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戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
22/55

Record No.022 淡路合同訓練(8)

「神楽坂、こっちだ」


 所々に包帯を巻いた神楽坂に上野が声を掛ける。


「もう大丈夫なのか?」


 神田が心配して訊く。


「問題ありません」


 神楽坂はいつもの無愛想な態度で返事をする。


「その減らず口なら心配ないな」


 上野がぷっと吹き出しながら言った。


「試合始まりますよ」


 マイペースな仲間達に新橋は呆れ顔をしている。


「渋谷さんでも相手がサウスさんじゃキツイな」


 冷静な口調で神田が話す。


「あの人はタダでは負けません」


 神楽坂の言葉に、皆が意外過ぎて固まってしまう。


「本当に大丈夫?」


 新橋は思わずもう一度心配して訊いた。


「うるさい」


 顔を真っ赤にさせた神楽坂はパンっと音をさせて新橋の頭を叩いた。




『二回戦第三試合、渋谷一級兵対サウス特級兵』


 大阪支部の隊員達が出す声援が会場に響く。


「うわ~すごいアウェーな感じ」


 狙撃体勢で開始の合図を待つ渋谷は軽口を叩いた。


 アナウンスで告げられた開始すぐに渋谷の顔を銃撃が襲う。


「ちっ、もう狙いを定めてきたか」


 渋谷は身を隠して弾道を分析した。


「そういうつもりなら」


 サウスの位置を把握した渋谷は反撃し始める。


 二人の訓練弾は中間の地点でぶつかった。


「さすが特級兵様。でも、忍耐強さには自信ありますよ」




「これ、いつまで続きますかね」


 新橋が少し疲れた顔で仲間達に訊いた。


「普通の人間なら、とっくに限界は超えているだろうな」


 それに神田が答える。


 渋谷とサウスは一時間以上、移動しつつ狙撃し合っていた。


「少しずづだが、渋谷の狙いが荒くなっている」


 向日の様子を見てきた秋葉原が話しながら席に着く。


「惜しかったっすね」


 上野は普段通りに明るく声を掛ける。


「俺にしてはな」


 部下の気遣いに秋葉原も空元気まじりで答えた。


「渋谷さんでもサウスさんには勝てないのか」


 新橋は残念という顔になる。


「まだ負けてない」


 神楽坂は力強い表情で渋谷の戦いに目を向けていた。




「特級は皆こんな化物なのかよ」


 愚痴をこぼしつつも、渋谷は集中を切らさず攻撃を続ける。


 サウスはことごとく渋谷の銃撃を撃ち落していた。


「こうなったら、一か八かだ」


《ガンアーマー》


 機械音が装備名を告げる。


 渋谷は転送装置で呼び出した装備を右半身に着け、銃口を土台で支えた。


「カグちゃんと二人もいいけど、一人で撃てたらカッコイイでしょ」


 名古屋で使用した特殊装備を改良したもので狙いを定める。


 渋谷は高まる鼓動を抑え、躊躇わず引金を引いた。


「いけーーーーー」


 いつものお調子者キャラとは違い、必死の形相で叫ぶ。


 速度と威力が増した銃弾がサウスへと襲い掛かる。


「嘘だろ」


 自分が放った弾丸の行く末を見た渋谷は呆然としてしまう。


 サウスが寸分狂わず同じ角度で銃撃を当てて弾道を逸らしたのだ。


「渋谷君、楽しかったよ」


 そう言い放ち、サウスは勝負を終わらせた。




「やっぱり守の部下は逸材ばかりだね」


 通路で待っていた守にサウスが笑顔で言った。


「皮肉に聞こえるぞ」

「とんでもない。あんな弾を正確な軌道で撃てるのは素晴らしいよ」


 サウスはお世辞でなく、心から渋谷を褒め称えた。


「それを弾くお前は化物だ」

「化物にそう言ってもらえて光栄だよ」

「口の減らない奴だな」


