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死屍柴ヒルイの後継者  作者: 也麻田麻也
ホームルーム
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ホームルーム4

「次四番お願いします」


「……うん」

 四番は椅子から立つとゆっくりと教卓に向ってきた。

 来た。謎の四番。

 資料を読み過去の経歴から四番にふさわしくはあったが、それを打ち消すほど写真に衝撃を受けた。


「おい。なんでガキがいるんだよ。ここは小学校じゃねえぞ」

 一際背の高いやつが罵るように言った。


「止めなさい。彼女は十五歳。れっきとした十大組織の代表後継者候補です」


 そう言いつつも、四番を罵りたくなる気持ちは分かった。四番は身長百五十二センチと、今回の後継者の中で最も小柄であり、最年少の子だ。

 髪型は黒髪のセミロングで、こめかみの部分に交差するようにヘアピンが挿してあった。容姿は子供といっても過言ではないほど幼かった。資料によると高校一年生らしいが、制服を着ているというのに中学生か、下手したら小学生に見えた。


「……スカート。歩きにくい」

 ナマケモノのようにゆっくりと歩いてくると、スカートの裾をつまみ言った。二ノ宮のように短いスカートではなく、四番は膝丈のいたって高校生らしい長さのスカートだ。リボンもきちんと付けている。


 教卓の上に手錠を置く。手錠はヘアピンを使い開けたんだろうか、ロックが外されていた。


「それじゃあ、武器を持ってきます」


「うん」


 四番のボストンバックを教卓にあげると、候補者達は食い入るように見てきた。

 そりゃそうだろう。こんな子供にしか見えない子がどんな武器を使うのか……こんな子供にしか見えない子がどんな武器を使えば、死屍柴ヒルイの後継者候補になれるのか、興味心身なんだろう。

 

 ジッパーを下げ中から二本のナイフを取り出す。二本ともナックルガードの付いたハンティングナイフのようだが、グリップの部分が細く湾曲していて握りやすそうになっていた。ブレードの長さは二十センチはありそうで、この細腕で扱えるかどうか疑問である。


 教卓の上にナイフを置くと、四番はナックルガードに指を通し持った。


「……重い」


 重いんだ。本当にこの子が四番なのか? 書類が間違っているんじゃないかと思えてきた。


「それじゃあ、名前を発表します。四番は『四家』。四つの家で四家です」


「短いから覚えられそう」

 ナイフが重いのか、ゴルフバックにしまいながら四家は言った。


「それじゃあ、席に戻っていいぞ」

 四家が戻るのを確認し、五番に視線を送る。次はこいつか。少し気合を入れないといけないな。

「五番来なさい」


「うぃっす」

 返事をし五番が立ち上がると、急に教室が小さくなったように錯覚した。


 四家に茶々を入れた一際背の高い男が五番だ。

 年齢は十八歳で髪型は金髪の坊主頭だ。両耳には十字架のピアスがしてある。制服の下はぶかぶかのズボンで、上は素肌の上にジャケットを羽織っている。その露になった腹筋胸筋は、まるでギリシャ彫刻の英雄のように逞しく、バタフライナイフくらいなら防いでしまいそうだった。

 そして五番最大の特徴は、百九十四センチの長身だ。日常生活ではなかなかお目にかかれないその長身を前に俺は気圧された。凄まじい威圧感だった。


 五番はポケットに手を突っ込むと、教卓の上に二つの丸い鉄の塊を置いた。


「……嘘だろ」

 これの正体を理解し、俺は思わず声をあげた。


「言っただろ、俺には猛獣用の鎖くらいじゃないと駄目だってな」


 置かれたのは握り潰され圧縮された手錠の残骸だった。鉄の塊を引き千切るだけでも凄いというのに、こいつは握り潰したと言うのか? どれだけ握力が優れているんだ。


「なあ、先生。武器を運ぶの手伝ってやろうか?」

 五番は俺ににやけた笑みを送ってくる。


「結構。今、持ってくる」

 俺はこれ以上舐められちゃいけないと思い、提案を断った。こいつが言いたい事は分かるが、ここは俺ひとりでやらねばならない所だ。


 金庫から五番のゴルフバックに手を伸ばし、力を込め片手で持つ。


「クッ!」

 歯を食い縛り持ち上げ、教卓の上に放り投げるように置くと、ドゴォッと音が鳴った。


「へえ、片手で持てるなんてやるじゃん」


 褒められはしたが嬉しくもなんともなかった。確かに持てるが、こいつはこれを片手で楽々と振るう。ジッパーを開ける。この四十キロある鉄の塊を。中に納められた武器を両手で持ち、五番に渡す。

 教室の空気がピシッと張り詰めたのが分かった。

 今までは武器からその人物の技量を予測するのが難しかったが、今回は見たままだった。五番の武器は一メートル五十センチほどの長さのウォーハンマーだ。見た目は巨大な金槌のようだった。鎚頭の片方はくぎ抜きに似せて作られている。

