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戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
17/55

Record No.017 淡路合同訓練(3)

「初戦はガンガン攻めるぞ」


 いつも慎重な守にしては珍しい言葉に隊員達は驚く。


「いいんですか」


 嬉しそうな笑顔で上野が守に訊いた。


「ああ。敵は俺達の名前を警戒して下手に攻めてこないはずだ」

「そこを一気に攻め落とすというわけですか」


 秋葉原が頷き納得する。


「陣形はどうされますか?」


 神田が模擬戦のフィールドを立体映像で出して守に訊いた。


「俺、上野、神楽坂で本陣へ奇襲、渋谷は援護、秋葉原、神田、新橋は自陣で待機だ」


 いたってシンプルな作戦にまたも隊員達は驚いてしまう。


「さすがに大胆すぎませんか?」


 新橋が無謀だと言いたげな顔で反論した。


「圧倒的な戦力には時として大胆になるべきだと俺は思う」

「さすが隊長」


 上野が調子良く合わせる。


「お前は細かい作戦が苦手なだけだろうが」


 神田は呆れながら同期の本音を指摘した。


「てへへ」


 上野は厳しい言葉を笑って誤魔化す。


「それで本陣が落とせれば良し、駄目そうなら退いたと見せかけつつ他を攻める」

「私は賛成です」


 珍しく神楽坂が何も反論せず賛同した。


「よし、気合い入れていくぞ」

『しゃーーー』




「さて、かの有名な特務第三部隊がどれほどか」


 顎に髭を蓄えた野生児のような男が腕を組みながらモニターを眺める。


 こんななりをしているが、れっきとした大阪支部の管理官だ。


摂津せっつ管理官、ちゃんと仕事してください」


 副官である高石たかいしが摂津に釘を刺す。


「訓練の監督という仕事をしてるやないか」

「ただ野次飛ばしているだけやないですか」

「部下を応援して何が悪い」

「合同訓練の準備のせいで日常業務が溜まっているんです」


 ダダをこねる子供みたいな摂津に高石は母親のように注意した。


「ったく、口うるさいなぁ」


 ふて腐れながら攝津が書類に手を伸ばす。


「お、始まるぞ」


 訓練開始の時間になりスタートのブザーが鳴る。


「手を動かす」


 興奮して手を止めた摂津にまたも高石が注意する。


「ほんと口うるさいなぁ」




「いくら特務隊と言えど、たった七人でこの大軍に勝てるわけがない」


 大阪支部のさかいが立体映像のマップを眺めながら言った。


 あえて大阪弁を抑えて標準語で話す口調が気取った性格を感じさせる。


 堺は階級こそ一級だが、その能力を摂津に買われて各支部の総指揮を任されていた。


「ですが、大牟田隊長は素手で若手達を制圧された方です」


 補佐を務める京都支部の向日むこうが京都なまりのイントネーションで助言する。


 向日は数少ない女性の一級兵で、闘士としてもかなりの強者として知られていた。


「それは作戦がざるだったからだろう」


 堺はあからさまに向日を見下した態度で話す。


「確かにそれもありますが、あの動きは尋常ではありませんでした」


 向日は苛立った顔は見せず、冷静に反論した。


「大牟田特級兵を含め、あの部隊が優秀なのはわかっている。それを踏まえての作戦だ」


 挑発に乗らない向日に堺は苛立って答える。


「失礼しました」


 向日は堺の態度にそれ以上は黙っておくことにした。




「訓練とは言え、これは地方の反乱抑止も兼ねていることを忘れるなよ」

『了解』


 無線からも伝わる守の真剣な言葉に隊員達の緊張感が高まる。


「よし、かかれ」


 守の号令で全員が各々の行動を開始した。


「上野、神楽坂、一気に縮めるぞ」

『了解』


 守達は予定通り、ブーストで本陣の砦まで駆け抜ける。


「一人で援護って、俺の扱い冷たくない?」


 ダルそうな顔をしながら渋谷が独り言を呟く。


 渋谷は森に身を隠しつつ守達を援護出来る距離に陣取っていた。


「渋谷さん、聞いています?」


 無線で新橋が呼び掛ける。


「ああ、もちろん聞いているよ」

「本当ですか?」


 新橋の声は渋谷を完全に疑っていた。


「それで何?」


 渋谷は新橋に疑われていることを全く気にせず訊き返す。


