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戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
12/55

Record No.012 東北調略作戦(3)

「はっ、はっ、えい」


 腹から出した神楽坂の声が畳仕様の訓練場に響く。


「参りました」


 空手胴着を着た若手の男性隊員が尻餅をついた状態で待ったをかける。


 視察を終えた神楽坂は支部の隊員達の訓練に参加していた。


「次、お願いします」


 礼を済ませると、神楽坂は座って見学していた隊員達に言った。


「おい、お前行けよ」

「お前こそ」

「あんた達情けないわね」

「じゃあ、お前が行けよ」

「馬鹿、女が勝てるわけないでしょ」

「相手も女だろうが」


 神楽坂の強さに福島支部の隊員達は誰も相手になろうとはしない。


「では、私が」


 物静かに佇んでいた本宮がスッと立ち、神楽坂の前まで歩いていく。


「本宮さんが手合わせなんて珍しいな」

「女性隊員にやられたら格好つかないぞ」


 男性隊員達がコソコソと話す。


「お願いします」


 ジッと本宮を見据えて神楽坂は礼をした。


「お願いします」


 本宮も神楽坂に礼を返す。


『……』


 周囲の隊員達は息を呑み、黙って二人を見つめる。


「はっ、はっ、はっ」


 神楽坂が鋭い突きを数発繰り出す。


「ふっ、ふっ、ふっ」


 本宮は声を出さず、短い息を吐きながら綺麗な姿勢で攻撃をかわしていく。


「ふーーー」


 スッと間合いを取った神楽坂はさっと深呼吸をして息を整える。


「はーーー」


 助走をつけ走り出した神楽坂は高く飛んで本宮に殴りかかった。


「ふん」


 本宮は拳を受け止めながら神楽坂を投げ飛ばす。


 神楽坂は空中で体勢と向きを変え、何とか無事に着地をした。


『お~』


 静かになっていた訓練場に歓声のようなどよみきが起こる。


「あれが人間の動きかよ」

「さすが黒雷が認めた天才だな」

「うるさいわよ」


 神楽坂の人並み外れた動きに隊員達は圧倒された。


「せい、せい」


 今度は防御に徹していた本宮が鋭い突きを繰り出してくる。


「くっ」


 ギリギリで受け流しているが、神楽坂の顔は苦痛で歪んでいく。


「せい」


 それを見逃さなかった本宮の重い一撃が見事に決まった。


「はあ、はぁ、はぁ」


 急所は避けたものの、神楽坂は肩膝をついて止まってしまう。


 誰もが勝負あったと感じていたが、本宮は構えを崩さずにいた。


「ふーはーふーはー」


 立ち上がり顔を上げた神楽坂の瞳は力強く輝いていた。


「ふっ」


 その目を見た本宮がクールな顔を崩してニヤつく。


「はい、はい、はい」


 鈍るどころか、キレが増した動きで神楽坂は攻め立てる。


 一進一退の攻防がしばらく続き、互いの眼前で拳が止まった。


「さすがですね」


 ゆっくり構えを解いて本宮は微笑む。


「いえ、そちらこそ」


 ぎこちない笑顔で神楽坂も微笑み返した。


『おおー』


 迫力ある手合わせが終わり、隊員達はさっきは止めた歓声を上げ拍手を送る。


「お前をあそこまで追い詰めるとはやるな」


 その声に神楽坂が振り向くと、タオルとスポーツドリンクを守が差し出してきた。


「あの人、本気じゃありませんでした」


 汗を拭いて言った神楽坂の顔は仏頂面になっている。


「それはお互い様だろ」


 少し微笑みながら守はポンポンと神楽坂の頭を撫でた。


「本気でやったら加減が出来ませんから」


 神楽坂は口を尖らせ、負けず嫌いの感情丸出しで言った。




「俺だ」

「ちょっと待て」


 表参道は溜息をついて呆れ顔をしながらロックを解除した。


「ふー」


 ズカズカ入って来て京橋はドガッとソファーに座る。


「やはり何か企んでいるらしい。あの狸爺め」

「そうか」

「逆らう気が起きんようにさせてやるか」


 手を動かし、京橋はポキポキと骨を鳴らす。


「お前が行くとややこしくなる」


 デスクから移動しソファーに座った表参道が言った。


「ああいうのは口よりこっちがいいんだよ」


 京橋はフンと腕の力こぶを見せる。


「それは確かにな」


 表参道はフッと笑い、コーヒー(特殊栽培した希少品)を飲んだ。


「なら脅しに行くか」


 京橋はワクワクした顔で言った。


「馬鹿」


 はあーと表参道は溜息をつく。


「何が悪い」

「お前も現実に厳しいのはわかっているだろ」

「はん」


 口を固く結び京橋が腕を組む。


「名古屋の鎮圧、大阪と中国地方への牽制、九州遠征、問題は山積みだ。今は大人しいが、四神しじん(四国連合)、琉球りゅうきゅう(沖縄)、雪原せつげん軍(北海道)もいつ保守から侵攻へと方針を変えるかわからんしな」

