表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
21/55

Record No.021 淡路合同訓練(7)

「カグちゃん、俺の勇姿見てた?」


 一回戦を勝った渋谷は神楽坂の控え室に来ていた。


「お疲れ様でした」


 お決まりの素っ気無い態度で神楽坂は渋谷の言葉を受け流す。


「天才って罪だよね」

「そうですね」

「瞬殺で勝負決めたんだからさ、もっと褒めても良くないですか?」

「天才だから当たり前でしょ」

「そういう冷たい所がたまんない」


 全くへこたれた様子を見せず、渋谷は嬉しそうな顔になる。


「渋谷、何しているんだ?」


 仏頂面をした秋葉原が入り口に立っていた。


「何って、激励だよ」

「俺には邪魔しているようにしか見えないが」

「わかりましたよ。このガミガミ親父」


 秋葉原にべーっと舌を出しながら渋谷は自分の控え室に戻って行った。


「大丈夫か?」


 入り口に立ったまま秋葉原は話し始める。


「問題ありません」


 そう答える神楽坂の顔は酷く疲れていた。


「近江三級兵に何か言われたか?」

「別に何も」


 いつものように強がる神楽坂を秋葉原は黙って見つめる。


「本当に兄弟そっくりだな」

「似ていませんよ」


 神楽坂は嬉しさを隠しつつ、無愛想な態度で返事をした。


「そうか?辛抱強いのとかそっくりだが」


 戦友に似た素振りに軽く微笑み、少し安心した秋葉原は出て行った。




『二回戦第一試合、向日一級兵対高石副管理官』

『高石様ーーーーー』

『そんな京都女に負けないで』


 容姿端麗でクールな態度の高石に女性隊員達の黄色い声援が飛び交う。


「あのスカした男のどこがいいんだか。運良くシードで上がってきただけだろ」


 完全にひがみ根性で上野が愚痴る。


「そんなんだからモテないんですよ」


 呆れながら新橋は溜息をつく。


「うるさい」


 スパンと気持ちのいい音をさせて上野は新橋を叩いた。


「痛いじゃないですか~」


 痛む頭を擦りながら新橋は文句を言う。


「管理職も出てたんだな」


 上野は無視して話題を変えた。


「あまり前線に出ないから、合同訓練には参加しないのが普通だが」


 管理職は監督が主になるので、合同訓練に参加するのは珍しい。


「どうせ摂津の親父が気まぐれで出ろって言ったんだろ」

「俺に用事か上野」

「げっ」


 ワハハと豪快に笑いながら上野の隣に摂津が座ってきた。


「お久しぶりです」


 神田は落ち着いた態度で摂津に挨拶をする。


「おう、神田。邪魔するぞ」


 摂津は左手を上げて挨拶した。


「摂津管理官、くさじゃない、近いっす」


 上野は肩を組まれ、苦しそうな顔で文句を言う。


「お前は相変わらず生意気やのう」


 そうは言いつつも、摂津は楽しそうに笑っていた。


「初めまして、新橋三級兵です」


 そんなやり取りを見ていた新橋が、緊張した面持ちで敬礼しながら自己紹介をした。


「おう、シーガットを作った小僧か」

「は、はい」

「あれは面白いな。今度ウチの支部の奴らに作り方教えてやってくれ」

「光栄です。自分で良ければご協力致します」


 少し緊張が解れた新橋は、はにかんだ笑顔で答える。


『只今の試合、高石副管理官の勝利です』


 試合が始まって、一分足らずで勝敗がついてしまった。


「あんたじゃない、摂津管理官と話していたら見逃したじゃないですか」

「すまん、すまん」


 全く悪びれ様子もなく、摂津は笑って上野に謝った。


「上野さん、映像が出ていますよ」


 モニターに映し出されたリプレイを新橋が指差しながら言う。


 試合開始直後、二人は互いに高速のブーストで正面衝突した。


 向日が先に振り返って勝負あったかと思いきや、倒れたのは向日だった。


「嘘だろ」


 上野は見当がついていたが、その事実を信じられないでいた。


「何が起こったのか僕にはわかりませんでした」


 新橋は驚きのあまりボーっとしてしまう。