 旧友の変わらない言動に守は微笑んだ。




「お疲れ様です」


 控え室で一人佇む渋谷に神楽坂が小声で言った。


「いや~やっぱり特級様は強いね」


 顔を伏せていた渋谷はスッと笑顔になり調子良く答える。


「……」


 神楽坂は黙って近付き、渋谷の目の前で立ち止まった。


「そんな恐い顔しないでよ」


 いつも以上に明るく振舞う渋谷を神楽坂がグッと抱き寄せる。


「カグちゃん、もしかして惚れちゃった?」


 渋谷は照れ隠しでふざけてみせた。


渋兄しぶにいは頑張ったよ」


 かまわず昔の呼び名で呼び、神楽坂はさらに強く渋谷を抱きしめる。


「ずるいよカグちゃん。こんなときだけ優しいなんて」

「さっきのお返し」


 穏やかな声に渋谷はギュッと神楽坂の服を握り、ゆっくりと涙を零した。




「結局残ったのはお前らか」


 闘技場に集めた守達の顔を見て、摂津はつまらそうに言った。


「まだまだ若者には負けられませんから」


 サウスが摂津の愚痴を笑顔で吹き飛ばす。


「それで、何で一箇所に集めたんですか?」


 守は摂津に状況を確認する。


「それはな~」

「早くしてください」


 ふざける摂津を高石が急かす。


「近距離バトルロワイヤルだ」


 なぜか自慢げな顔で摂津は言った。


「言いたくはありませんが、大牟田先輩に有利だと思います」


 高石が軽く抗議する。


「確かにな。だが、実戦では銃士や機士でも近距離戦になることはある」

「不利な状況を己の能力で切り抜けろというわけですか」


 摂津の意図を理解した高石は納得する。


「そういうことだ。お前ら、若手に手本を見せてやれ」


 摂津は守達の肩をワハハと笑いながら叩きながら自分の席に戻った。


「騒がしい人で申し訳ありません」

「お前も大変だな」


 摂津の代わりに謝る高石に守が同情する。


「三人で組み手なんて懐かしいね」


 サウスはマイペースに昔を思い出す。


「京橋さんの部隊にいた頃ですから、十年ぐらい前ですか」


 クールな高石も珍しく微笑んでいた。


「じゃあ、昔と同じく勝たせてもらおうか」


 守もふざけて二人を挑発する。


「それは別だよ」


 サウスがスッと真顔になり構えた。


「同じく」


 続いて高石も構える。


 開始のブザーが鳴ると同時に高速ブーストでの戦いが始まった。


たかちゃん、蹴り強くなったね」

「それはどうも」

「サウス、反応遅くなったな」

「守もでしょ」

「確かに」

「高石、言うようになったな」


 互いに目まぐるしく攻防を繰り返しながら軽口を叩き合う。


「そろそろ本気でやるよ」


 サウスがするどい目になり、後ろにジャンプしながら両手に銃を構えて攻撃した。


 守と高石は超速でそれを避け、二人同時にサウスへ蹴りを喰らわせる。


 それを再び後ろへジャンプし、衝撃を殺したサウスは体勢を整え直す。


「外人イジメ反対」


 ブーブーっと子供みたいにサウスは抗議した。


「二人同時に攻撃するからじゃないですか」


 何言っているの?みたいな顔で高石が言い返す。


「そうだな」


 守も高石に賛同し、完全に二対一になる。


「何だよ二人とも、冷たいね」


 二人の態度にサウスはふて腐れた。


「じゃあ、気を取り直して」


 高石が緩んだ空気を仕切り直す。


「レディーーーーーゴッ」


 サウスの掛け声と共に三人は一斉に飛び出した。


《ヴィィィィィーーーーー》


 突然警報のブザー音が響き、拳はぶつかる寸前で止まる。


『緊急事態発生だ。各部隊の隊長、管理官はミーティングルームに集合しろ』


 普段とは違い、摂津の威厳のある声が全隊員に緊張を走らせた。

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