「だから完全に屈服させるべきだと言っているんだ」

「その為に大牟田に行ってもらったんだろうが」


 京橋の怒鳴り声を表参道は落ち着いた態度で受け流す。


「反乱は起こらないにこしたことはない」

「それはそうだが」

「命令してなくても大牟田なら反乱を起こす気すら潰してくるさ」

「俺の後輩は出来る男だ」


 自分のことのように誇らしげな顔をして京橋が言った。




「北棟入口異常なし。交代します」


 夜になり見回りを交代する為、隊員達が引き継ぎをしていた。


「了解。お疲れ様でした」


 その様子をダクトの中から神楽坂が見つめる。


「あるとしたら北棟のはず」


 ひとり言を呟きながら神楽坂は匍匐ほふく全身で進んでいく。


 北棟には福島支部のデータが全て管理されているので、神楽坂はまずここを調査しに来ていた。


 データ管理室の上まで来た神楽坂は誰か作業をしていることに気付く。


「本宮?」


 入り口にロックを掛け、黙々と本宮は作業をしていた。




「はい、本宮」


 誰かから通信が入った為に本宮は手を止める。


「ええ、データはバックアップを取って、基地内からは全削除しました」


 どうやら相手は若松らしく、本宮は進行状況を報告していた。


「わかりました。そちらに向かいます」


 通信を切り、パソコンの電源を落として本宮は部屋を出て行った。


 様子を伺いつつ神楽坂は部屋に侵入する。


「くそ、完璧に消去されている」


 あらゆるデータをチェックしたが、問題になるものは見当たらなかった。


「何かあるはず」


 神楽坂はもう一度全てのデータをチェックしていく。


「これは」


 パッと見は普通の隊員の管理名簿だが、データの書式に神楽坂の目が止まる。


 消去されているものの、特殊なプロテクトの痕跡が残っていた。


「見てなさい」


 やる気に満ちた顔で立体映像式のタッチパネルを素早く打ち込んでいく。


「はあ~」


 なかなか復元出来ない自分に神楽坂は苛立つ。


「どうだ調子は?」


 状況を確かめるべく守が通信してきた。


「それらしいのは見つけたんですが、苦戦しています」

「俺も若松管理官に探りを入れたが、駄目だった」

「何とかします」

「無理はするなよ」

「わかっています」


 通信を切った神楽坂は集中し直す。


「やった」


 データの復元に成功した神楽坂は思わず物音を立ててしまった。


「データ管理室から何か聞こえた。中を確認したいので、ロックを解除してくれ」


 ちょうど通りかかった見回りが立ち止まり、中央の司令室へ報告をする。


「まずい」


 入り口から機械音がしたのに気付いた神楽坂は作業を急ぐ。


「こちらデータ管理室。異常なし。気のせいだったようだ」

「ふー」


 間一髪バックアップを取り終わった神楽坂はデスクの隙間に身を隠してやり過ごした。




「それで何かわかったのか?」


 調査を終え、部屋に来た神楽坂に守は訊いた。


「とりあえず見てください」


 そう言って神楽坂は小型メモリーをグラナに差し込んだ。


「これは経理データか?」

「はい」

「特に普通のデータのようだが」

「こうやってコードを打ち込むと」


 神楽坂が操作すると、画面に隠れていたデータが表示される。


「雪原軍に物資を送っているのか?」

「そうです」

「神軍師め」

「本部に連行しましょう」

「いや、それは止めておく」

「なぜですか?」

「そんなことをすれば福島だけでなく、東北全部を敵に回すことになる」

「ですが」


 食い下がる神楽坂を途中で止めた。


「俺に考えがある。任せてくれ」

「隊長がそう言われるなら」

「ご苦労だった。ゆっくり休め」

「はい。では、失礼します」


 まだ言いたげな顔をしていたが、神楽坂は何も言い返さず部屋を出て行った。

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