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戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
14/55

Record No.014 東北調略作戦(5)

「お世話になりました」

「こちらこそ」


 守と若松は形式的な挨拶を交わす。


「しかし、大牟田隊長があんな手を使われるとは」


 若松は素直に感心していた。


「あなたとは戦いたくないので」


 守も率直な気持ちを答える。


『ははは』


 つい昨日殺伐とした会話をしたとは思えない顔で二人とも笑った。


「管理官」


 黙って控えていた本宮が割って入ってきた。


「ああ、すまん」


 何かを思い出した感じで若松は返事をする。


「大牟田隊長、本宮に一つ稽古をつけてやってもらえませんか」

「別にかまいませんが」

「ありがとうございます。黒雷の異名を持つ技を肌で感じたいようでして」

「そんな大したものではありませんよ」

「隊長」


 若松達を不審に思った神楽坂が守に呼び掛ける。


「いいだろ稽古ぐらい」

「ですが」

「よろしいですかな?」


 笑っているが、若松の目は油断ならない光りを宿していた。


「大丈夫です」


 それに守は気付かぬフリをする。

「では、こちらに」




「隊長が相手をされなくても」


 道場に着いても神楽坂はブツブツ言っていた。


「策士にはあえて正面からぶつかるのが得策なときもある」


 軍服ではなく、守は剣道の胴着と防具を身につけていた。


「そうかもしれませんが」

「たとえ罠だとしても、俺は簡単にやられんよ」


 心配そうに見つめる神楽坂の頭をポンポンと守は撫でる。


「お気をつけて」

「ああ」


 互いに面をつけ、守と本宮は向かい合って礼をした。


 二人は静寂に包まれた空気の中、ゆっくり近づき蹲踞そんきょする。


「始め」


 威厳のある若松の声が開始を告げた。


 本来は三人だが、若松一人で審判を務める。


「せいやーーー」

「ちぇやーーー」


 奇声のような叫び声が道場に響く。


 守の戦いぶりを見たいと福島支部の隊員達が外で野次馬根性丸出しで押し合っていた。


 カチャカチャと竹刀が剣先で静かに触れ合う。


 守も本宮も激しい動きはないが、互いに一瞬の隙を見逃すまいと攻め合っていた。


「てりゃーーー」


 堪えきれず本宮が大きく一歩を踏み出す。


 するどく放たれた突きを守は竹刀で捌きつつ横にかわした。


「たぁーーーメーン」


 さっと体勢を整え、本宮は追い打ちする。


「とりゃ、だっ」


 守は有効打にならいように打突を受け止め鍔迫り合いに持ち込む。


「ふーーー」


 普段は冷静な本宮は熱くなっていた。


「メーーーン」


 本宮は無理やりに守を押して引き面を放つ。


 寸前でかわした打突がパンっと大きな音を立てて守の肩に当たった。


「はっはっはっ」


 今度は守が後ろに下がった本宮を連続で猛追する。


「くっ」


 ギリギリで有効打を避けているものの、本宮は明らかに守の気迫に押されていた。


 二人の目にも止まらぬ攻防に支部隊員達は釘付けになる。


『……』


 互いに息を最小限にして間合いを探り合う。


『メーーーン』


 同時に踏み出し合い面になった二人はぶつかり距離を取って残心ざんしんした。


「一本」


 そう叫んだ若松の手は守の方を指す腕が上がっていた。


『うぉーーー』


 守の美しく鋭い打突に支部隊員達の歓声が道場に響き渡る。


「勝負あり」

 