「一瞬だが、超速で背後に回って攻撃したんだ」


 淡々とした口調で神田が新橋に説明した。


「超速が出来るのって隊長だけじゃないんですか?」

「長時間で活動出来るのは大牟田だけだが、一瞬の攻撃なら何人か可能な奴はいる」

「そうだったんですね」

「そうは言っても、上の領域に達している大牟田は別格だな」

「上って、超速より上があるんですか?」


 新橋が目を輝かせて摂津に訊く。


「おっと、つい口がすべった。こればっかりは高石に怒られるから言えん」


 笑って誤魔化しながら攝津は逃げていった。


「上の領域、気になるな」


 好奇心旺盛な子供みたいに新橋は興味を抑えられないでいた。


「あくまで噂だが」


 普段は噂話などしない神田が珍しく話始める。


「教えてください」


 それに興奮して新橋が先を促す。


「隊長の要請で技術部が秘密裏に製作しているらしい」

「無理だろう」


 これも珍しく黙って聞いていた上野が否定した。


「隊長なら出来ますよ」


 ムキになって新橋が言い返す。


「出来るだろうけどさ」

「じゃあ、何が無理だって言うんですか?」

「超速でも体の負担は大きいのに、上の領域なんて自殺行為だろう」


 強力な電磁波によって加速するブーストの負担は計り知れない。


「確かにな」


 神田も同意する。


「そうですけど、僕は見てみたいです。隊長が限界を超えるのを」

「まあ、隊長は化物だからな」

 上野は苦笑いしながら言った。




『二回戦第二試合、大牟田特級兵対神楽坂三級兵』


 黒雷と大型新人の対決に歓声が割れんばかりに会場に響く。


 開始のブザーが鳴ると同時に神楽坂は銃を両手に走り出す。


「はあっ」


 守を視界に捉えた神楽坂は高く飛び、太陽の光りを背に連射を浴びせる。


「てりゃっ」


 それを余裕でかわしつつ、着地間際の神楽坂に守は回し蹴りを放つ。


「くっ」


 神楽坂は腕を十字にクロスさせ蹴りを受け止める。


「せい、せい、せい」


 守は刀を抜き容赦なく追撃をしていく。


「はぁ…はぁ…」


 銃身で刀を逸らしたものの、神楽坂は守の気迫に息を乱してしまう。


「もう終わりか?」


 守は余裕の態度を見せ、神楽坂を挑発する。


「まだまだです」


 息を整えた神楽坂は笑みを見せながら走りだした。




「だいぶ耐久力が上がったな」


 汗だくになった顔を袖で拭きながら守は神楽坂を褒める。


「鍛えていますから」


 強がって神楽坂は言い返す。


「なら、これにはついてこれるかな」


 守は高速のブーストと多彩なフェイントを織り交ぜて攻撃し始めた。


「馬鹿にしないでください」


 神楽坂もシーガットとブーストを組み合わせて反撃する。


「やるじゃないか」


 自分の攻撃を銃撃と蹴りでかわす神楽坂のセンスに守は楽しくなっていた。


「よし、頑張った褒美だ」


 スッと距離を取った守は刀を腰に戻した。


 神楽坂も銃を戻し身構える。


「いくぞ」


 守がそう言った瞬間、神楽坂の視界は真っ暗になっていた。




「カグちゃん、大丈夫?」


 ハッとベッドから起き上がった神楽坂を心配そうな顔で渋谷が見つめていた。


「私は負けたんですね」

「ああ」


 何となく状況を把握した神楽坂に渋谷が答える。


「全く相手になりませんでした」


 溜息をつきながら神楽坂は顔を体操座りした足に伏せた。


「いや、そんなことはないよ」

「慰めはいりません」


 拗ねた子供みたいに神楽坂は言い返す。


「違う。慰めなんかじゃない」


 渋谷は神楽坂の言葉を否定して話を続けた。


「総隊長や特級以外で隊長に超速を出させたのはカグちゃんだけだよ」

「でも負けました」

「この強がり娘が」


 とことん頑固な神楽坂に微笑しながら渋谷は優しく抱きしめる。


「セクハラです」

「黙って泣け」


 そう言われた神楽坂は、渋谷の背中を強く抱きしめて静かに泣き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