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戦国都道府県  作者: 傘音 ツヅル
第一部〜始まりの英雄 黒雷編〜
1/55

Record No.001 近未来戦国(1)

 ドドドォオオオオオン。

 ガガーン、ガガ、ガガァアアアン。 

 ドン、ドン、ドドォオオオオオン。 


 激しい轟音が戦場に響く。


 背中にいかずちを持つ男が描かれた黒い軍服を纏った兵士達が武器を手に駆けている。


「隊長。五分で増援が到着予定です」


 側にいた部下の神田から伝令を聞く。


「わかった。全員、五分間守りを固めろ!」


 守は小型無線で隊員に指示を出した。


『了解』


 部下の隊員達が一斉にそれに答える。


 これは外国での紛争などではない。


 正真正銘、日本で起こっている出来事だ。


 西暦二千三百十五年。


 日本は地方別で分裂し、戦争をしていた。


 戦争が始まった原因は十五年前に遡る。


 突然小惑星が地球に衝突し、日本以外の国が海に全て沈んでしまったのだ。


 食糧はもちろん、あらゆる物資を輸入に頼っていた為、日本は困窮していった。


 それに追い詰められた国民による地方別の団体が組まれ、物資を奪い合いだし、最初は小さい小競り合いだったものが、徐々に争いが大きくなっていった。


 今となっては、日本という島国で戦いあう日々である。


 戦争の火種となったのは、当時政権を握っていた国民党代表の発言だった。


「今こそ、日本は強いリーダーのもと真に一つとならなければいけない。ここに、日本の王権制度の執行開始を宣言する」


 何を血迷ったかと大学生だった守ですら感じたのだ。

 

 世の大人たちが黙って従うわけがなかった。

 

 各都道府県の知事たちが東京に集結し討論が繰り返されたが、結局は武力制圧というシンプルな手段が選ばれることになった。

 

 いくら技術が進歩しようとも、人間の中身は同じということだ。


 東京はこれを機に独自の軍隊である黒帝こくてい軍を設立。

 

 ものの数ヶ月で関東、近畿、中部地方を制圧下に治めた。

 

 これに対抗すべく、九州地方を始め各地方も軍隊を設立し、防衛活動を始めた。

 

 結果として各都道府県での戦国時代状態になったわけだ。


 当時、守は付き合っていた彼女に身内がいなかったこともあり、実家に帰らなかった。  

 

 思えば、これが運命の分岐点というやつだった。

 

 戦乱に巻き込まれるように守は恵まれた体格と剣道の腕を買われ、黒帝軍へ入隊した。

 

 実家に帰っていれば黒帝軍に入隊することはなかっただろう。

 

 だが、後悔はしていない。

 

 そう決断したからこそ手に入れたものもあるからだ。


「隊長。武器、弾薬の点検完了しました」


 副隊長の秋葉原が報告をしてきた。


 秋葉原は大柄な体型に似合わず細かい気配りが出来、冷静沈着な性格をしている。


「よし。各自、休息を取れ」

『了解』


 隊員は敬礼をして返事をする。


 守の隊は少数精鋭というやつで、八人構成の部隊だ。

 

 刀や体術を主に使う戦闘スタイルの闘士(とうし)


 銃火器を主に使う銃士(じゅうし)


 グラナという小型PCを主に使う機士(きし)


 例外も数人いるが、多くはこの三種類の兵士で部隊が構成される。


 隊長となって数年経ち、過去に死なせた部下は二名。

 

 部下を死なせたこともあり、自分としては遠慮したが、勲章をもらったこともある。

 