 しかしそれ以上にこのハンマーの異質さを物語っているのは鉄で出来た柄だ。つまりこの武器はほぼ全て鉄製の化け物のような武器だということだ。常人どころか、裏の世界のプロでもこれを振るえるような人物は数少ないだろう。それをこの五番は片手で軽々と振るうらしい。まさに化け物だ。


 五番はハンマーを肩に担ぐ。

「それで俺の名前は何になったんだ? カッケ―といいな」


「お前の名前は、『五朗丸』。五に朗読の朗に丸いの丸だ」


「なあ、その朗を狼に変えちゃダメか?」

 ハンマーをまるで肩叩きのように肩に打ちつけながら聞いてくる。


 普通は肩甲骨も鎖骨も折れるだろうが、骨も頑丈なのか、筋肉の鎧が守っているのか、痛がる様子はなかった。


「これは決ったことだし、変えたところで明後日には使わなくなる名前なんだから、どっちでもいいだろ」


「それもそうか」

 納得したように語り、ゴルフバックに手を伸ばすと、候補者達に向けにやけた笑みを作った。

「どいつもこいつも貧相なチビや餓鬼ばかりだな。俺が楽しめそうなやつが二人しかいねえ。俺と当たったら、少しは楽しませるように凡人なりに頑張ってくれや」


「……五朗丸。席に戻りなさい。それから、過剰な挑発が目に余るぞ」


「へいへい。そりゃあすいませんっしたね」


 五朗丸が席に戻り、にやけた笑みを送ってきたが、俺はそれを無視し、六番に視線を送る。


「六番来なさい」


「言われなくても分かっています」

 六番は俺に冷めた目を向け立ち上がると教卓に向ってきた。歩いてくるまでの間に三月と一神をじろりと睨んだ。この二人と過去何かあったんだろうか。名簿には何も書いていなかったが、揉められるのも進行の妨げになるので少し注意していた方がよさそうだな。


 六番は教卓の上に手錠を置く。手錠はロックが開けられていた。


「ふん。ちぎってやっても良かったんですが、手に痕が付くのも嫌だったんでね。ベルトの金具を使わせてもらいましたよ」


 どうやって開けたのかなんて、聞いてもないのに答えてきた。

 これは五朗丸に対する劣等感を抱きたくなくて言った言葉だろうか、六番の資料には引きちぎるような力があるようには思えなかった。


 六番は目に掛かる長さの茶髪で、髪の手入れを怠っていないのか、歩くたびにサラサラと揺れ、まるで絹糸のようだった。制服も着崩す事無く身に纏っていて、十九歳と言う年ながら良く似合っていた。

 身長は百七十四センチといたって普通だが、それなりには腕力はある方だろう。美形と髪型もあいまってか育ちのよさそうな雰囲気を出しているが、その目だけは周りを蔑むような目をしていた。五朗丸はほとんど自分の相手にならないと言い笑ったが、六番はそれ以上に周りを自分以下と評価しているようだった。しかし育ちを考えればそれも頷けるかもしれないな。


「武器を持ってくる」


 金庫から六番のゴルフバックを取り出すと、羽のように軽く感じた。さっきのウォーハンマーと比べてだけれどな。


 教卓に置き武器を取り出す。それは刃渡り八十センチほどの反りの高い日本刀だった。白い鞘に金箔が貼られた高級そうな鍔。柄は金糸銀糸で竜が描かれている。一振り何百万もする高級品だろう。俺が手渡すと、六番は一息で引き抜いた。ピシッと教室に緊張が走る。


「おい! ここで抜刀するんじゃない! すぐしまえ!」

 腰に手を当て、いつでも特殊警防が抜けるようにし言った。


「失礼。ただ無知な候補者達に教えてやりたかったんですよ。この刀がただの装飾の施された刀ではないってね。これは紅花商会作の童子切のレプリカですよ。レプリカですが、製作条件は童子切を超えることです。童子切は六人の罪人の首を一振りで落とし、土台まで斬り裂いたようですが、この新童子切は、重ねた八人の首と、土台を斬りおとしました。他の候補者のちゃちな刀なんて木刀のように楽々と真っ二つに出来ますよ」

 蔑む目を候補者達に向けると、満足したかのように刀を納めた。


「……六番、次にやったらそれなりの処分を下すぞ。他の候補者もだ。武器を決められた時以外出す事を禁じます」


「……分かりましたよ」

 俺に出来るものならやってみろと言った挑発的な目を向ける。

「それで、僕の名前はなんですか?」


「……『六波羅』。六に波に羅刹の羅で六波羅だ」


「六波羅ですか。いい名前ですね」

 と言うと六波羅は席に戻った。嫌な奴だな。仕事でもなければかかわりたくないタイプだ。俺は怒りがふつふつと湧いてきたが、我を忘れてはいけない、俺は今、中立の立場なんだと自分に言い聞かせ、次の七番に視線を送る。

 三列目の一番前に座る、坊主頭の男に。

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