 若松の掛け声に合わせて守達は互いに礼をして自陣に戻り面を外した。


「さすがです。隊長が負ける姿なんて想像出来ません」


 汗を拭き終わった守に神楽坂が目を輝かせて言った。


「その割に心配そうな顔でずっと拝んでいたが」


 守は意地悪な顔をして神楽坂をじーっと睨んだ。


「ははは。そんなことしていませんよ」


 動揺した神楽坂は慌てて誤魔化す。


「参りました」


 いつの間にか目の前に来ていた本宮が正座して頭を下げる。


「おいおい」


 守はゆっくりと体を持ち上げ本宮の頭を上げさせた。


「いや、神楽坂との訓練でも思ったが、君は腕がいい」

「黒雷とうたわれる大牟田隊長にお褒め頂けるとは光栄です」


 本宮の顔は素直に嬉しそうだった。


「う~ん。やはり全く隙がなかったですな」


 本宮の後ろに立っていた若松が開き直った態度で会話に入ってくる。


「少しでも隙あらば、拘束して人質交換にでもと思ったんですが」

「ご冗談を」


 本心が全く見えない若松に守は無難に相槌を打つ。


「ははは」


 愉快そうに笑う若松を守の隣に立つ神楽坂がギロっと睨んだ。




「名古屋はどうなっている?」

「制圧されるのは時間の問題かと思われます」


 永田に訊かれ赤坂が答える。


「知立め、大牟田だけは殺せと言ったのに」


 イラついた永田は指で机をトントンと叩く。


「福島も失敗したしな」

「大牟田隊長が人質を取るとは」


 赤坂は少し驚いた顔で言った。


「あいつは油断ならん」

「どうして京橋総司令や表参道師団長ではなく、大牟田隊長を狙われるのですか?」

「京橋や表参道はどうとでも嵌めることが出来るからな」

「大牟田隊長は難しいのですか?」

 

 永田に赤坂が訊く。


「あいつにはカリスマ性がある」

「カリスマ性ですか?」

「不思議と学生の頃から人を惹きつけていた」

「確かに黒雷と異名もついてますし」

「昔から兄弟揃って化物みたいに強くて鬱陶しいんだ」

「手駒にすれば利用出来るのでは?」

「いや、あいつは必ず私の邪魔になる」


 永田は確信を持った顔をして言った。


「それならば暗殺者アサシンに依頼してみては?」

「あいつに勝てるような手駒はいない。たとえ上手くいっても京橋が面倒だ」

「だから戦死に見せかけたいというわけですか」


 なるほどと赤坂が頷く。


「それと大牟田の部下も一緒に葬りたいのだ」

「大牟田隊長に忠実ですものね」

「確かにそれもあるが、あの部隊は優秀過ぎる」

「優秀なのはいいことでは?」

「赤坂君、君ぐらいの優秀さが私は好きだよ」


 そう言って笑う永田の瞳は腹黒さに満ちていた。




《的中率九十五パーセント》


 射撃場に機械音声のアナウンスが流れる。


「ふー」


 銃をしまいながら渋谷は息を吐く。


「どうだ肩の調子は?」


 後ろで訓練を眺めていた秋葉原が声を掛けてきた。


「まだ違和感があるな」


 返事をしながら渋谷は肩をほぐす。


「俺なんかよくても八十パーセント後半だ」

「だって俺は天才ですから」

「その口が無ければ尊敬しているんだが」


 いつものチャライ感じで言った渋谷に秋葉原は呆れた。


「隊長達はもう戻ったのか?」

「まだだ」

「午前中には戻るはずだろ」

「あっちの有望株に稽古をつけてやるんだと」

「部隊の人間以外に珍しいな」

「狸爺を黙らせたいらしい」

「まだ何か企んでいるのか」

「隊長はモテるんだよ」

「あんま羨ましくないな」

「大丈夫なのか?」

「心配ないだろ」

「隊長はそうだろうけど」

「神楽坂も大丈夫だろ」

「ならいいけどな」

「お前は心配し過ぎだ」

「あいつと約束したんだよ」


 渋谷は真顔になり右手を見つめて言った。




「引き止めて悪かったね」


 若松は守に握手を求める。


「いえ、お世話になりました」


 守は愛想笑いを浮かべ応じた。


「いつか駆け引きなしでお話ししたいものだ」

「日本が一つになれば出来ますよ」

「そんな日が来るといいが」

「自分は諦めませんよ」


 守の瞳は覚悟の光が力強く宿っていた。


「あなたともまたお手合わせしたいです」


 隣では本宮が神楽坂に握手を求めていた。


「私には勝てるとでも?」


 神楽坂はケンカ腰で手に力を入れる。


「どうでしょうね」


 作り笑いで応じつつ本宮も手に力を入れた。


「ではこれで。神楽坂、行くぞ」

「はい」


 スッと手を離し、神楽坂は守に続いて光速道へと入って行った。

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