 日本人同士で争っていて勲章も何もあったものではないが。


「あ~面倒くさか~」


 指示を出した後、守は隊長室で事務処理をしていた。


「隊長、よろしいですか?」


 部屋の外から通信が入り、守は気を抜いていた背筋を正す。


「いいぞ、入れ」


 守は自動ドアのロックを解除する。


「失礼します」


 声の主は神楽坂三級兵(銃士)だった。


 軍隊の中でも少数で、守の隊では唯一の女性隊員だ。


「どうした?」


「編成の件です」


 神楽坂の顔は明らかに不機嫌な顔をしている。


「またか」


 つい溜息をもらしてしまう。


 こうやって神楽坂が抗議にくるのは初めてではない。


「どうして私が中衛なのですか?」

「どうしてって、基本の形だろう」


 そうは言ったが、正直なところ嘘だ。


「隊長は私が入る前まで違う編成を取られていたと聞いています」


 神楽坂の言う通り、男だけの隊だったときは黒炎こくえんの陣と異名をつけられるほどの独特の編成と作戦を行っていた。


「私はそれに憧れてこの部隊を希望したんです」


 神楽坂は真っ直ぐな瞳でこちらを見ている。


「わかった。はっきり言おう」


 守も回りくどいのは苦手なので、単刀直入に答えることにした。


「お前が女だからだ」


 半分本当で半分嘘だ。


「差別ですか?黒帝一と呼ばれる大牟田隊長が!」


 神楽坂の顔は、察しはついていたが聞きたくなかったという表情になる。


「失礼しました」

「お、おい」


 神楽坂は話を突然終わらせて部屋を出て行った。


「ふぅ」


 いかり肩で出て行く姿に再び溜息が漏れる。




「隊長、なんかカグちゃんがいつにも増してしかめ面なんですけど。何かありました?」

「まあな」

「僕のカグちゃんにちょっかい出さないでくださいよ~」

「神楽坂はいつお前のモノになったんだ?」


 このうさんくさいプレイボーイ男は渋谷一級兵だ。


「いいから早く準備しろ」

「はーい」


 渋谷は軽いフットワークで自分のロッカーへ戻っていった。


「隊長、大丈夫ですか?」


 秋葉原が隣から声を掛けてくる。


「ああ。すまんが、後でフォロー頼む」


 守は装備を点検しながら頼んだ。


「それはかまいませんが」


 すこし困惑しつつ秋葉原は了承する。


「総員、予定通り、本日は射撃訓練とフォーメーション訓練をやる」


 守は隊員の顔を見つつ訓練内容を伝えた。


『はっ』


 隊員たちは綺麗な返事を返す。


「全員、位置につけ」


 秋葉原が号令を掛ける。


 全員片ひざを地面につけ中腰に銃を構えた。


「射撃開始」


 掛け声とともに射線上に立体映像が出始める。

 

