決勝戦 一神対四家6
「……?」
私の言葉に四家は小首を傾げる。
指名を受諾する。
分かろうが分かるまいが、理解しようが理解できまいがどうでもいい事だ。
全てが終れば……死を迎えれば何も考えることなどない――考えることなど出来なくなるのだから。
私と四家は同時に駆け出した。
互いに前に出る状態での突きは危険だ。避けられ、引き戻す前に懐に入られる可能性がある。私は攻撃を突きから、斬り上げに変える。
距離が近づいた瞬間切っ先を下げ、一気に振り上げる。しかし、四家はその動きを読んでいたかのように、急停止し攻撃を空振りさせ、私の懐に潜り込む動きをみせた。
速い。
そして何よりも私を驚かせたのは……動きを読んだことだった。
なぜだ?
私には音も気配も無い。攻撃を見て反射で回避することなら出来るだろうが、読んで行動することなど不可能なはずだ。
なぜだ?
なぜ四家には私の攻撃が分かるんだ?
「……ッ!」
私は声を漏らし、切り上げた刀を力で停止させ、筋に痛みを感じながらも刀を振り下ろす。
四家はそれを二本のナイフを揃えて、力負けして弾かれないようにしながら受け流し、懐に潜り込む。
その時私の耳には四家が口ずさむ歌が聞こえた。
歌?
どこか聞いた事のあるメロディの、知らない歌を四家は口ずさんでいた。
私は……どこでこの歌を聞いていたんだ?
懐に潜り込んだ四家が私のわき腹に刃を突き立てるようにナイフを振るう。
余計なことは考えるな。
私は橘社長の傀儡。
黒百合でもっとも強い人形だ。
私なら懐に入られても対処できる。
腰を引きながらつま先で地面を弾き後ろに飛ぶと、ナイフが空を切った。
避けれた。
そう思った瞬間下からぞわりと、今まで感じたこともないような得体の知れない気配を感じた。
すぐさま視線を落とし下を見ると、逆手のナイフが迫ってきていた。
「くっ!」
首を傾け避けようとするが、頬をナイフの刃が掠っていき、眼鏡を弾き飛ばした。
さっきとは違い今度は私の血が血飛沫となり飛んでいく。
その一滴一滴が鮮明に僕の目に焼きつく。
嫌な色が、嫌な形が飛んでいく。
見たくない。見たくないのに、僕の目はそれを静止画で見ているかのように完璧に捉えてしまう。
見たくない?
なぜ私はそんなことを考えたんだ?
「痛ッ!」
後ろに下がりながら、僕は片手持ちした刀の切っ先を四家に向けながら、傷口に手を当てる。
生ぬるさとべとっとした感触が手に伝わるが傷は深くない。
戦いには支障がない。
なのに……僕は……。
四家が頬を押さえる僕を不思議がった目で見てくる。
「やっぱりだ。……一神君は……どうして泣いているの?」
泣いている? 僕が? 僕? どうしてだ? 僕じゃなく私のなのに……なぜ私は自分の事を僕なんて言ったんだ?
頬を押さえた手で目に触れて見るが、涙は出ていなかった。
「私は泣いていない」
言い返すと四家は首を左右に振った。
「泣いているよ。最初っからずっと。えんえん、えんえん泣いているよ……心が……」
「僕が……泣いている?」




