第三回戦 零対百鬼
「馬鹿やろうが……」
俺は呟き髪の毛を掻き毟る。あぁ、イライラする。
イライラしてしょうがねえ。
俺は……俺が嫌いだ。
口先だけの何も出来ねえ俺が。
「五郎丸はもう戦えない。脱落だ」
自分で潰しといてぬけぬけとよく言えたもんだな。こいつもイライラさせやがる。
「一神! 四家! こいつは俺が殺す。異論はないよな?」
「ありません」
一神が五郎丸が刺されたことにも全く動じずに、機械的な無感情な声を出す。
「ないよ」
四家が答えた。四家は四家で少し気だるそうな声を出していた。やはり心配した感じはしなかった。
「チッ!」
俺は舌打ちし、百鬼を見据える。こいつはもう教師でも何でもねえ、殺すべき殺人鬼だ。
「百鬼。今から俺がお前を殺すが何か言いたい事はあるか?」
「言いたいことか……それなら言わしてもらおうか。やめておけ。死ぬぞ」
俺はジャケットの内側に縫い付けられたホルスターからナイフを一本ずつ取り出し、人差し指と中指を刃に添えるように持つ。
「これ以上俺をイラつかせるなよ」
フッと息を強く吐き、両手を後ろに突き出し駆ける。
間合いが近づくと百鬼が踏み込み突きを放ってくるが、俺は体を捻りかわしながら一本のナイフを百鬼の首筋目掛け手首のスナップを利かせ投擲する。
百鬼は投げつけられたナイフを人差し指と中指で挟み込み受け止める。
「……ッ!」
やはりこれくらいじゃダメか。
床に手を付き俺は体勢を下げ後ろに飛び下がる。
「フッ。フハハハ。やっぱりお前は強いな」
声を出し笑いながら、掴んだ俺のダガーを放り投げ、グリップを掴み直す。
「俺はお前が二代目になると予想していたんだぞ」
百鬼の言葉で俺はいやな仮説が頭に浮かんだ。
「だから……八王寺を殺したのか?」
「……腕も立って頭も切れる。お前なら良い二代目になれたのに……なんでそんなに青いんだ?」
百鬼は悲しそうな目を俺に向けてくる。
「青い? 俺のどこが青いって言うんだ?」
ナイフをもう一本取り出し構える。
「それが分からないなら……多少教育してやらないといけないな」
俺のダガーを投擲すると同時に駆け出す。迫り来るダガーを弾くと、下から切り上げるように振るってくる。その攻撃をナイフの刃で受け止める。金属がぶつかり合う音が、コンクリートに囲まれた部屋に響く。
「少しは質問に答えろよ……なんで八王寺を殺した……」
「分からないのか? あの女ではヒルイさんの跡を継ぐのには力不足だった。今回の候補者の中で実力がありなおかつ才能もあったものは五人だけだ」
俺は受け止めたナイフから手を離し、体を捻り、刃の軌道から逃れながら残ったもう一本のナイフを振るう。百鬼は後ろに飛び俺から距離をとる。
「五人って言うと……俺と一神と四家と二ノ宮と……三月か?」
百鬼に殺されはしたが三月の才能は確かなものだった。二刀流をあそこまで自在に扱える男はそうは居ないだろうな。
「なんで三月を殺した?」
この質問の答えでこいつが俺を後継者にしたい理由が分かる筈だ。
「なぜか。それはあいつがヒルイさんを侮辱したからだ。多少腕に覚えがあるとは言え、死屍柴ヒルイを超えたなんて言っていい筈がない。あいつはヒルイさんを……神を侮辱した。だから俺がヒルイさんの変りに罰を与えたんだ!」
そう語る百鬼の顔には怒りの色が現れていた。
ああ、そう言えば二ノ宮がこいつは二面性が有りそうと言っていたが、どうやら間違いはないようだな。こいつは審判と言う中立な立ち居地を演じながらも……死屍柴ヒルイの後継者にふさわしくない人間を切り捨てていた。
三月は死屍柴ヒルイを侮辱したから、八王寺は死屍柴ヒルイになる腕がなかったから殺された。
こいつは狂っている。死屍柴ヒルイと言う人間を狂信しているんだ。
「なあ、なんで二ノ宮を犯人に仕立て上げようとしたんだ?」
「分からないのか? ヒルイさんの名を継ぐものは完璧な人間でなければならないんだ。強さも知識も人間性も偉大でなくてはならない。けれど……二ノ宮は強さだけはあっても快楽殺人者だ。あんなやつがヒルイさんの二代目になってしまえば、死屍柴ヒルイの名が穢れる」
百鬼はスーツの裏からまた二本のナイフを取り出した。
「殺してやっても良かったんだが、あいつと殺り合えば多少の怪我は覚悟しなければならないだろう。けれど、それじゃ俺の犯行とばれて、この二代目が決る場に俺がいれなくなってしまうだろうな。それじゃ、困るんだ。俺は二代目が生まれる場を見届け……そして……その従者になるんだからな!」




