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戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
20/55

Record No.020 淡路合同訓練(6)

『一回戦第二試合、大牟田特級兵対堺一級兵』

『うぉーーーーー』


 守の登場に会場中が異様な熱気に包まれる。


「やっぱり隊長の人気って凄いですね」


 新橋が耳を軽く塞ぎながら話す。


「それはそうだろう。黒帝軍最速最強の男だからな」

「何でお前が偉そうに言うんだよ」


 自慢げに語る上野に神田がツッコむ。


「なあ、相手って強いのか?」


 神田のツッコミを無視して上野が新橋に訊く。


「戦略術は高い評価を得ていますけど、戦闘は平均値ですね」


 新橋がデータを見ながら答える。


「それじゃ瞬殺だな」

「わからんぞ。予選を勝ち抜いているんだ」

「乱戦で運良く生き残っただけだろ」

『試合開始十秒前』


 上野が納得出来ずブツブツ言っていたら、開始のアナウンスが流れた。




「反応が消えたか」


 試合開始のブザーが鳴った瞬間、堺の反応がレーダーから消えた。


「さすが摂津さんが期待するだけはあるな」


 守は小型のグラナをしまって座禅を組んだ。


「挑発しているつもりか知らんが、来ないなら行ってやるよ」


 ガッドで観察していた堺がグラナを少し苛立ちながら操作する。


 あっという間に守を百体程のガッドが囲んだ。


「いくら速かろうが、この数は相手に出来ないだろ」


 堺の指示で一斉にガッドが守へと攻撃を開始する。


「はっ」


 瞬く間に黒い雷がガッドを破壊し、青白い爆発の閃光が辺りを包んだ。


「ば、馬鹿な」


 守の予想を超える動きに堺は動揺する。


「終わりだ」


 いつの間にか背後に立っていた守が堺に刀を突きつけていた。


「くっ」


 唇を噛み締め、堺は悔しがる。


「もう観念しろ」


 固まっている堺に守が降参を促す。


「掛かったな」


 ニヤつきながら堺は手の平に装着していたスイッチを押した。


 地面が割れ、守の足元から黒い色をした人型ロボットが現れた。


「あなたにはこのガッドアーミーの実験台になってもらいます」


 命令が下されたガッドアーミーが守に襲い掛かる。


「すごいな。燃料はどうした?」


 守は慌てるどころか、感心して堺に質問した。


「海水を特殊加工した結晶をって、ふざけるな」


 戦闘中に余裕で質問してきた守に堺は激怒する。


「悪い悪い。あまりにもこいつが凄かったから」


 ブーストで攻撃をかわしつつ守は謝った。


「ふん。いつまでそんな余裕でいられるかな」


 堺はガッドアーミーの速度と攻撃力を上げる。


「本当に凄いな。だが、まだまだ甘い」


 スッと真顔になった守は高速ブーストで数十発の斬撃をガッドアーミーに浴びせた。


 守の攻撃でガッドアーミーは見る影もなくバラバラに砕け散っていく。


「そんな……」


 自信作があっけなくやられてしまい、堺は正座するように崩れ落ちた。


「なかなか良かったが、動きが単純過ぎるな」


 落ち込む堺の肩をポンっと叩いて守は去っていく。


「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ……」


 怒りのあまり堺はひたすら地面を殴り続けた。




「あなたにしては頑張ったんじゃない」


 右手を血だらけにして歩く堺に通路で向日が話し掛けてきた。


「ふん。笑えばいいさ」


 堺は向日を睨みつけ、向日の横を通り過ぎていく。


「秋葉原やあなたの分も頑張るわ」

「勝手にやってろ」

「ええ、勝手にするわ」


 素直じゃない同期のエールに向日は微笑みながら返事をした。




「隊長、さすがです」

「もう大丈夫なのか?」

「ええ。まだ腹がズキズキはしますけど」


 包帯だらけの姿で秋葉原が守を出迎えた。


「お前達は優秀ぞろいだな」

「自分以外は」


 秋葉原が目を伏せながら言う。


「お前はもっと自信を持て」

「痛っ」


 守はスパンと気持ちのいい音をさせて秋葉原の頭を平手で叩いた。


