍しく守がムキになって言い返す。


「そういう所は相変わらずやな」


 弟の変わらぬ部分に攻はついニヤけてしまう。


 ブーストでの加速をしていないのに、常人離れした速度で刀がぶつかる音が響く。


「とりゃっ」


 ますますムキになって守は攻める。


「そげんか力で守れるとか?」


 攻は守の刀を上に弾き、回転蹴りを喰らわせた。


「がはっ」


 空中に高く飛び、何度か飛び跳ねて守はうつ伏せに倒れた。


「隊長」


 神楽坂の叫びがだだっ広い廊下に木霊する。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ」


 短く荒い呼吸をしながらも、守は力強く構えた。


「おーーーーー」


 守は雄叫びを上げながら走り出す。


「たぁーーーーー」


 攻も正面からそれを迎え撃つ。


 腕を振り下ろした守は刀を上に投げ、両腕に銃を構えて連続で銃弾を放った。


「ふんっ」


 攻は咄嗟に地面のコンクリートを刀で刺し、それを壁にして攻撃を防ぐ。


「馬鹿力が」


 悪態をつきつつも、守はどことなく嬉しそうな顔になる。


「どりゃっ」


 銃撃を凌いだ攻が刀を振りかぶり、コンクリートの塊を守に投げつけた。


「何の」


 落ちてきた刀を手に取った守はみじん切りのように塊を斬り刻んだ。


「また速くなったな」


 間髪入れず攻は飛び出した勢いをつけ、守に強烈な突きを放つ。


「くっ」


 守は刀で突きをそらしてかわした。


「ギアを上げるぞ」


 そう言った攻はブーストで加速した剣技で守に襲い掛かる。


「ふんっ」


 守も負けじと加速し、攻防は激しさを増していく。


「私が……しっかりしないと」


 腹に走る激痛を耐えながら神楽坂は銃を構える。


「甘いっ」


 殺気を感じた攻はナイフを投げ、神楽坂が持つ銃を弾いた。


「そっちこそ」


 素早くもう一丁の銃を構えて撃った。


「やるな」


 するどい弾道に、攻は思わず大きく後ろへ跳んだ。


「今だ、退くぞ」


 一瞬の隙をついて閃光弾を放ち、守は神楽坂を担いでその場を立ち去った。




「痛っ」

「じっとしていろ」


 人気のない倉庫に身を隠し、守は神楽坂の怪我の手当てをしていた。


「隊長、さっきの男は」

「ああ、俺の兄貴だ」

「あれが赤龍」

「赤龍か」


 神楽坂の言葉に守はフッと笑う。


「俺の記憶にある兄貴は気ままな自由人って感じでな」


 神楽坂の横に座った守は小声で話す。


「そんな兄貴に追いつきたくて、俺はいつも必死だった」


 完璧超人のような守しか知らない神楽坂は想像もつかなかった。


「兄貴は俺の全てだった」


 見たことがない守の切ない瞳に神楽坂は亡くなった兄を思い出す。


「た……た、隊長、聞こえますか?」


 途切れながらだが、秋葉原からの通信が耳に届いた。


「ああ、聞こえている」

「ご無事ですか?」

「何とかな」


 そう答え、守は秋葉原に経緯を説明し始めた。




「それで脱出は可能そうですか?」

「かなり厳しいな」


 出入り口は全て敵兵で閉ざされ、絶望的な状況だった。


「言った通り、お前達は撤退しろ」

「隊長、カグちゃんを独り占めはさせませんよ」


 渋谷が通信に割って入ってきた。


「こんなときに何を言っているんですか」


 神楽坂はいつものように怒る。


「そんな元気なら大丈夫だね」


 変わらぬ神楽坂に渋谷は安心した。


「隊長、自分もこの馬鹿と同じ考えです」


 いつも逆らわない秋葉原が守に口答えする。


「まったく、お前たちは」


 生意気な部下達に守は嬉しくなり、軽く微笑んだ。


「わかった。やれるだけやってみよう」

「それでこそ隊長です」


 いつもの守に秋葉原も嬉しくなる。


「とは言ったが、どこも突破は難しいぞ」


 冷静に守は状況を再確認した。


「地下水路を使いましょう」


 データを確認していた神田が提案する。


「そこは地下水に沈んでいるんじゃなかったか?」

「新橋がハッキングして通れるようにします」

「わかった。誘導してくれ」

「了解」

「神楽坂、走れるか?」

「もちろんです」


 苦痛を堪え、神楽坂は強がってみせた。


「隊長、俺と上野で陽動をかけるんで、ゆっくりどうぞ」


 渋谷はわざとおどけた口調で言った。




『敵襲ーーーーー』

『くそ、援軍がいたのか』

『うろたえるな。敵は少数だ』


 渋谷達の陽動に混乱した敵兵達が基地内を走り回っていた。


「隊長、そろそろポンプ室が見えます。そこから地下へ行けるはずです」

「わかった」


 守達は神田の誘導で何とかポンプ室の近くまで来ていた。


「少し待ってください。今、ロックを解除します」


 新橋はロックを解除するのを守達は物陰に隠れて待つ。


「お待たせしました」

「待て」


 新橋の合図で飛び出そうとしたが、寸前で守は神楽坂を止めた。


「また」


 守が止めた理由に気付いた神楽坂がうんざりした感じで言った。


 ポンプ室の前には目を閉じ、ジッと立って待つ攻がいた。


「神楽坂、黒炎は出来るな」

「……もちろんです」

 

 守の突然の提案に一瞬固まったものの、すぐに自信のある声で神楽坂は答える。




「よし、なら〈双龍そうりゅう〉の型で行くぞ」

「了解」

「よし、行くぞ」


 指でカウントダウンし、守が先行して駆け出した。


 神楽坂もシンクロした動きで守の背後に隠れるよう走り出す。


 突進してくる守に気付いた攻も真っ直ぐに突っ込んでくる。


「てぁーーーーー」


 守の背後に隠れていた神楽坂が高くジャンプし、両腕に構えた銃で攻の足を止めた。


「おりゃーーーーー」


 一瞬の隙をついた守の強烈なボディブローが決まる。


「くそ……ったれ」


 言葉とは裏腹に嬉しそうな顔で攻は気絶した。

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