「隊長達の位置と距離のデータをマップに表示したので確認してください」

「ありがとう。さすが仕事が速いね」


 渋谷は大袈裟に新橋を褒める。


「データは随時更新していきますから」


 新橋はわざとリアクションせず通信を終わらせた。


「何か俺って虐げられキャラになっている気がするな」


「隊長、楽しそうに見えたの気のせいですかね」


 神田がふと感じていたことを秋葉原に訊く。


「あの人は根っからの逆境好きだからな」

「確かにそれはありますね」

「あとは実戦を想定しているとはいえ、気兼ねなく戦闘に集中出来るしな」

「本当に一人で制圧しちゃうんじゃないですか」

「あの女には隊長でも苦戦するかもな」

「あの女?」


 秋葉原の言葉を神田が繰り返す。


「俺も同期研修で数度手合わせしただけだが、近接戦闘では敵わなかった」

「そんな神楽坂みたいなのがいたんですね」

「組み手だけなら神楽坂以上だな」

「是非見てみたいな」


 黙って作業していた新橋がワクワクした顔をして会話に入ってくる。


「あとで映像をたっぷりと見ればいいさ」


 好奇心旺盛な子供のような新橋に秋葉原が微笑ましく笑いつつ答えた。




「こちら大牟田。これから攻撃を開始する」


 訓練開始から数分で守達は敵の本陣前に到着していた。


「隊長、各陣営から敵が出てきます」


 偵察兵器からの情報を新橋が慌てて報告する。


「上野、神楽坂、突っ込むぞ」

『了解』


 突然本陣前に現れた守達に入り口を守備していた兵士達が驚く。


「敵襲ーーーーー」

「上野、暴れ回れ」

「待ってました」


 守の命令に上野が喜んで駆け出した。


「神楽坂、行くぞ」

「了解」


 守と神楽坂は慌てふためく敵を次々と打ち倒していく。




「総司令、敵襲です」


 器士の一人が守達の襲撃を堺に伝えた。


「どういうことだ。敵の反応はなぜ感知されていない?」

「高速移動と敵のハッキング操作で感知が遅くなりました」

「この役立たず共が」


 思わぬ奇襲に堺は机に激しく怒りをぶつける。


「総司令、私も出ます」

「おい、勝手な真似をするな」


 向日は堺の制止を聞かずテントを出て行った。




「神楽坂、大丈夫か?」

「問題ありません」


 背中合わせになった二人は短く言葉を交わし、すぐさま攻撃を再開した。


「距離を取れ、銃撃で動きを止めろ」


 小隊長が部下達に指示を出すが、あざ笑うように守達は兵士達を翻弄する。


「全員下がれ」


 戦場に小型マイクを通した向日の声が響いた。


「副指令?」


 小隊長が指揮官が前線に出てきたことに戸惑う。


「お前達は後方で待機していろ」


 部下達に短く命令して向日がゆっくりと守達に歩いていく。


「たぁーーーーー」


 ブースト全開で神楽坂が向日に飛び蹴りを放つ。


「せい」


 向日は合気道の技で綺麗に神楽坂を投げ飛ばした。


「くっ」

「神楽坂」


 守は受身を取ってすぐさま攻撃しようとした神楽坂を強い声で呼び止める。


「お初にお目にかかります。京都支部一級兵の向日と申します」


 向日はまるで戦国武将の如く堂々と名乗りを上げた。


「第三特務隊隊長の大牟田だ」


 守もそれに礼をして応える。


「はぁーーー」


 冷静な表情から気合いを漲らせた表情に一変させ正拳突きを向日が繰り出す。


「ふしゅー」


 向日の拳を受け止めた守がゆっくりと息を吐き出した。


「はいっ、はいっ、はいっ」


 一瞬探り合いで動きを止めたが、向日は高速のブーストで守を激しく攻め立てる。


「せや、せや、せや」


 守は久々の強敵に珍しくワクワクした顔を見せ拳を打ち返す。


「神楽坂、先に行け」


 ジッと見守っていた神楽坂に戦いながら守が命令した。


「ですが」

「さっさと行け」

「了解」


 少し迷ったが、神楽坂は銃撃の中突き抜けて行った。


「抜け目ないですね」

「安心しろ。正面の敵には真っ直ぐだ」

「なら私も、全力でお相手します」


 向日は刀を抜き、集中した顔つきで構える。


「気が合うな。俺もこっちが得意だ」


 そう言いながらワクワクした笑顔で守は刀を抜いた。

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