「俺はお前だから副隊長にしたと言っただろう。たとえ、あいつが生きていてもな」

「隊長」


 守の言葉に秋葉原は目を潤ませる。


「ふー。腹が減ったな」

「タコ飯とかどうですか?」

「いいな」


 守達は笑顔で話しながら食堂へ向かった。




「隊長、勝ったよ」


 報告をしながら神楽坂の控え室に渋谷が入って来た。


「当たり前です」


 集中していた神楽坂はいつも以上に冷たい態度で渋谷に接する。


「試合観ればよかったのに」

「対戦相手のことだけ考えたかったので」

「カグちゃんらしいね」

「じゃあ試合なんで」

「いってらっしゃい」


 ちょっと肩に力が入り過ぎているのが心配だったが、渋谷は明るく神楽坂を見送った。




『一回戦第三試合、神楽坂三級兵対 近江おうみ三級兵』


 モニターに神楽坂と小柄な女性が映し出される。


「はあーーーーー」


 神楽坂は試合開始すぐにブーストで駆け出した。


 ものの数秒で近江を捉えた神楽坂は、背後を取って飛び蹴りを繰り出す。


「はいっ」


 不意をついたはずが、神楽坂の蹴りを近江は合気道のようにさらりと投げ飛ばした。


 空中で体勢を整え、木を蹴って反動をつけた神楽坂はすぐに反撃に移る。


「しっ、しっ、しっ」


 ボクサーのような神楽坂のラッシュを近江は鮮やかにいなす。


 完全に動きを読まれた神楽坂は一旦距離を取った。


「どうしてこんな女に当たらないのか不思議そうね」


 近江は余裕の笑みを浮かべながら話す。


「……」


 神楽坂は黙って近江を見据えていた。


「まあ、私みたいな凡人を天才のあなたが知るわけもないわね」

「私は天才じゃない」


 少しカチンときた神楽坂はムキになって言い返す。


「まあいいわ。どれだけ自分が恵まれているか思い知りなさい」


 温和な雰囲気から一転して近江が放った殺気に、神楽坂は一瞬だけ半歩引いてしまう。


「せりゃ」

「そんな雑な攻撃当たらないわよ」


 気持ちで押された神楽坂は焦って蹴りを繰り出すが、あっさりとかわされてしまった。




「神楽坂が押されていますね」

「ふぁふだふふあ(そうだな)」


 秋葉原と食事していた守はタコ飯を頬張りながら答える。


「隊長汚いです」

「すまん」

「相手は大津支部の近江三級兵か」


 秋葉原は知らない人間だった。


「確か神楽坂より二期上の人間で合気道主体の戦い方だ」

「ご存知なんですか?」

「一度ウチの隊に希望を出してきたときに少しだけな」

「そうだったんですね。資質は十分そうですが」

「能力は十分だったが」

「何か問題でも?」


 はっきり口にしない守の態度に秋葉原は気になって訊いた。


「隠そうとしていたが、プライドの高さに危ういものを感じたんだ」

「プライドなら神楽坂も高いですけど」

「あいつのは内面を隠そうと強がっているだけだ」

「そうですね」


 守達は神楽坂の怒った顔を思い出し、そろって笑い出した。




「もう降参かしら?天才さん」


 ひたすら攻撃したが、神楽坂は近江に一撃も当てることが出来ずにいた。


「私は負けない」


 神楽坂の目は消えるどころか熱い闘志が宿っていた。


「すごい自信家ね」


 皮肉のこもった言葉で近江は神楽坂を笑う。


「自信なんかないわ。ただ、第三特務隊の名が軽くないだけ」

「ふん。あんな見る目のない隊長なんて」

「あの人は誰よりも強くて誰よりも真っ直ぐよ」


 神楽坂はいつもの冷静さを取り戻し凛々しく構えた。


「あんたには私の気持ちなんて」


 近江が憎しみの溢れる目で神楽坂を睨む。


 その視線を真っ直ぐに見つめ神楽坂は一気に間合いを詰めた。


「せい、せい、せい、せい、せい」

「くっ……」


 一撃ごとに鋭くなっていく神楽坂の打撃に近江は追い込まれていく。


「はーーーーー、あっ」

 

 近江の捌きが乱れた瞬間、シーガッドで反動をつけた神楽坂の飛び蹴りが放たれる。


「がはっ」

 

 大木に叩きつけられた近江は白目を剥き、うつ伏せに倒れた。


「あんな挑発に乗るなんて、私もまだまだだわ」


 勝ったものの、からかってくる渋谷の姿が目に浮かんだ神楽坂は盛大な溜息をついた。

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