 ギュン、ギュン、ギュンと銃声音が響く。


 十五年前に資源が困窮した黒帝軍は従来の銃火器ではなく、海水をエレルギー源としたレーザー式の武器を開発し、現状はそれを採用していた。


 訓練では実弾ではなく、衝撃だけリアルな空弾になっている。


「やっぱり天才ですね」


 隣で秋葉原が感心しながら頷いていた。


「ああ。そこらの男よりも体力もあるしな」


 守達の視線の先で、神楽坂が黙々と標的を撃ち抜く。


「あいつなら十分に黒炎をこなせると思いますが」

「そういう問題じゃないんだ」

「失礼しました」


 守の渋い顔を見て秋葉原は黙った。


 神楽坂の実力はそこらの男なんかよりも上をいっている。


 だからこそ黒炎をやるわけにはいかないのだ。


「カグちゃん、今日も完璧だったね」

「あなたに言われると皮肉にしか聞こえません」

「え~本心だよ」


 渋谷の軽口に神楽坂が仏頂面で答える。


「あなた、武器をわざと狙ったでしょ。ポイントにならないのに」

「いやいや、買い被りすぎだよ」


「また渋谷が絡んでいますね」


 二人を遠目に秋葉原は守に話掛ける。


「狙撃の腕は軍でもトップクラスなんだが。ったく、あのバカは」

「止めますか?」

「いい。ほっとけ」


 守は呆れて次の訓練の準備を始めた。


「今日は俺と秋葉原のチームに分かれて対戦する」

「はい!」


 秋半ばで少し寒気がする中、守達は野外訓練を開始した。


「俺のチームは神田。残りは秋葉原だ」

「隊長、それは訓練になるんですか?」


 神楽坂が噛み付く。


「いつも公平な戦力での戦闘とは限らないだろ」

「それはそうですが」

「あと、お前は俺に勝って当たり前と考えているわけだ」

「いえ、あの、それは」


 守が微かにかもし出した気迫に、神楽坂は口ごもる。


「他は文句ないな?では、訓練開始」


 守の号令でフィールドにブザーが響く。


「神田。小型偵察機ガッドで敵の位置を確認しろ」


「了解。ステルスモードONっと」


 神田は持っていた荷物から飛び出したガッドを操作する。


「新橋は敵の位置を確認。渋谷は狙撃態勢で待機。早稲田、上野は俺の合図で突撃。神楽坂は俺と先行の二人を支援だ」


 秋葉原が順に命令した。


「副隊長。ここは闘士とツーマンセルでの方がよいのでは?」


 神楽坂が隊員の返事を遮り提案をしてきた。


「いや、今回は正攻法で勝負だ」


 秋葉原はバッサリと却下する。


「いや、しかし」

「カグちゃん。敵さんが来るよ」


 渋谷が、引こうとしない神楽坂の意識を逸らした。


「もう」


 おねだりを聞いてもらえなかった子供のように、神楽坂はふくれつつも銃口を前方に向ける。


「隊長。敵の位置を表示します」

「わかった。お前は待機していろ」

「新兵器があれば支援するんですけどね」

「今日はゆっくり休んどけ」

「了解です」

「さあ、行くか」


 守は一言つぶやいて一気にフィールドを駆け抜ける。


「来たぞ」


 秋葉原が隊員達に注意を呼び掛けた。


「とりゃあああああ」


 上野と早稲田も一斉に守がいる方向へ飛び出す。


「遅いな」


 音声認識で身体速度加速機ブーストを発動した守は、目にも止まらぬ速さで二人の後ろに回りこむ。


「くそ」


 何とか上野は身構えたが遅かった。


「惜しいな上野」


 守は早稲田にボディブロー、上野に回し蹴りを喰らわせる。


「発砲開始」


 秋葉原が銃撃を開始し、神楽坂もそれに続いた。


「いい判断だ」


 守は二人の射撃をかわし物陰に身を隠す。


「さすが隊長」


 渋谷が軽口を叩く。


「皆、警戒しろ」


 秋葉原が緊張した声で指示を出す。


「隊長、見ぃけっ」


 渋谷が撃った弾道をセンサーが感知し、守の肩に電流を走らせる。


「くっ。渋谷か」


 守は力強く肩を叩き、痺れを無理やり誤魔化す。


「まずは渋谷から片付けるか」


 守は走りながら伸縮型の黒刀を伸ばした。


「敵が接近中。渋谷さん、気をつけてください」

「もう遅いみたい」

「チェックメイト」

「降参です」


 新橋のサポートも空しく、目の前に迫る黒刀に両手を挙げて渋谷は降参する。


「これで半分だな」


「ホント、隊長は化物ですね」


 渋谷がやれやれという感じで言った。


「誰が化物だ」


 守も呆れた態度で言葉を返す。


「死人に口なしです」


 渋谷は死んだフリで目を閉じた。


「お前はまったく」


 またも守は呆れる。


「渋谷もやられたか」


 秋葉原は苦い顔をして言う。


「私が特攻します」

「いや、俺が囮になる。お前が隙をつけ」

「ですが」

「俺よりもお前の方が動きが速いだろ」

「わかりました」


 多少ごねたものの、神楽坂は命令を受け入れた。


「神田、もう一度敵の位置を頼む」

「今、表示します」

「ご苦労さん」


 敵の位置を確認した守は気配を消し、二人の背後を取った。


「待っていました」


 秋葉原が振り返りつつ、銃口を向ける。


「遅い」


 守は目にも止まらない速さで詰め寄り、刀で銃を叩き落した。


「おりゃあああああ」


 ダミー人形で位置を誤魔化していた神楽坂が、後ろから守に銃撃を浴びせる。完全に虚をついたはずが、煙が晴れた先に守の姿はなかった。


「くっ」


 背後に気配を察知し、神楽坂は瞬時に銃で刀を受け止める。


「がは」


 力負けした神楽坂は地面に叩きつけられてしまう。


「終了だ」


 守は落ち着いた表情で訓練終了を告げた。


「あ~もう」


 神楽坂は地面に拳を叩きつけ悔しがる。


「お姫様、お手をどうぞ」


 いつの間にか来ていた渋谷が神楽坂に手を差し出す。


「余計なお世話です」


 渋谷の手を取らず神楽坂は立ち上がった。


「つれないな~」


 冷たい態度を取られてもへこたれず、渋谷は後を追っていく。


「完敗です」


 秋葉原が守に話し掛ける。


「お前にしては攻めてきたな」

「隊長相手に守っていても勝てませんし。敵はより手強いと想定しませんと」


 小心者が故に、冷静な対応と細かい分析が出来るのが、秋葉原のいい所でもある。


「全員、明日はしっかり休めよ。明後日からは遠征任務だからな」


『了解』


 隊員達は背筋を正して返事をした。

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